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第9話『キマユペンギン』

 ──俺は目を覚ました。

 身体がベトベトする。

 寝ている間に変な汗をかいていたらしい。

 地べたにはまだ男が寝ていた。

 俺はソイツを跨いで、一階へと降りた。

 いい匂いがしてきた。

 士狼がご飯を食卓に並べ、新聞を読んでいた。


「あ、起きた? 調子はどう?」


「え、あぁ、大丈夫だ。」


 ──いや、大丈夫ではないか。

 まだ頭は混乱しているからな。


 俺は士狼と向かい合って座り、ご飯を食べた。

 サラダに、シチューに、パン。

 前世と何ら変わりない食事だな。

 でも、空腹で食べるご飯はものすごくおいしい。

 俺はかきこんで食べた。

 

「ご馳走様。めっちゃ美味しかったわ、サンキューな。」


「え、食べるの早くない?」


「腹減ってたからな。」


 冤罪がなければ、こんな他愛無い話を常和と話せてたのだろうか。

 そう考えるだけで、あのライオンに腹が立っていた。

 知らぬ間に拳を握っていた。


「どうしたの? さっきから様子が変じゃない?」


「いや──」


 そうか、士狼には俺の過去をまだ話てなかったか。

 俺もまだ士狼の過去を聞いてないしな。


「士狼は前世で、何があったんだ?」


「ん? まあ──」


「あ、嫌だったら話さなくていいからな。」


「…どこから話せばいいのかな──」


 俺は士狼の前世を聞いた。

 有罪判決に理不尽さを感じた。

 正当防衛だとしても、近くで見ていた“もっちゃん”が殺されたせいで認められなかったのか。

 証言もなけりゃ、証拠もない。

 残っているのは、事件後の目撃者と士狼が殺したという事実だけ。

 それだけで判決してしまうのはどうなのだろうか。

 第三者目線でしか考えていないが、実際に俺が検察だとしたら、この証拠で士狼を犯人に仕立て上げてしまうのだろうか。

 ないとは思うが、士狼が嘘をついている可能性だってある。

 結局は事実なんて誰にもわからない。

 これを、“未知の恐怖”と言うのだろうか。


 俺も士狼に前世を話した。

 俺の話を真剣に聞いてくれる士狼は、やっぱりいいヤツだ。

 『罪人は悪』という偏見も、士狼のおかげでなくなるだろう。


「──お互い散々な目にあったんだね…」


「そうだな…」


──ザッ‼︎


 士狼は急に立ち上がった。


「えっ、ちょっと待って‼︎ 連続殺人犯ってもしかして…‼︎」


「そう。あの村長が前世で連続殺人犯って聞いて、まさかと思った。でも、連続殺人犯なんて何人もいただろ? いつ捕まったのかもわからないし…」


 士狼はそっと座った。


「確かに。しかも、村長が猪川くんの真犯人だとしたら捕まってたことになるんじゃない?」


「え、なんで?」


「だって、僕たちは警察に捕まって、仮面の面会者に会ってからこの世界に来たんだよ? 面会なしにここに来るってこともあるのかな?」


「なるほどな、それは考えてなかったわ。もしそうだとすると、あの村長は別の事件の連続殺人犯になるのか。」


 さすが、士狼は医者になるだけの頭脳を持ち合わせているようだ。

 士狼といれば、謎の解決は早く済むのかもしれない。


「…士狼は俺を手伝ってくれるのか?」


「もちろん。」


「なんで? メリットはないだろ?」


「何言ってるんだよ。君が仲間だって言ったんだろ? それに、困っている人を助けるのが医師の性だしね。」


 俺は目を見開いた。

 本当に良い仲間と最初に出会えたんだと心から思った。

 運命というものは味方なのか、敵なのか、よくわからなくなった。


「──1つ、僕の新しい目標に君が必要でもあるんだ。」


「目標?」


「…この世界から隔たりをなくすこと。君と出会って白と黒の間には隔たりをなくすべきなんだって思わされたよ。君がいれば、それも成し遂げられそうな気がしてさ。」


 すごい大きなことを言われているような気がする。

 この世界をまとめあげる?

 総理大臣ですら難しいことを俺がするのか?

