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o゜包o≡ 足=  作者: 〇樽小樽
ep.2 目が眩むような
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17

 正直、隊長バディ同士での顔合わせ、なんて言い訳としては結構ガバガバだ。実際リュカは早々に真意があることに気付いたし、シウにだって勘付かれかけた。後ろめたいことがあるわけでもないだろうに、わざわざ誤魔化す理由もよく分からない。

 しかし、オルテンシアのこの大きな動揺の声。よほど言いたくないのだろうか。


「いや、やっぱり」


 言わなくても、と続けようとしたリュカの前に、人差し指が差し出された。

 オルテンシアは立たせた指でリュカの口を閉ざし、もう一度、念押しするようにそれを押し出す。ぐっと力を入れた真剣な眼差しだ。


「……ナン・シウ達に言いませんか?」

「言いませんよ」


 間を置かずに頷くと、オルテンシアは僅かに視線を逸らした。それから手を引き、胸元で握り込む。リュカは黙って様子を窺った。 

 それから彼女は、そわそわと握り拳に親指を巻き込んだり、出したりしながら口を開いた。


「……お節介、みたいじゃないですか?」

「と、いうと」

「だって、お節介みたいじゃないですか。ああいうのを直接ご本人に言うの。恩着せがましく聞こえても良くありませんし……」


 ははあ、なるほど。それを気にして建前を用意したのか。

 リュカは、ふむ、と顎に手を添える。

 

「つまり、こうですよね」

「こう?」

「俺が新人で入ってきたとして、親しく話す上司に1つ上の先輩を紹介されて」

「シモンさん? その上げた手はなんです?」

「何かと思えば、もっと近しい立場で話せる相手を作った方が良い、と言われる……」

「もしかして右手が上司の私で、左手が先輩のナン・シウですか? 肘先を振っているのはなんです? 喋ってるんですか!?」

「俺は嬉しいですけどね。自分のためにしてくれたんだなーって思って」

「そ、そうですか……」


 オルテンシアは複雑な表情で呟いた。

 

「身振りはともかく、そう言っていただけるのは安心します」

「あと、俺が1つ上の先輩として」

「待ってください、まだやるんですか!?」

「……そんなに変ですか?」

「へ、変というか、大きいですよ! 身振りが! 人の目もありますから!」

「大きい、かなぁ」


 あまり意識したことなかったが、そうなのだろうか。別にいつも通りのつもりだけれども。リュカは右手の上司と顔を見合わせる。見知った人相、もとい手相だ。


「誰かを呼び止めるわけでもないんですよ? そんな頭の横まで手を上げるんじゃなくて、指にしてください指に」

「指かぁ……」


 まぁこだわりがあるわけでもないし、と手を下ろし、オルテンシアに従おうとした所で。

 リュカの耳は不穏な声を聞いた。


「オルテンシアさん、あれ」


 指差したのは、園内に生える1本の木だ。

 木陰で子供が1人、木の上を見上げている。頭上へ「気を付けてね」「危ないよ」としきりに声をかけていた。

 何か言う前にオルテンシアは立ち上がっていた。こちらを見下ろす彼女に頷き返し、リュカも後に続く。

 そうして、その木に近づいた時のことだった。


「あっ!」


 叫び声と共に、バキッ、という嫌な音がする。

 咄嗟に駆けだそうとするリュカだがしかし――それより早く、オルテンシアが腕を振るった。

 その指から1枚の紙が放たれる。舞うペラ紙が瞬く間に膨張するのを見た。


 ボンッ

 重量のある物が落ちてきて、弾力のある物に受け止められた時の音がした。


 パンッパンに膨らんだエアークッションが、木陰を覆うように広がっている。空気をたっぷり含んだその上で、先程まで居なかった子供が尻もちをついて固まっていた。まるい頭にパラパラと葉が降ってくる。

 リュカ達が見つけた木陰の子供は、突如現れた大きなクッションに驚いたのだろう、その傍で大きく目を見開いて身を仰け反らせていた。そこにリュカ達は小走りで駆け寄る。


「大丈夫?」


 リュカがクッションの上の子に声をかける。その子は呆然としながら、ゆっくりクッションから起き上がった。


「間に合って良かった……」


 ほっ、と背後でオルテンシアが安堵のため息を吐く。それから、彼女は木陰の子の方を向いた。


「驚かせてごめんなさい。あなたも、大丈夫?」


 子供はパチ、パチと瞬きし、クッションを眺めた。目の前の状況を飲み込み理解すると共に、その目が段々キラキラと光り出す。

 そして


「すごーい!!」「うわー!!」


 その子は大声をあげてクッションに抱き着く。同時にクッション上の子が大はしゃぎでボヨンと跳ねた。

 2人はきゃあきゃあと楽しそうにクッションで戯れている。その様子に、リュカ達は顔を見合わせた。


「すごいすごい! たのしーい!」

「ジャンプー! えい、えい!」

「あなた達、楽しんでくれているのは嬉しいのだけど、怪我は無い?」

 

