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o゜包o≡ 足=  作者: 〇樽小樽
ep.2 目が眩むような
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16

 目的地は町中の公園だった。

 コンクリートジャングルの中に現れた、緑豊かな癒しスポット。芝生の上でピクニックを楽しむ人々がいる。その傍の小道を子どもたちが駆け回っていた。

 そんな園内を望む通路でリュカは息を吸う。どことなく、植物の青々しいにおいがするような。思い込みかもしれないが。普段飛行艇の中で植物と関わることが少ない身なもので。

 

「あ~ここここここ、ここっすよ!」

「またあなたはすぐ写真を撮るんですから……」


 飛び上がる勢いではしゃぐシウに、オルテンシアのため息が重なる。

 ここにはシウが来たがったという。彼の反応も納得ではあるが、


「写り込みにはきちんと配慮なさい!」


 オルテンシアはそのツッコミで合っているのだろうか。配慮は確かに大事だけれども。まぁこれも彼らの持ち味、とリュカは苦笑する。

 「はーい!」と良い返事をし、シウは芝生へと足を進め、ようとした所でピタッと立ち止まった。


「どうしたの?」


 リュカが尋ねる。シウは携帯をなにやら操作すると、画面を凝視し、バッと振り返った。


「必要なものがありました!」

「必要な物?」


 とオルテンシア。

 

「ちょっと買ってきます!」

「ま、待ちなさい! どこに、なにを!?」


 今にも走り出そうとするシウの背にオルテンシアが手を伸ばす。実際には届いていないそれに引っ張られるようにしてシウは足を止めた。


「多分この辺りにスタンドがあると思うんで、そこでドリンク買ってきます!」

「ドリンク……」

「それと一緒に写真を撮りたい、ってこと?」


 呟くオルテンシアに続けてリュカが聞くと、シウは大きく、何度も頷いた。


「そうっすそうっす!」

「……なるほど、分かりました」


 オルテンシアが首肯しながら腕を組む。シウは顔を輝かせ、トン、と自身の胸を叩いた。


「そうだ、皆さんの分も買ってきますよ!」

「え」


 思わずリュカの声が漏れる。


「流石に僕1人分ってわけにはいかないっすからね」

「いや、でも」

「あ、喉乾いてないとかなら、全然! どっすか?」


 まぁ、必要ないほどの物でもない。連れを待たせて自分の分だけ買うのが気になる、というシウの気持ちも分かるし、ここは頼もうか。


「では頼みます」

「あ、俺も。お願いしようかな」


 一足先に口を開いたオルテンシアに続く。楠は2人の顔をそれぞれ見やり、最後にシウに向け片手を上げた。


「じゃあ私も」

「任せてくださいよ!」

「というか、私も行くよ。1人で4人分は持てないでしょ」

「えっ、そんなそんなそんな、だいじょう……ぶ、ではないか。ないっすね、確かに」

「うん、大丈夫じゃないね」

「あー、じゃあ、お願いしてもいいっすか?」

「うん」


 楠は頷き、リュカを見上げる。


「苦手な物は?」

「俺?」


 自分の顔を指せば、楠はもう一度頷いた。

 なぜ急に。いや、そうか。ドリンクのフレーバー選びの参考にするためだ。


「うーん、炭酸かな。あとアルコール。それ以外のフレーバーとかなら特に」

「分かった」


 連れ立って歩いていく2人に手を振って、その背を見送る。それから、自分と同じようにその場に残った彼女の頭頂部をチラ、と見下ろした。

 唇を湿らせる。気まずさを隠した笑みを浮かべ、オルテンシアの顔を覗いた。


「あそこ、座って待ってましょうか」


 そう言いつつ通路に並ぶベンチを指せば、オルテンシアはパチ、と大きな目を瞬かせ「はい」と頷いた。

 長いベンチに促すと、彼女は左側に寄って座った。それを受け、リュカは右側に寄って腰掛ける。

 そんなわけで珍しい組み合わせだ。

 飛行艇の外、魔獣鎮圧任務外でオルテンシアと並び座る事なんて今まであっただろうか。確信はできないが、まぁ恐らく無い。そもそもリュカがプライベートで行動を共にする相手はアレサンドロばかりだったのだ。それが今、他の人物と一緒で、それも3人も! どうなっているんだ最近の俺は。そう思わざるを得ない出来事である。