 でも、隔たりをなくすことは俺も同意な気がする。

 偏見なんて、過去の人間が作った常識でしかないからな。

 今の常識を作るのは、今生きている人間たちだけだ。


「よし‼︎ じゃあ、お互いの目標に向かって頑張っていこう‼︎」


「うん‼︎」


 俺たちは拳を交わした。


 ──士狼もようやく食べ終わった。


「これからどうしよっか?」


「とりあえず、情報収集するか。あのお喋りな村長だったら誰かに前世の話を詳しく話してるかもしれない。なんなら、村長に直接聞くのもアリな気がするけど…」


「うーん、どうなのかな? 村長は神出鬼没すぎて会えるかわからないから。村民に情報収集した方がいいかも。ほら。」


 士狼が手を出してきたので、俺も手を出した。

 日本円の100円硬貨を3枚渡された。

 ここでも日本円硬貨が使われているのか。


「300円?」


「まあ、ここら辺の人みんな貧乏だから、100円玉渡せば情報ぐらいくれると思うよ。」


「100円なんて足しにもなんねぇだろ…」


──ドンドンッ‼︎


 玄関ドアを誰かが叩いている。

 俺がドアを開けて周りを見渡したが、家の前には誰もいなかった。


「ん? 誰もいない──」


「いるぞ‼︎」


 誰か返事した?

 空耳ではないよな?

 近くから声はするんだけどな…


「下を見ろ、下を‼︎」


 下を見ると、ペンギンが小さくジャンプして、手を挙げていた。

 キマユペンギンのようだ。


「おい‼︎ 全員が身長高いと思うなよ‼︎ 多様性の時代だ‼︎ 」


「ペンギン?」


 士狼は立ち上がり、こちらに近づいた。


「あ、こんにちは‼︎」


「ん? 知り合いか?」


「うん。近所に住む池田翔羽[いけだ とわ]さんだよ。」


「自己紹介なんかどうでもいいんだよ‼︎ 何だよ、アレは‼︎」


 キマユは向かいの家を指差した。

 俺と大男のせいで家が大破している。


「俺が家に帰ったら、すでにこの有様だ‼︎ 周りのヤツに聞いたら、この家に犯人がいるって言うから来てやったんだ‼︎」


「あ〜、俺のせいだわ。」


「あ〜、じゃねぇんだよ‼︎ いくら羽毛があってもこの寒さの中で寝れるわけねぇだろ‼︎ 謝っても許さねぇからな‼︎」


 俺はしゃがんだ。


──ポンポン


 キマユの頭を叩いた。


「悪りぃな。」


 俺はポケットから、先程士狼からもらった300円を取り出した。

 そのままキマユに差し出した。


「ほら、300円しかねぇけど、家建て直せるだろ。」


「舐めてんのか、オラ‼︎ 昼飯でなくなっちまうわ‼︎」


「しかもそれ、僕が今渡したお金だし…」


「クッソ〜、頭にくるガキだぜ‼︎ てめぇみたいな──」


 ペンギンは俺の頭を見て、動揺し始めた。


「し、白…あわ、あわわわわ。」


──コテッ


 ペンギンは尻餅をついた。

 やはり白髪に対する嫌悪感はあるのか。

 

「村長、村民に説得するって言ってくれてたのに。」


「家に帰ったばっかって言ってるし、まだ聞いてなかったんじゃね?」


「村長? 村長は認めてるのか? コイツを?」


「そうなんですよ。白髪の大男をぶっ飛ばしてくれたからって。」


「あ、だから今日の洞窟の仕事、途中で切り上げたのか。それはありがたいかもな、うんうん。」


 コイツも士狼と同じ仕事をしているのか。

 同じ仕事してる人多いんだな。


「家に入りますか? 家建て直す間、泊めますよ?」


「マジ? ありがとうな〜‼︎」


 キマユはルンルンと家に入るが、ピタッと止まった。


「え、この白黒も一緒にか…? 俺、食い物にされるんじゃないだろうな…?」


「望むなら食ってやるぜ。」


「や、やめてくれ‼︎」


 コイツ、陽気なヤツだな。

 すぐに空気が変わった気がした。

 キマユは椅子に飛び跳ねて座った。


「いや〜今日から当分仕事もないし、山下が飯も洗濯も全部やってくれるから天国みたいなもんだな。」


「いや、さすがにちょっとは手伝ってよ…」


 このキマユは村長について何か知ってたりするのだろうか。

 コミュ力があるというか、村長と気が合いそうだ。

 

「なあキマユ、村長と仲良かったりするか?」


「キマユって俺のことか? まあ、村長とはたまに酒飲んだりするわな。」


「マジ? その時、村長の前世について何か聞いたりしなかったか?」


「前世か〜…」


 キマユは顎に手をやり、さすった。


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― 新着の感想 ―
ここまで一気読みさせて頂きました! 『死者と罪人の世界』について、まだまだ分からないところが沢山あって今後一つ一つ知れるのが楽しみです。 世界観や人物の設定も面白いと感じました。
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