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o゜包o≡ 足=  作者: 〇樽小樽
ep.2 目が眩むような
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20

「そういえば、お出かけは楽しかったか?」


 ギシ、と身体の動きが止まった。

 椅子を片そうとしていた体勢のまま、視線だけを動かす。お馴染みのリーダー室、お馴染みのデスクでアレサンドロは手を組みこちらを見ていた。 

 なにか言わなきゃ。乾いた口を動かす。


「……え」

「楽しかったか、それは良かった」

「まだ何も言ってない……」

「顔に書いてある」


 ぺたり。頬を触る。なにも無かった。

 当然である。アレサンドロの発言は比喩であり、実際にリュカの顔に「皆でお出かけできて楽しかった」と書いてあるわけもない。

 というかそうだ。その日の夜、ガレージで飛行バイクをしまっている時に気が付いた。

 己は何を普通に楽しんでいるんだか!


「そもそもきみ、なんで知ってるのさ」


 改めて椅子を置き直し、その背凭れに肘をかける。そうして若干だらしのない立ち姿でアレサンドロを睨んだ。

 彼の前ではリュカは楠を地上に送り届けるという話しかしていなかったはず。なのにどうしてその顛末を知っているのか。

 そう問えば、アレサンドロは笑みを深めた。


「そりゃおまえ、オルテンシアから報告を受けたんだよ」

「報告?」

「自分の過失で陽動飛行隊隊長の予定を狂わせてしまった、って」


 それはもうひどく反省した様子だったらしい。オルテンシアらしいといえばらしいが、そこまで気にすることでもないのになと当人としては思う。

 それになんというか、少し寂しくもあるような。


「ただ」


 そんなリュカの内心を読んだようにアレサンドロが口を開いた。


「反省もしてたけど……同時に、めちゃくちゃ浮かれてた」

「浮かれてた? オルテンシアさんが?」

「あぁ。なんでもないフリしてたけど、実は良いことがあったってのが丸分かりの雰囲気」


 そう言うと、アレサンドロはリュカを指差す。


「丁度今のおまえみたいな感じ」


 ……無言でじっと睨み合い、先に目を逸らしたのはリュカだった。

 深く息を吐きながら項垂れる。ちら、と目線を上げれば、アレサンドロは微笑まし気に目を細めてリュカを見ていた。


「楽しかったんだろ?」

「……まぁ、うん」


 小さく頷く。

 確かに、実際楽しかった。町並みを楽しみながらケーブルカーに乗って、大きな橋を見渡せるスポットで一休み。海辺のテラスでテーブルに大皿をいくつか並べてシーフードの食べ比べ。あれがないこれがないと言い合いながら買い出しし、サイドカーに詰め込んで帰って来た。

 ぎゅうぎゅうの車内で日用品に囲まれることとなった楠はキュッと眉を顰め、発泡スチロールの箱を膝の上に抱えこんでいた。今思えばそこでいつもの様に「嫌なら辞める?」とでも聞けばよかったと思う。しかし、その時のリュカはどうも物凄く満たされたような心地だったのだ。だからそんな軽口、頭に浮かびすらしなかった。寧ろ、カフェテリアであの美味しいクラムチャウダーをどう再現しようかー、などという会話をした気がする。……あぁ、もう!


「それはそれ、これはこれ!」

「なにがだよ」

「楽しかったのは、そうだけど! でも別に今回だけだから! そう何度も誰かと下に行くことなんて無いし、あの子はどうせすぐ辞める!」

「あーあーそんなこと言い切っちゃって」

「だってそうでしょ。そもそも今回は特例だし」

「まぁ確かにおまえ、空いてる時間は殆ど飛行バイクの整備か訓練ばっかしてるしな」

「そう、その通り」

「でもさ、それじゃあ寂しいよ」


 アレサンドロの台詞に、リュカの言葉が詰まった。アレサンドロはニヤッと笑う。


「おまえが僕とも遊んでくれなくなるなんてさぁ」

「……えぇ?」


 リュカは脱力し、背凭れで身体を支えた。

 わざとらしい大きな動きでアレサンドロが首を左右に振る。


「何度も誰かと下にいくことなんて無い? 寂しいなぁ、僕たち何度一緒に過ごしたよ」

「あのさぁ……」

「あーんなに何度も一緒に地上へ降りたのに。美味い物も食べて色んな所行って」

「役所とか学校ね。魔法使い探しに」

「やっぱり、おまえにとっては上司との付き合いに過ぎなかったってことか。僕は友人だと思ってたのになぁ」

「アレサンドロ!」


 ため息と共に名前を呼ぶ。しょげています、と言わんばかりに顔半分を覆っていた片手の指の隙間から、茶色い瞳が覗いた。それを見据え、リュカは不満に顔を顰める。


「分かって言ってるだろ」

「あぁ勿論」

「最悪!」


 ぐしゃりと前髪を乱すリュカに、アレサンドロが声をあげて笑った。くそ、そういう反応が返ってくることも予想できたのに。まんまと気持ちが乱された。

 アレサンドロは座る椅子に身体を預け、ぐっと腕を伸ばす。それからゆったりした様子で頬杖をついた。


「今のは全部冗談だけど」

「本当に最悪……」

「僕は隊員同士の交流にどうこう言うつもりは無いからな。しても、しなくても」


 リュカは一度アレサンドロをねめつけて、椅子を持ち上げた。

 アレサンドロは良い友人だが、こういう時のこいつとの会話は居心地が悪い。リュカが捨てた物を拾ってきて、視界の端っこに映り込ませようとしてくるこの感じ。そういうことをされると、リュカはそれを意識せざるを得なくなってしまう。

 

「もう行くよ。これから訓練だし」

「あぁ、楠の魔法訓練な」

「……もう何で知ってるのとは聞かないよ。オルテンシアさんでしょ」

「その通り」


 ガタン、と音を立てて椅子を片す。ちらと見上げた壁掛け時計は約束した時間の15分前を指していた。

 アレサンドロの言う通り、今日これからの訓練は楠の付き添いだ。

 楠は飛行魔法以外だとどれくらい魔法を使えるのか。その確認を兼ねた特訓会である。

 これからギルドで魔獣鎮圧の任に就くにあたって、あらゆる魔法を鍛えておいて損は無い。陽動飛行隊という現場の最前線に出る隊に所属していれば尚更だ。身を守る術は多い方が絶対に良い。……リュカが言えたことではないが。

 しかし、楠が自分で自分の命を守れる保険を持っていれば、リュカも少しだけ安心できる。


「相方が新人の魔法訓練を見るんだ、ってさ。先輩らしくやれるか心配してた」

「本当は彼女も立ち会いたがってたからね。今度の任務に向けた準備でどうしても外せないらしくて」

「ナン・シウにとっても良い機会だしな。他人に教えるってのは自分にとっても良い練習になる。そういう意味でも相方の指導がしたかったんだろ」

「まぁ俺は完全に見守ることしかできないけどね」

「それが大事なんだよ」


 リュカはドアノブに手をかけ、アレサンドロを振り返った。


「報告を楽しみにしてる。楠の魔法はどれほどの練度なのか。それ次第で手が増えるからな」


 ひらりと手を振るアレサンドロに儀式的に一礼し、リュカは部屋を出た。

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