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o゜包o≡ 足=  作者: 〇樽小樽
ep.2 目が眩むような
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28

 そこからは文字通りスピード勝負。

 楠に策を授け、最高速で空を駆ける。特別にチューンナップされたギルド用の飛行バイク、その性能全てを活かし、トップスピードでとにかく魔獣を目指して飛んだ。

 魔獣が近付く。整備されたコンクリートはもうすぐだ。

 行ける。

 リュカはバイクをふかす。ぶおん! と爆音を出しながら、そのまま速度を落とさずに魔獣の顔前を横切った。

 こういった脅しめいた行為はあまりやりすぎても良くない。魔獣が音に慣れてしまうことで効力が弱まるからだ。

 事実、魔獣は僅かに速度を落としたものの、それ以上の反応を見せることは無かった。リュカの方を一瞥すらしないまま直進を続けている。

 意味が無い行為だっただろうか。いや、そんなことはない。

 魔獣の速度が僅かでも落ちた、それで生じる針の穴のような隙こそが狙いだった。

 

 魔獣の上空から楠が距離を詰める。

 楠は矢の様に飛んで魔獣を追い越し、ハイウェイの直前でピタリ、と急ブレーキをかけ止まった。くるりと振り返る。そして、その()()()()()()()()()()()()()を、目の前に迫った魔獣目がけて照射した。


 間近での目眩ましに、魔獣はつんのめる様に立ち止まった。苛立ち蹄を鳴らす。そんな魔獣に見せつけるように楠はゆらゆらと光を揺らし、ハイウェイに沿って飛んでいった。持ち方を変え、明かりの部分が後方に向くようにして。

 その間、リュカは大きくカーブして、魔獣側に戻ってきていた。立ち止まっている魔獣を目にして、まずは計画通りと胸を撫で下ろす。楠は上手くやってくれたようだ。

 あとは、魔獣がどう動くか次第。


(乗れ、乗れ……)


 このまま動く光に惹きつけられて楠を追ってくれれば万々歳。道路を踏み荒らされないよう、ハイウェイ沿いをコントロールしながら魔法陣まで進むだけだ。

 しかし、魔獣の機微は誰にも分からない。また突然突進するかもしれない。まったく靡かず、真逆の方へ進んでしまうかもしれない。どうなっても良いよう、リュカは楠と逆走する形で魔獣の様子を窺った。


 魔獣は。

 顔を上げて。

 鋭い視線を向け。

 蹄で地面を蹴りあげて。

 真っすぐ楠を追って駆けだした!


「行った! シュガー!」


 声を張り上げた刹那、楠とすれ違う。ばっちり目が合って、頷き合う。


「魔法陣まで一気に飛べ!!」


 空を蹴り上げ楠が加速する。リュカは大きく上昇した。下を魔獣が通り過ぎていく。

 もう時間はかけられない。このまま終わらせる。絶対に魔獣を引き連れて魔法陣まで辿り着く。上空で旋回、再度向きを転じる。ギアを上げ、楠達を追った。

 最高速度はまだ飛行バイクの方が速い。ぐんぐんと彼らの姿が大きくなり、ついには魔獣の頭上まで追いついた。上から見る魔獣はまるで荒野にそびえる一枚岩のように分厚い。こんな巨体にぶつかられたら、小さな人間なんてひとたまりもないだろう。

 ただし、リュカなら問題ない。


「シュガー」

「なに」

「俺も前に出るよ。上から行く」

「……了解」


 なにやら一瞬間があったが今は気にしないことにする。とにかく前に出て、高度を下げて……いや、待て。一度手を止めた。

 前方。進行方向の先に物影が見える。ようこそ、の文言に添えられた町の名前。大きな長方形の看板だ。

 このままではぶつかってしまう。リュカは楠に声をかけた。


「シュガー、前に看板があるの見えるね。進路を逸れよう」

「分かった」

「念の為言うけど、荒野側に逸れるように。いいね?」

「当然」


 楠が看板を避けるように曲がるのを確認してリュカも後に続く。

 なんてことない、ただハンドルを切るだけだ。8の字運転とかスラロームとか、そういった技能的なことでもなんでもない。ただそれだけのこと、のはずだった。


 身体が突然自由を失った。


 体重移動ができない。まっすぐどっしり座り込んだまま、全く重心が動かない。なによりハンドルが切れていない。その上で下降操作だけが生きていた。

 自分の身体が意志に反する。そんな状態にリュカはもうすっかり慣れていた。寧ろ、久しいな、という気すらする。

 きっとこの後、命の危機が訪れる所だったのだ。こうして運良く身体が硬直したことで、それを免れることができた。

 今日もリュカは運が良い。

 どこか冷めた心地で行方を見守る。曲がることを許されなかったリュカは進路そのまま、看板に突っ込んでいく。


「リュカ!?」


 そんな叫びが聞こえた、次の瞬間。

 リュカは看板の下、骨組みの隙間すれすれを潜り抜けた。下降がギリギリ間に合ったのだ。

 正直このまま看板にぶつけられることも覚悟していたが、どうも今回は都合よく物事が進んでくれる。楠を1人で飛ばせるのも申し訳が立たないし、これは本当に運が良いと言っていい……と思った所で、今度は、くん、と何かに身体を引っ張られた。

 それがなにか振り返って確認するより早く、リュカはマントを取り外した。

 バサバサッ、と布がひらめく音がする。突っかかりが解消されたリュカは、その場からいち早く飛び去った。

 

「何も問題ないよ」


 前方で浮いたままの楠に無線を入れる。


「マントが骨組みに引っかかっただけ。何も問題ないから、早く魔法陣に向かうよ」


 楠の返事はない。

 とはいえ彼女も分かっているだろう。

 最優先は魔獣の鎮圧。魔法陣隊の元へ魔獣を誘導することだ。それ以外に優先することなんて今は無い。

 だからこのまま、前へ飛ぶ――


「は!?」


 ギョッ、と目を剥く。

 なんで。意味が分からない。どうして楠は、Uターンして戻ってきている!?


「なっ、なにして」


 ビュン、と風の音がして、あっという間に楠がリュカを追い越した。

 猛スピードで彼女は来た道を戻っていく。それを迎え撃つように、魔獣もすぐそこまで来ていた。看板を挟み両者の距離はもう少しもない。


 あっという間の出来事だった。


 一瞬、上空でなにかがチカッと光ったと思えば。

 魔獣が大きく大きくジャンプして――ひと跳びの内に看板を飛び越えていた。


 着地の衝撃で地面がひび割れる。沈み込んだ身体を跳ね伸ばし魔獣は駆けた。

 気付けばリュカは飛行バイクを発進させていた。魔獣を先導して進む。

 自分を全く意識できていない。よく分からないけれど、身体のあらゆる所が不調を訴えているような、そんな気だけがある。しかしその不調がなんなのか感じる事すらできなかった。

 陽動飛行隊として魔獣を鎮圧する。それだけが頭を回っている。

 今のリュカはインプットされたデータで動いているようなものだった。


 まっすぐ広がる地平線の先に、魔法陣隊の有人用ドローンが見えてきた。地表には鎮圧用魔法陣が描かれている。


 ただその先に向かって、トップスピードで飛び込むだけだった。

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