 ふっ、と頬を緩ませたオルテンシアが優しく声をかける。

 子供たちはピョンとひと跳びし、元気よく頷いた。


「大丈夫!」

「ねぇこれなに? すごい!」

「ねーえ、ケガ無いかって」

「無いよ!」

「無いってー」

「見て見てポンポン!」

「ひ、ひとまず……怪我が無いなら良かった」


 口々に喋りたいことを喋る子供たちに、大人は口を挟む間も無い。なんとか安心したことを伝えると、オルテンシアは胸を撫で下ろした。

 クッションに夢中な子供たちを見守りながら、リュカはオルテンシアに話しかける。


「ありがとうございます。俺だけじゃ間に合わなかった」

「いえ、当然のことをしたまでです。こういう時のための魔法陣の持ち合わせですから」


 えっ、と高い声が上がった。

 見れば、つい今まではしゃいでいた子供たちがこちらを見ている。輝く2対の目がオルテンシアを捉えた。


「これ、お姉さんが魔法使ったの!?」

「魔法陣なの!?」


 詰め寄られ、オルテンシアは狼狽えつつも首肯する。


「は、はい」

「えー! すごい! 魔法じょうず!」

「いいないいな、魔法使うの上手くていいなぁ!」

「こーんな一瞬で、ばーんって! ばーんってなったよ!」

「はやくて、ちゃんとできてて、すごい! クラスで一番上手いよ!」

「……ふふ。ありがとう」


 子供たちの怒涛の褒め言葉が嬉しかったのか、初めはきょとんとしていたオルテンシアも気付けば僅かに頬を染めていた。はにかみながらお礼を告げる。子供たちはそんな彼女に、左右から次々と言葉をぶつけていた。


「魔法ねー、むずいの。にがてー」

「時間かかっちゃうんだよ! ゆっくりならできる!」

「すぐ消えちゃうじゃん」

「でもできるもん!」

「そういうのできるって言わないんだよー」

「でーきーるー!」


 揉めだした2人と視線を合わせるように、オルテンシアが屈む。


「2人は、今どんな魔法の練習をしているの?」

「光らせるやつ!」

「明るくするやつ!」


 光らせる、明るくするやつというと、魔法教育の授業で一番最初に取り組む内容だ。この子たちは丁度魔法に触れ始めた年頃なのだろう。

 リュカがその位の年の頃は、魔法が上手な子と足が速い子がクラスの人気者だったが、今の子供たちの間でもそうなのだろうか。オルテンシアへの好意の目を見る限り、憧れの的のような存在ではあるようだ。


「ねぇ、これは分かる?」


 オルテンシアは膝の上に抱え込んでいたバッグから、1枚の紙を取り出した。先程投げた紙と同じ物に見えるそれには、ある紋様が描かれている。子供たちはそれを覗き込むと、パッと顔を明るくした。


「分かる! 光るやつだよ!」

「明るくするやつの、魔法陣! 授業で使うよ!」

「正解。いい、よく見ていてね」


 と言うと、オルテンシアは片手に持った魔法陣にもう片手の人差し指を沿えた。

 その指先から、少しずつ、少しずつ、ゆっくりと――魔法陣をなぞるように光が灯っていく。

 その光景に、ほう、と思わず見惚れた。あれだけ言葉が途切れなかった子供たちもすっかり静かになり、夢中で光を目で追っていた。


「今光っている所、分かる? 魔力が流れた所が光っていっているの」


 そうして魔法陣全体に光が巡ると、オルテンシアが顔を上げる。


「こんな感じでね、魔力を魔法陣の線に沿って流す、ってことを意識すると上手く行きやすいんじゃないかな」


 彼女の手の中で、魔法陣は煌々と輝き続けていた。日中の木陰で、それがオルテンシアの顔を照らす。


「すぐ消えちゃうのは多分、流す魔力の量が少ないのかな。でもね、それは決して悪いことじゃないよ」

「……そうなの?」

「えぇ。魔力の量は人によって違うから。無理に魔力を流しすぎたら疲れちゃうからね」

「でも、いっぱい長くやれるようになりたい」

「じゃあ、いっぱい魔法を楽しむことだね」

「楽しむ……?」


 子供は不思議そうに目を丸くした。

 オルテンシアは目を細め、小首を傾げる。


「そう。いっぱい魔法を楽しんで練習するの。そうしてるうちに、きっと長く魔法を使えるようになってくるから」

「お姉さんみたいになれる?」

「それは、あなた達次第だね」

 

 えー! と声をあげ、子供たちはピョンと飛び跳ねた。


 この子たちは、多分まだ知らない。

 魔力は勢いで流れていくものだ。

 魔法陣は特定の魔法を特定の力加減で確実に使うことができるフォーマットである。人はただ、魔法陣の紋様通りに魔力を流せば良い。なにも意識しなければ、スイッチを入れれば明かりが点くように、魔力を流せば魔法が使える。

 だからこそ、そんな魔力を流す速度を調整するのはとても難しい。

 魔法の早撃ちが魔法大会の競技の1種目になっているのが良い証拠だ。誰よりも早く魔力を流しきれば、そのすごさは目に見えて分かりやすい。

 そして先程のオルテンシアのように、魔力が今どこを流れているのかが分かるほどにゆっくり流すこと。早撃ちと違って目立つことはないが、これもまた同じく難しいことだ。

 そもそも子供を受け止めたあのエアークッション。当然のように使われたあれだって、なんと複雑な魔法陣が練られていたことか。それをあの速度で……考えながら、リュカは木陰を覆うエアークッションに視線を移す。あれから数分、未だにそれはふっくらと存在感を放っていた。


 当然だ。オルテンシアはギルド北支部が誇る魔法陣隊の隊長。魔力の扱いに長けた魔法使い。

 今こうして子供たちに惜しげもなく見せたものは、彼女が魔法にかけてきた時間と努力の結晶なのである。


 それを知らぬ未来ある若人は、ぶんぶんと腕を振り、ぐっと拳を握り締め、やる気に満ちた表情をしている。オルテンシアの実践付きアドバイスは、子供たちにとってモチベーションとなったようだ。


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