第16話 沈黙の街
第16話です。
「沈黙の街」では、黒衣の男の背後に潜む“王国の影”が明らかになります。
そして、シン=アルバートたちは初めて“風を封じる組織”の存在を知ることになります。
風を封じる呪い、それを赦す導き手――新たな局面の始まりです。
風が戻った町レシアには、久しぶりの笑い声が響いていた。
子どもたちが通りを駆け回り、家々の旗がゆっくりとたなびく。
――それは、ほんの数日前まで“息をしていなかった”街の姿だった。
「やっぱり、風があるってだけで人は生き返るもんだな。」
シン=アルバートが屋台のパンを頬張りながら言った。
「この数日で、町の雰囲気が全然違いますね。」
レオンは笑顔で記録帳にペンを走らせる。
「風の回復後、経済活動・笑顔率ともに上昇――っと。」
「……笑顔率って何の単位だよ。」
シンが苦笑すると、エリシアがそっと視線を上げた。
「でも――まだ、完全には戻っていません。」
「え?」
「風の“音”が少し違うんです。何かが混じっています。」
シンはパンを飲み込み、表情を引き締めた。
「……混じってる?」
「はい。風の流れの奥に、“沈黙の層”があるんです。」
「沈黙の層……。」
レオンが眉をひそめた。
「まるで、風の中に“影”が潜んでるような?」
「多分、それです。」
エリシアの瞳が深く揺れた。
「黒衣の風使いが残したもの――“影の風”。」
⸻
夜、三人は教会跡に集まっていた。
南風が止まり、街全体が不気味な静寂に包まれる。
「確かに……変だな。」
シンが笛を軽く吹くと、音は鳴った。
だが、風が動かない。
まるで“聞いていない”ように、空気が無反応だった。
「……風の反応がない。」
「ええ。まるで、“風そのものが拒絶している”ようです。」
その時、足元の砂が小さく震えた。
風ではない、脈動。
地中から、低くうねるような音が響く。
「……何だ?」
レオンが灯りを向けると、
床に刻まれた紋様が光っていた。
「これ……王国の紋章じゃありません!」
エリシアの顔が蒼白になる。
「“封風陣”――風を沈黙させる禁呪です。」
「つまり、風を封じてたのは黒衣の男だけじゃない。」
シンが目を細めた。
「……王国の中枢が関わってる。」
レオンが息を呑んだ。
「国が……風を封じた? 何のために?」
「秩序と管理のためだろう。」
シンの声は冷たかった。
「どこの世界も同じだ。“流れ”を止めたがる奴は上に多い。」
「でも……風は命そのものです。」
エリシアの声が震える。
「そんなこと、神が許すはずありません!」
「神が沈黙してるなら、俺たちが声を上げるしかない。」
シンは笛を強く握りしめた。
「風は止まってるけど、まだ“感じて”いる。
だったら、こっちから話しかけるだけだ。」
彼は笛を唇に当てた。
一度目は音にならず、空気に溶けた。
二度目――かすかな風が指先を撫でた。
「……聞こえてるな。」
三度目。
音が鳴り、封風陣の光が揺れる。
石の隙間から風が漏れ出し、教会の中を駆け抜けた。
“ゴォォォ――”
冷たい風が吹き抜け、
まるで“沈黙の記憶”を吐き出すように、壁が震えた。
「成功……?」
「いや、まだだ。」
シンが額の汗を拭う。
「これは“封印の解除”じゃない。――“誰かが見てる”。」
風の流れが一点に集まり、影が形を取った。
それは黒いローブを纏った女の姿。
虚ろな瞳、微笑にも似た冷たい表情。
「……あれは?」
「“影の継承者”です。」エリシアが息を呑む。
「風を封じた術者の意識が、呪いとして残った存在……!」
「まさか、風そのものに“呪い”を仕込んでるのか。」
「風を沈黙させ、永遠に神を遠ざけるために。」
影が口を開いた。
その声は風のざわめきそのものだった。
「風は神のもの。人が触れるな。」
「違うな。」
シンは一歩前に出た。
「風は神の贈り物だ。
人が使うためにある。止めるためじゃない。」
笛が光を放ち、風が再び動き始める。
影が一瞬、怯む。
「お前は……導き手……か。」
「そうだ。だから俺は、お前を赦す。」
光が走った。
風が渦を巻き、影が霧のように消えていく。
教会の鐘が鳴った――まるで、誰かの魂を送るように。
エリシアは涙を拭いながら祈った。
「沈黙の街が、ようやく風を取り戻しました……。」
「まだ序章ですよ。」
シンは空を見上げた。
「王国が風を封じていたなら――この先、もっと深い風の闇がある。」
レオンが頷く。
「それでも、僕たちの風は止まりません。」
「当然だ。俺たちは――“風の通し屋”だからな。」
風が三人の頬を撫でた。
その音は静かだったが、確かに生きていた。
お読みいただきありがとうございます。
第16話「沈黙の街」は、南風編の核心部に入りました。
この回でついに“風封じ”という国家的な陰謀が浮かび上がります。
次回、第17話「風を喰らう者」――
封風陣を作り出した本当の敵、“風を食う存在”が姿を現します。
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