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第11話 風を縛る者

第11話です。

ガルディア王国で初めて明確な“敵”が登場します。

風を力として支配しようとする者と、風を導こうとする者。

シン=アルバートの“仕事人としての信念”が光る回です。

灰色の雲がガルディアの空を覆っていた。

風は鈍く、重く、まるで何かに押し止められているようだった。


「空気が……止まってる。」

シン=アルバートは呟いた。

風の流れが乱れている。自然の“呼吸”がどこか不自然だ。


隣を歩くエリシアが眉を寄せる。

「この感覚、嫌ですね。風が……怯えてる。」

「風が怯える、か。まるで人間みたいだな。」


「ええ。でも、風は感じるんです。怒りも、悲しみも。」

「……なら、この風は怒ってる。」


二人の足元に、書類を抱えたレオンが駆け寄ってきた。

「報告です! 北部要塞で“風の封印”が行われているとの情報が!」

「封印?」

「はい。王国軍が、新型の魔導装置で風を固定しているらしいんです!」


シンは眉をひそめた。

「風を……固定? そんなこと、してどうする。」

「防御壁に利用するそうです。

 風を閉じ込めて動かせば、城壁を守る障壁になると。」


「なるほど。まるで、組織で有能な人材を抱え込んで腐らせるみたいだ。」

「……それ、経験談ですか?」

「まぁな。」


軽口を叩きながらも、シンの目は真剣だった。

「風は本来、流れてこそ価値がある。

 それを止めようなんて、ろくな結果にならない。」


「行きましょう。」

エリシアの声が静かに響く。

「止めなければ……風が泣きます。」



三人が要塞に近づくと、地響きのような低音が鳴り響いていた。

巨大な金属の塔が丘の上に立ち、青白い光を放っている。

塔の周囲には王国兵が警備し、風はその塔に吸い込まれていた。


「……まるで風を牢屋に閉じ込めてるみたいだな。」

「人の技術とは、時に残酷ですね。」


その時、兵たちの中から一人の男が現れた。

黒い軍服、冷たい瞳。

「貴様ら、何者だ。」


レオンが息を呑む。

「……あの人、元上官のヴァルス将軍です。」


シンは軽く目を細めた。

「“風を縛る者”って顔してるな。」


ヴァルスは静かに歩み寄り、三人を見下ろした。

「風は危険だ。制御できぬ力を野放しにしておくことが秩序を壊す。」

「なるほど。会社で“自由な意見は混乱を招く”って言うタイプだ。」

「黙れ。」


ヴァルスの指が動くと、塔から風の束が伸びた。

鎖のような気流がシンたちを絡め取る。


「……風を鎖にするとは。」

「秩序のためだ。お前のような異端者は必要ない。」


エリシアが叫ぶ。

「風は命を運ぶものです! あなたの道具ではない!」

「理想だな、聖女。現実を知らぬ者の戯言だ。」


シンは笑った。

「現実を知ってるからこそ、理想を語れるんだよ。」


その瞬間、彼の周囲に風が集まった。

鎖のように縛られていた風が、一瞬のうねりで反転する。


「……何?」

「お前、風を縛ることしか知らないだろ。

 でも俺は、“風を通す”のが仕事なんだ。」


シンが右手を突き出す。

風が爆ぜ、鎖が弾け飛ぶ。

青い光が空を切り裂き、塔の上部を貫いた。


ヴァルスはよろめきながら後退した。

「貴様……何者だ……!」

「ただの“元サラリーマン”ですよ。」


塔が崩れ、風が一気に解放される。

その風は怒りでも破壊でもなく――

自由を取り戻した風だった。


エリシアが両手を広げ、祈りを捧げる。

「女神よ、どうかこの風に安らぎを。」


風が光を纏い、空一面に広がっていった。

鎖の音が消え、ただ、心地よい風の音が残る。


ヴァルスは膝をつき、呆然と空を見上げた。

「……風が……笑っている……。」


シンは静かに呟いた。

「笑わせてやればいいんですよ、どんな風でも。」


そして、三人はその場を後にした。

再び吹き始めた風が、彼らの背を押していた。


お読みいただきありがとうございます。

第11話「風を縛る者」は、物語の核心に一歩踏み込む戦闘回でした。

“風を通す男”シン=アルバートの哲学が、初めて真っ向から示されます。


次回、第12話「風の赦し」では、

戦いの後に残る傷と、人の赦しをテーマにした静かな回になります。

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