第3話『新たなる目標へ』
──さて、どうしようか。
1番最初に動くことができた者が勝てる状態だ。
なんとしても動いてやりたい。
そう思っていると──
──サッ
俺の身体が勝手に立ち上がり出した。
左手で刺された右腕を押さえた。
なんだなんだ?
誰かが俺の身体を動かしているのか?
──ハァ
「君たち、もしかして刀がないと勝てないのかな?」
俺は勝手にため息を吐き、口を動かした。
誰が俺の口で話しているんだ?
「あ?俺たちを舐めてんのか?」
「力を抜いてみて。身体は動くはずだよ?」
「え?」
男2人は肩の力を抜き、身体を動かした。
軽々と身体が動いていた。
「ほ、本当だ…」
2人は思わず感心してしまった。
その時、刀を手放してしまったが、それは宙に浮いていた。
「え、刀が浮いてる‼︎」
「何が起こってんだ⁉︎」
「て、てめぇ、何モンだ‼︎」
俺は少し黙り込んだ。
「…君たち、刀がこの世で1番大事?」
「は?俺の質問に答えろや‼︎」
会話が下手すぎる。
口を動かせていたら、思わず笑ってしまっていただろう。
──もしかして“アウトサイダー”か?
アイツ、面会室でもそうだったな。
それに、『今回は私が君を助けてあげよう』って言ってた。
間違いない、絶対そうだ。
「刀に命預けてるぐらいだから、命よりは大切か。」
「違う‼︎」
2人が声を合わせて叫ぶ。
「じゃあ、刀よりも命が大切だと?」
2人は一瞬見つめ合った。
「…そ、そうだ‼︎」
「そうか…」
少し沈黙の時間が流れる。
「な、何か言い返せよ‼︎」
「言い返せないよ。」
「は?」
「刀に口は付いていないからね。」
2人が手放した刀が暴れ出した。
「な、何が起こってんだ⁉︎」
「自分が2番だなんて言われたら、1番を奪いにいくでしょ。」
──ピュンッ‼︎
刀が物凄い速度で男2人に襲いかかった。
2人とも急いで避けた。
──スパッ‼︎
だが、ギリギリ避けきれず、1人は腕、もう1人は脇腹を切られてしまった。
「痛ぇ‼︎こ、こんなヤツを俺の刀にした記憶はないぞ‼︎」
「ご、ご主人様に歯向かうとは、いい度胸だな‼︎クソ野郎‼︎」
男2人は刀に向かって怒鳴っていた。
側から見ると、滑稽だ。
──ニヤッ
俺は自慢げに口角を上げた。
「知ってる?これを“嫉妬”って言うんだよ。」
「こ、この野郎…‼︎て、撤退するぞ‼︎」
「お、おう‼︎」
男2人は切られたところを押さえながら、フラフラと走って逃げた。
姿が見えなくなると、2本の刀が重力に従って地面に落ちた。
──グサッ
地面に垂直に突き刺さった。
「さて──」
俺は拳を天高く突き上げた。
何をするのだろうか。
「──私の仕事はこれで終わりかな。」
そう言って、思い切り拳を振り下げた。
まさかとは思っていた。
でも、他人の身体だ。
“アレ”をするはずがないと勝手に思っていた自分がいた。
だが、やるのはアウトサイダーだ。
男の痛みなんてわかるはずがない。
なんて思っている間に──
──キーンッ‼︎
キンタマを思い切り殴りやがった。
最悪だ。
あの痛みをまた味わうことになるのかと思うと憂鬱になった。
俺はそのまま倒れ込み、気絶してしまった──
──目が覚めると、またあの“共有ルーム”にいた。
アウトサイダーはまた優雅に何かを飲んでいた。
コーヒーではない何か──い、痛いっ‼︎
腹が、痛すぎるっ‼︎
またキンタマの痛みが来やがった‼︎
俺はその場で蹲った。
子どもが駄々を捏ねる時のように、地べたで這いずり回った。
そんな状態が5分ほど続いた。
俺は横目でアウトサイダーを睨んだ──
──ようやく痛みが治まり、立ち上がった。
アウトサイダーが座るソファの向かいのソファに座った。
「さっきは助かった。サンキューな。」
「君に死なれては困るからな。」
「そっか。だが──」
俺はアウトサイダーを睨んだ。
「──よくも俺のキンタマを殴ってくれたな。」
「だって殴らないと戻れないからね。」
「いやいや、絶対に他に方法があるだろ‼︎」
──カンッ
アウトサイダーはコーヒーカップを置いた。
「まあ、方法関係なく、自分から気絶すればここに来れるよ。」
「やっぱあるじゃねぇか‼︎」
コイツ、マジ殴っていいかな?
