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第12話 風の赦し

第12話です。

戦いの後の静かな章――「風の赦し」。

ヴァルス将軍との対話を通じて、シン=アルバートの「戦わない強さ」が描かれます。

風は人の心と同じ。止めれば濁り、流せば澄む。

この物語の“根幹”に触れる大切な一話です。

崩れた塔の残骸の上で、風が静かに流れていた。

先ほどまで荒れ狂っていた空は晴れ渡り、

淡い光が雲間から差し込んでいる。


「……やっと、呼吸が戻りましたね。」

エリシアの声は穏やかだった。

その横で、シン=アルバートは瓦礫をどかしながら、

地面に横たわるヴァルスを見下ろした。


将軍は鎧の隙間から血を滲ませながらも、まだ息があった。

「……とどめを刺さないのか?」

「そんな趣味はありませんよ。風も、人も、縛るより流した方が楽です。」


ヴァルスは苦笑し、空を見上げた。

「皮肉なものだ。自由を恐れ、秩序を信じて……

 気づけば、何も見えなくなっていた。」


シンは少し黙ってから、膝をついた。

「俺も似たようなもんですよ。

 前の世界じゃ“空気を読む管理職”なんて呼ばれてました。」


「……何だ、それは。」

「つまり、自分の意見を飲み込んで、

 波風立てないようにするのが仕事だった。」


「それは……苦しいな。」

「でも、無駄じゃなかった。

 あの時、誰かの小さな風を守ってやれた気がする。」


ヴァルスは静かに目を閉じた。

「……風を守る、か。

 お前は本当に、風そのもののような男だな。」


シンは立ち上がり、風の流れを感じた。

穏やかで、暖かく、まるで赦しのようだった。


エリシアがそっと近づく。

「彼を……助けます。」

「いいんですか? 敵ですよ。」

「風は、敵味方を分けません。

 ただ、流れるべき場所に戻るだけです。」


聖女の手が淡く光り、

ヴァルスの傷口がゆっくりと癒えていく。

彼の胸が上下し、かすかに息が整った。


「……聖女様……なぜ、私を……?」

「あなたもまた、風を信じていたからです。

 ただ、少し進む方向を間違えただけ。」


ヴァルスの目から涙がこぼれた。

「……風が、優しい。」

「あなたが優しくなったんですよ。」

シンが笑う。


しばらく沈黙が流れた。

風が塔の跡を抜け、草を撫で、遠くの空へと消えていく。


「これからどうするんですか?」

「軍には戻れん。……だが、せめて償いたい。

 風を封じた者として、風の解放に尽くそう。」


エリシアが微笑んだ。

「それが、あなたの“赦し”ですね。」


ヴァルスは深く頷いた。

「そうだな。――ありがとう。」


シンは背を向け、丘を見上げた。

「行きましょう。次の風が、呼んでます。」


「どこへ?」

「北西。山岳地帯に、奇妙な“逆流風”があるらしい。」

「また厄介そうですね。」

「俺の人生、大体そんなもんです。」


三人は歩き出した。

解き放たれた風が彼らの背中を押す。

その風にはもう、怒りも痛みもなかった。

ただ、静かな“赦し”の音だけが残っていた。


お読みいただきありがとうございます。

第12話「風の赦し」は、力ではなく理解で人を救う回でした。

シンの言葉のひとつひとつに、社会人としての人生観が滲み出ています。


次回、第13話「逆流の谷」では、

風が上にではなく“下へ流れる”という異常現象が発生。

新たな地形、試練、そして“風の異端者”が登場します。

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