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o゜包o≡ 足=  作者: 〇樽小樽
ep.1飛行バイクと飛行魔法
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 陽動飛行隊。

 任務内容はその名の通り、魔獣を陽動するために飛行すること。

 このギルド北支部飛行艇からその身を空に投げ出して、魔獣と追いかけっこをするのである。


 「魔獣は通常の動物より、かなりサイズが大きいんです。その身を蝕む魔力の影響だと言われてるんですけど」

 「言われてる」

 「まだまだ、魔獣について分からないことの方が多いので」


 日々の研究が大切なのだ、とリュカは続ける。その横を歩きながら、楠は丸く切り取られた窓の外を見た。 

 ただひたすらに青い空だ。飛行バスの運行ルートよりもさらに高い。居心地が悪い気持ちになり、楠はそっと窓から目を逸らした。


 「ただでさえ暴走しているのに、身体も大きい。そんな彼らが人々の暮らす場所に行ってしまったら大変です。そうならないよう引き付けること、それが陽動飛行隊の第一の任務です」


 道中すれ違う隊員たちは皆忙しない。魔獣への対処に追われているのだろうか。一部隊の隊長らしいリュカへの挨拶も疎かに、バタバタと駆けていく。少し遠くから「廊下を走らない!」と叱る声が聞こえた。

 

 「ようは囮ってことですか」

 「あぁ言っちゃうんだ。じゃあ遠慮なく言いますけど、そういうことですね」


 思わず大きなため息が出そうになるのを気合で押し込めた。

 最悪だ。考え得る限り恐らく一番危険な任務に就かされようとしている。任期以外なにも確認しなかった自分も悪いけれど、もっとこう、一言あったんじゃないのか。というかこういうのって誓約書とか必要なんじゃ。


 (あぁ、書いたかも)


 そういえばリーダー室に通されてすぐに署名した。紙と電子の2パターン。


 「一番近くで魔獣のこと見れるんで、なんかそういう動物園とかだと思えばいいかもしれませんよ」

 「檻が必要なんですよね、そういう施設って」

 「あるじゃないですか、乗り物に乗って自然の中行く感じの……」

 「魔獣と一定の距離を保てるならそうなんですけどね」

 「ふれあい系だと思って。ね」

 「命のやり取りのこと、ふれあいって言うタイプですか?」

 「まぁ、自分たちは直接魔獣に何か仕掛けたりすることはないんで、どちらかと言うと、ふれあわれる側、ですけどね」

 

 ははは! と笑い飛ばすリュカを、楠は冷たく横目で見た。

 なんだか愉快に言ってはいるが、その内容は物騒極まりない。

 長い間危険に晒され続けると、すっかり感覚が麻痺してしまうのだろうか。楠はそうはなりたくない。


 「で、私たちがすることって、魔獣を町から遠ざけることだけでいいんですか」

 「いいえ。寧ろ、ここからが大切です。……あぁいや、町を守ることが大切じゃないってわけではないですけど」

 「分かりますよ」


 肩をすくめて続きを促す。リュカは咳払いして、人差し指を立てた。


 「魔獣をそのままにしておくわけにはいきませんよね。だから、彼らのことを無力化するんですよ」


 ぐるり、と、彼の人差し指が空中に円を描いた。


 「うちでは魔法陣を使います」

 「魔法陣……」

 「専門の部隊があるんです。彼らが魔法陣を描いて、発動させて、魔獣を鎮静化させます」

 「今時魔法陣を毎回描くんですか?」

 

 想像するだけで途方もない労力だ。思わず眉間にしわが寄る。

 一昔前なら分かる。昔の人々はありものを使って、その時必要な魔法陣をいちいち描いていたらしい。そんな面倒なことやってられねぇ、ということで、今となっては汎用魔法陣が束で売られている。


 「いやぁ、魔獣が入る魔法陣となると、どうしてもね」

 

 苦い表情の楠にリュカは苦笑して答えた。

 楠は魔獣を直接見たことがない。だからそう言われてもあまりピンとこず、ただただ「魔法陣描くの、ダルそうだな」としか思えなかった。

 だが彼のこの言い方からすると、魔獣はよほど大きいらしい。既存の大型魔法陣では足りないくらいに。


 「で、魔法陣を使うとなると、魔法陣の上に魔獣を誘導する必要がありますよね」

 「そうですね……」

 「それをうちがやります」

 「……え?」


 そんなことを考えていたから、一瞬何か聞き逃したのかと思った。


 「まとめると」


 なんだか。

 本当に、とんでもないことをやらされそうになっている気がする。


 「魔法陣隊が魔法陣を描いている間は、魔獣を上手いこと陽動する」


 人民や町の方に魔獣が行かないように。そして、魔法陣隊の方にも行かないように。


 「魔法陣が完成したら、魔獣が魔法陣の上に乗るようにこれまた上手いこと誘導する」


 リュカは曇りのない笑顔で楠を見下ろした。


 「これが陽動飛行隊の一連の任務内容です」


 ね、簡単でしょう?

 そう言わんばかりに微笑むリュカに、楠は口角を下げざるを得なかった。

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