美人だとしても容赦ないぜ?
「睾丸を殴るのが手っ取り早かったんだもん。助けてあげたんだから許してよ、ね?」
アウトサイダーはウインクをした。
この女、いつもはクールで無愛想で見下してたくせに、こういう時に限って可愛い子ぶるんじゃねぇよ。
さては、男慣れしてやがるな。
俺はそんな女が大っ嫌いだ。
…でも──可愛いからやっぱ許す〜‼︎
「しゃーなし、今回は許してやるよ。」
「どうも。」
俺は何故か気取った態度をとってしまった。
これはコイツの思うツボだろう。
ホント、女慣れしていない俺が情けない。
まあ、助けてもらったのを言い訳にでもしておこうか。
「なあ、さっきの何なんだ?刀浮いてたり嫉妬してたりしてたけど。刀にも魂があるのか?」
「あれは私の“磁力”の能力。嫉妬は磁力の言い訳だよ。」
「言い訳?何のために?」
「“磁力が復活した”ことをすぐに悟らせないためだよ。」
「は?どういうこと?」
「君はまだ知らない方がいい。他人にペラペラ話されても困るからね。」
俺は全く意味がわからなかった。
復活ってことは、一回消滅したのか?
悟らせないことに何の意味があるんだ?
手がかりがなさすぎる。
「今、君が心がけておくことは、“磁力”という言葉を他人に言わないことと“磁力”の存在を知られていない間にこの能力を1人で使えるようにしておくこと、そして──」
アウトサイダーは険しい顔をした。
「──ある程度の強さの人間、特に“個人株価トップ10”の誰か、1人でも多くの仲間を作っておくこと。わかった?」
「…え、あ、まあ──」
「よし。」
いや、『よし。』じゃねぇんだよ。
こっちはマジで何言ってんのかわかんねぇんだよ。
「“個人株価”って何なんだよ。」
アウトサイダーは少しめんどくさそうな顔をした。
「まあ一言で言えば、この世界の人間、もしくは企業から支持を得ている人間のランキングだ。」
「そっか。“磁力”の秘密はいつになったら教えてくれるんだ?」
「知らない。」
アウトサイダーはさらにめんどくさそうな顔で即答した。
いや、めんどくさがんなよ。
俺が死んだらお前も困るんだろ?
さては他人との会話が下手なのは、会話が嫌いだからだな。
俺は勝手に仮説を立てていた。
「──遅くとも、“2年後”。」
「2年後?2年後に何か──」
──サッ
アウトサイダーは会話を遮るように立ち上がった。
「さて、そろそろ実物の君に戻ってもらおうか。」
アウトサイダーはテーブルの上にあった新しいコーヒーカップを手に取った。
──キュッキュッ
胃と腸の形をした冷蔵庫の下の蛇口を捻った。
出てくる茶色の液体をコーヒーカップで拾った。
──カンッ
そのコーヒーカップを俺の前に置いた。
「これ飲んで。」
紅茶というには濁りすぎている気が──っていうか、臭っ‼︎
え、臭っ‼︎
めっちゃ臭いんですけど⁉︎
アンモニア臭といい、ウンコのような匂いといい、人間の老廃物が混ざり合わさった匂いがする。
こんなもの、飲めるわけがないだろ。
「早く。」
「い、いや臭すぎるって。」
──ハァ
「情けない男。」
アウトサイダーはため息を吐いた。
俺はこの一言にカチンと頭に来た。
──ゴクンッゴクンッ
俺は黙って一気飲みした。
あまりの臭さに途中何度か吐きそうになった。
でも、ここで飲み干さないのとコイツに負けるような気がした。
──カチャンッ‼︎
俺は勢いよくコーヒーカップを置いた。
涙目で鼻が真っ赤になっていた。
「の…飲んで…飲んでやったぜ、クソ野郎…‼︎げふっ‼︎」
俺は口を押さえた。
「よくできました。」
俺は次第に意識が朦朧としてきた。
瞼が重く感じた。
俺はそのまま寝てしまった──
──ハッと目を覚ました。
俺が倒れ込んだ森の中のようだ。
少し肌寒い。
また、寒さを凌げる場所でも探すか。
そう思って立ち上がろうとするが、身体が全く動かなかった。
かろうじて指先と顔だけが動いた。
どうしてだろうか?
まさか、これは磁力を使った反動なのだろうか?
代償があまりにもデカすぎる気がする。
疲れで物凄く眠たくなってきた。
このまま寝てしまっては、風邪をひいてしまう。
いや、それ以上にあの逃げた連中の援軍にでも捕まってしまう方が恐ろしい。
そんなことを思いつつも、俺は知らぬ間に目を閉じてしまっていた──