 等と考えている間にも、2人分ほど開いた距離を無言が通っていく。

 

「……あの2人、大丈夫でしょうか」


 ぽつり、とオルテンシアが呟く。

 リュカはハッ、と顔を上げ、彼女の方を見た。

 オルテンシアは相変わらずの綺麗な姿勢で座っている。背凭れを使わずにピンと背筋を伸ばし、膝の上に置いた片手をもう片手で握りしめていた。

 

「大丈夫ですよ」


 リュカは敢えて、ゆったりと座り直してみせる。


「上手くやっていけそうじゃないですか、あの2人」

「そう思いますか?」

「はい。今の所先輩後輩感、というより同僚感が強く見えますけど……」


 そこで少し言葉を探し、


「うちの楠からすれば、そういう相手ができたのは大きいと思います」


 そう言うと、オルテンシアは小さく息を飲んだ。そして細く息を吐く。


「お見通しですか、やはり」

「いえ、流石だなと思ったんですよ。よく新人のことを考えていて」


 オルテンシアは眉を下げ、立てた指でくるり、と髪を巻いた。リュカは微笑みながら小首を傾げる。

 

「あの2人が若手同士高め合っていけるように、って、そのための交流会なんでしょ、これ」


 ガレージでの会話通り、隊が違えば関わりはそう多くない。隊長同士だってそうだ。リュカとオルテンシアがこうして気まずい思いをしながら並んで座っているのが良い証拠である。

 ならばこの交流会の目的は、隊長バディ同士の顔合わせではない。

 これは、この度入った新人と、この度初めて後輩ができた新米先輩の顔合わせだったのだ。


「ナン・シウは、ずっと後輩として教わる立場でしたから。先輩としての自覚を芽生えさせてもらいたかったんです」

「問題ないと思いますけどね。彼、面倒見もよさそうですし」

「先程同僚感が強いって言ったばかりじゃないですか」

「まぁまぁ……でもほら、おかげであの子に近い立場の仲間ができましたよ」

「それは、良いことですが」

「そこまで考えてくれてました? もしかして」

「……相談相手は色んな立場の人が居た方が良いですからね」


 やはり。オルテンシアは、楠が隊長格との交流ばかりなのを気にしてくれていたのだ。

 本来ならば、バディであり隊長であり、その狭い交流の原因でもある自分が何かしら手を打つべきだったのだろう。ギルドに馴染んでいるか、と楠本人が気にしていることだって聞いていたわけだし。

 だがオルテンシアはそれより早く、この会を計画していた。シウと楠、2人の新人のために。


「本当に、立派だと思います」


 そう、つくづく思う。

 そんな一種の憧憬のようなものが籠ったリュカの言葉に、オルテンシアは、つい、と毛先を指先に滑らせた。視線を逸らしながらも口を開く。


「……それは、隊長ですから。当然です」

「いやまったくその通りです。俺も見習わないと」

「見なら……なにを言うんですか。見習ったのは、私の方ですよ」


 「えっ」、と間の抜けた声すら出なかった。

 本当に何を言っているのか分からなくて、不自然に黙ってしまう。

 だってそれは、え? 今の流れでそれは、つまり、どういうことだ?


「シモン隊長?」


 怪訝そうにオルテンシアが眉をひそめる。リュカはクエスチョンマークで埋まった頭をなんとか回し、口を開く。


「えっ、と、それは、見習ったって、誰を……」

「あなたですよ、シモン隊長。当然じゃないですか」

「当然……」

「なのにそのあなたが私を見習うだなんて言うんですから、もう。冗談も程々にしてください」

「あ、すみませ、ん?」


 反射的に謝ったが、やはり意味が分からない。

 オルテンシアが自分を見習った? 隊長として何もできていないこんな自分を?


