第10話 ガルディアへの風
第10話です。
新たな舞台「ガルディア王国」編が開幕。
閉ざされた国、重い空気、そして“風を武器にする者”の影。
シン=アルバートとエリシアに、新たな仲間レオンが加わります。
風が導く第二章の始まりをお楽しみください。
ガルディア王国への街道は長く、乾いた風が絶えず吹き抜けていた。
シン=アルバートと聖女エリシアは、
木製の馬車に揺られながら北へ向かっていた。
「この国、風が重たいですね。」
「ええ。女神の加護が弱まり、風が迷っているんです。」
エリシアの言葉に、シンは頷いた。
「つまり、上層部が現場を放置してるってことか。」
「上層部?」
「……いや、こっちの話です。」
彼は笑いながら外を見た。
荒野の向こうに、鋭い山々が連なり、
その頂には灰色の雲が渦を巻いている。
「見えますか? あれがガルディアです。」
「うわぁ……風通し、悪そうだな。」
エリシアがくすりと笑った。
「王国は閉鎖的なんです。
他国からの人間は“風見人”と呼ばれ、常に監視されるとか。」
「歓迎されてない出張先ですね。」
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城門をくぐると、
街は石造りの建物と狭い路地で構成されていた。
人々は皆、風を避けるように肩をすくめて歩いている。
「……活気がないな。」
「ここでは“風は神の怒り”とされているのです。」
シンは小さく息を吐いた。
「風を悪者扱いか。前の会社と同じだな。」
「会社?」
「いや、たとえ話です。」
その時、後方で怒号が上がった。
「そこをどけッ!」
荷車を押していた青年が転倒し、木箱が転がる。
中から風に乗って紙片が舞い上がった。
「すまない!」青年が慌てて拾おうとする。
シンは反射的に風を操り、
紙をひとまとめに集めて青年の前に差し出した。
「ほら、全部ありますよ。」
「え……あなた、今……?」
青年は目を丸くした。
「風を、操った……?」
「まぁ、ちょっとした特技です。」
青年は目を輝かせた。
「もしや、あなたが“風の導き手”……!」
「誰に聞いたんです、それ。」
「この国に噂が届いています。
聖女を連れ、暴風を鎮めた“風の男”が北へ向かったと。」
「……情報の風も速いな。」
エリシアが微笑む。
「風は噂も運びますから。」
青年は深く頭を下げた。
「私はレオンと申します。元は王国の文官でした。
ですが、真実を語ったせいで追放されました。」
「また随分と風通しの悪い職場ですね。」
「はは……おっしゃる通りです。」
レオンの背には地図と書類が詰まった鞄。
「私は風の記録を研究していました。
この国では“風の流れ”が国境を越えて変化しているのです。」
シンの表情がわずかに鋭くなった。
「……つまり、“風を操る力”が国家レベルで使われている可能性がある。」
「ええ。誰かが“風”を武器にしようとしている。」
エリシアは拳を握りしめた。
「神の恩寵を、争いに使うなんて……!」
「それが人間ってやつですよ。」
シンは軽く肩をすくめ、空を見上げた。
「だからこそ、風を読む人間が必要なんです。」
レオンは頭を下げた。
「どうか、私にも協力させてください。」
「風の研究者と聖女、そして俺……奇妙なチームですね。」
「ええ、でもきっと、良い風になります。」
エリシアが微笑む。
その瞬間、街の鐘が鳴り響いた。
――ゴォォン。
人々がざわつき、風が急に冷たくなった。
「……風向きが変わりましたね。」
「はい。嵐の前触れです。」
空の雲が渦を巻き、
城の上空に黒い線が走った。
「風が……泣いている。」
エリシアの瞳が震える。
シンは笛を手にした。
「じゃあ、泣き止ませてやりますか。
上司よりも扱いやすい相手ですから。」
風が彼の足元で踊り、
三人の運命を包み込むように流れた。
そしてその風は――確かに新しい物語の始まりを告げていた。
お読みいただきありがとうございます。
第10話「ガルディアへの風」は、新章のプロローグでした。
この国では“風=神罰”という信仰が根付いており、
それが物語の新たな対立軸となります。




