第14話 北風の誓い
第14話です。
「風の神殿」がついに登場し、シン=アルバートが“導き手”として正式に認められる章。
風を「制す」でも「使う」でもなく、「赦す」ことで真の理解に至る――
この物語全体の核心に触れる重要な回です。
谷を抜けた先には、北の荒野が広がっていた。
風は冷たく、肌を刺すように鋭い。
だが、その冷たさの奥に、どこか清らかな力を感じる。
「この風……真っすぐですね。」
エリシアの銀の髪が、北風に揺れた。
シン=アルバートは頷く。
「まるで、自分の意思で吹いてるみたいだ。」
レオンが地図を広げた。
「この先に“風の神殿”と呼ばれる遺跡があります。
ただ、正確な位置は記録に残っていません。」
「つまり、“風任せ”ってやつか。」
「まさに、ですね。」
三人は笑い合いながらも、どこか緊張していた。
空気が澄みすぎている――静寂の中に、何かの“予感”があった。
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やがて、雪が混じるほどの冷たい風が吹き始めた。
レオンが身を縮める。
「北風が強い……!」
エリシアは目を閉じ、祈るように手を組んだ。
「この風、怒ってはいません。ただ……試している。」
「試してる?」
「ええ。“風を導く資格があるか”――そう問いかけています。」
シンは苦笑した。
「上司の面接みたいなもんだな。
“お前、どれだけ風を理解してる?”ってやつだ。」
エリシアが微笑んだ。
「なら、あなたは合格間違いなしですね。」
「いや、俺はいつも“理解しすぎて煙たがられる”タイプでした。」
冗談を交わしながらも、シンは前を見据えた。
風の流れが変わる――北から吹く冷気の中に、
微かな“音”が混じっていた。
笛のような、声のような、誰かの囁きのような。
「……聞こえるか?」
「はい。風が“呼んでいます”。」
その瞬間、目の前の雪原が割れた。
風が渦を巻き、地中から巨大な石造りの柱が姿を現す。
柱には古代文字が刻まれ、風に合わせて光が走った。
「これが……“風の神殿”……!」
レオンが息を呑む。
エリシアは両手を胸に当て、静かに祈った。
「ようやく、辿り着きました。」
シンは柱に触れた。
石の冷たさの奥に、温かい脈動を感じる。
「生きてる……この神殿自体が、“風の記憶”なんだ。」
風が渦を巻き、三人の周囲に光が舞う。
耳の奥で、誰かの声が囁いた。
“風を導く者よ――その心、澄んでいるか。”
「……質問か。」
「え?」エリシアが顔を上げる。
「どうやら、この神殿は心を試すらしい。」
“風を制す者ではなく、風を赦す者こそ、導き手と呼ばれよう。”
その言葉を聞いて、シンは静かに息を吐いた。
「制すでもなく、操るでもなく、赦す、か。
……風も人間も、同じなんだな。」
エリシアが微笑んだ。
「あなたの中の風が、答えを知っているんです。」
「なら、その風を信じるしかないですね。」
風が一層強く吹き、三人の髪を舞い上げた。
白い雪が光に包まれ、神殿全体が淡く輝き出す。
やがて光が収まると、柱の根元に小さな紋章が現れた。
それは、風の翼と人の手が重なった形――“誓いの印”だった。
「これが……神殿が認めた者の証。」
エリシアの声が震える。
「あなたが、“風の導き手”です、シン。」
シンは苦笑し、手のひらを見た。
そこには風の紋が刻まれていた。
「導き手、ね。責任重大だな。」
「ええ。でも……あなたなら大丈夫です。」
エリシアの微笑みが柔らかく、どこか切なかった。
「これが、あなたと風、そして私の――“北風の誓い”です。」
冷たい風が二人の間を通り抜けた。
けれど、その風は不思議と温かかった。
お読みいただきありがとうございます。
第14話「北風の誓い」では、“風の神殿”の出現と“導き手の証”が描かれました。
物語はここで第1章の締めくくりを迎え、次章「南風の影」へと移ります。
次回、第15話「南風の影」――
ガルディアの南方で起きる“逆流現象”の再来。
そして、風を歪める真の黒幕が姿を見せ始めます。
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