「いや、いやいや待ってください」


 片手で額を押さえながら、もう片手をオルテンシアに向ける。瞑った瞳の暗い視界で、オルテンシアが「な、なんですか」と若干引いたのが分かった。


「なにか……ありますか、俺に、見習うような所」

「ありますよ」

「どこが」


 言ってから、はた、と目を開いた。

 これ、欲しがってるみたいか? みたいじゃなくてそうだろ今の。

 しかしリュカが咄嗟に訂正するより早く、オルテンシアが咳払いした。


「本人を目の前にして言うのは少々憚られますが……組織のために、自分ができることを率先してやろうとする所。私はあなたのそういう所を見習ってこの立場まで来たんです」


 顔を上げる。ぽかん、と呆けた表情でオルテンシアを見れば、彼女は小さく吹き出した。それを誤魔化すように再度咳払い。


「私が入りたての頃、あなたに質問をしたことがあります。覚えていますか?」


 言われて考える、が。


「……すみません」

「いいのです。失礼な質問でしたから、記憶に留めておきたくなくても仕方がありません」

「失礼な質問、ですか」


 そう言われてもなお思いつかなかった。オルテンシアが失礼な質問なんて、そんなことをするイメージがないけれど。

 オルテンシアは一度強く手に力を籠める。そして意を決したようにそれを口にした。


「なぜ、あなたはここで任に就いているのか、と」

「……はぁ」

「昔のあなたは何と答えたと思います?」


 なんだ、そんな()()()()()()()だったのか。

 それなら答えはこれだろう。

 間違いない。今も昔も、自分にとってそれだけは変わらないものだ。


「ギルドが好きだから」

「そうです」


 オルテンシアはどこか得意気に微笑んだ。自分の考えは正しいのだ、と自慢したそうな笑顔。


「なんであろうと自分ができることを探し、そのために努力し続けることができるでしょう、あなたは」


 それこそ自分が見習ったあなたなのだ、とオルテンシアは〆た。

 が――それでもリュカにはピンと来ない。

 自分は、彼女にそんなことを言われるような人間なのだろうか。

 そんなに大したことをしている気はしない。魔法音痴のリュカが、ギルドのためにできることなんて限られている。

 魔法陣隊のように自由自在に魔法を扱うことなどできないし、研究部隊のように魔獣と日夜向き合い新たな知見を開くこともできない。リーダーのようにギルドをまとめるカリスマ性も無ければ、飛行魔法使いのように空を自ら飛ぶことだってできない。

 それでもリュカはギルドが好きだ。自分の居場所のギルドが好き。だから少しでもそこに居続け、恩が返せるように、できることをしている。

 そこを褒められた。未だに実感は無い。無い、が、オルテンシアがおだてて嘘を言うような人物ではないことくらいは分かる。

 

「ですが」


 どこか心ここにあらずなままのリュカに、オルテンシアが固い声音で切り出した。

 見れば、常に力を入れている眉が更に寄り、眉間に深い皺を刻んでいる。


「これは私の質問も悪かったですが、しかし! 公の場で組織名を口にしたのはいただけません。どこで、誰が、どういう目で見ているか分からないんですから」


 まったく、とオルテンシアは漏らす。見慣れた、いつも通りの彼女だった。

 リュカは顔を緩ませ、上体を前のめりにして膝の間で手を組む。


「そこはでも、そちらも役職名で俺のこと呼びましたよね?」

「そっ、それは……そうしないと名前を呼べないじゃないですか!」

「えぇ。なので、ここは1つ、プライベートの間は役職抜きにして話しませんか」


 オルテンシアは困ったように唇をキュッと結んだ。何度も巻かれた毛先がすっかり癖になっている。それを引っ張り、観念したと息を吐いた。


「分かりました」

「良かった。俺はオルテンシアさん、と呼んでも?」

「構いません。……では、その、シモンさん、と」

「はい」

 

 リュカは頷く。

 そうだ、折角だしもう1つ気になることを聞いてみよう。


「すみません、少し話が戻るんですけど」

「なんですか?」

「気になってたんですよ。どうして本当のことを言わず、俺ら込みでの顔合わせ、ってていにしたんですか?」

「えっ!?」


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