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「はい到着。お疲れ様」
「ありがとう」
指定の位置に着陸し、飛行バイクを一時停止させる。両足の裏がしっかりと地面を捉え、ようやく一息つけた心地がした。
楠がヘルメットを外すのを横目に、リュカはきょろ、と辺りを見渡す。自分達より先に到着しているはずの彼らは……居た居た。地下駐車場から上がってくるオルテンシア達に片手を上げて合図を送り、それから楠の方に顔を向けた。
「きみはコンティ隊長達と待ってて」
……謎の無言。
なにか言いたげなことだけが分かる目でまっすぐ見つめられ、リュカの眉が自然と下がった。
「この間、なに?」
「まぁ、いいけどさ」
「本当になに……?」
取れるんじゃないかというほど首を傾げても、なにも分からない。今までだって先に降りててもらってたじゃんか。オルテンシア達とだって仲良さそうだし、いったいなにが気に障ったのだろう。
その間に楠はさっさとサイドカーを降りていた。外していたバッグを斜めにかけながら、ちらりと一瞬こちらを振り返る。
「いってらっしゃい」
「……うん」
なんでこっちがこんなもやもや抱えないといけないんだ?
とは思いつつ、言葉を飲み込んで再度飛行バイクを動かした。
オルテンシア達が上がってきた横をすり抜け、地下へと下っていく。ついさっきまで空中を下って一番下まで来たはずなのにさらに底があるのだから、この星はなんとも広い。
長く飛行艇であらゆる地域を巡って来たつもりだが、己が知る世界なんて狭いものだ。井戸の中のカエルってこんな感じなんだろう。地下だけに。……我ながらなにを言ってるのか。
地下云々は置いておいて、自分が大海を知らないのは事実だ。ここ最近それをつくづく実感させられる。
楠のせいで。
彼女のせいで、リュカは誰かと飛ぶことを覚えてしまいそうだ。
これは、非常に良くない。
身体に染みついた動きでバイクをとめた。グッ、と握り込んだグリップからゆっくり力を抜いて、指を解く。それからヘルメットを脱ごうと両手を添えて、俯き目を閉じた。
細く息を吐く。
浮かれない。
期待しない。
近付かない。
そうしてヘルメットを取った。
よし、行こう。大丈夫、いつも通りだ。
坂を上って地上に出ると、すっ、と穏やかな風がリュカのロングジャケットをひらめかせていった。この辺りは分厚い生地で着こんでいても程よく過ごしやすい気候をしていて、リュカとしては大変助かる。服選びに暑さは気にしていないが、暑いものは暑い。
「あっ、こっちっすー!」
声の方を向けば、シウが大きく手を振っていた。傍らのオルテンシアが額を押さえている。首元で髪を押さえながら楠がなにかを言い、オルテンシアは弱々しく首を振っていた。
「お待たせしました」
「いえいえいえ! ぜーんぜん!」
「問題ありません、が……ナン・シウ、あなたはもう少し落ち着きを持ちなさい。公の場ですよ」
「えぇーじゃあ、コホン。全然、待ってないっすよ」
「だからって小声で内緒話しろと言ってるわけじゃありません!」
魔法陣隊バディの応酬に苦笑していると、楠がすすす、と寄って来た。
「どうしたの?」
と聞きながら背を屈める。
「この人たち、ずっとこの調子なんだけど」
「よく気付いたね。本当にずっとこの調子だよ」
「ずっと?」
「ずっと。シウさんが入ってから2年と5か月間」
楠の眉間に皺が寄る。彼女は第一印象で受けるイメージよりずっと表情が動くタイプだ。
「まぁ、最初から関係値が完成してたってことで」
「良いように言うなぁ……」
そう言いながら楠は肩をすくめた。フォローのつもりだったのだが、伝わっただろうか。
「とにかく!」
パッ、と発せられた通る声に視線を引き付けられる。
オルテンシアの花咲く瞳がぐるりと3人を見やった。指を1本立てる。
「揃ったことですし、行きましょう。時間も有限ですからね」
「はーい」
シウの返事に合わせてリュカ達も頷く。4人揃ってぞろぞろとターミナル出口の方へと歩き出した。
「とは言いますけど、どこ行くんですか?」
楠が尋ねる。
オルテンシアはちら、と後続のシウを振り返り、
「彼が行きたい所があると言うので、そこに。買い出しは荷物になりますから、帰る直前でどうでしょう」
「良いと思います」
前方で隣り合って話す2人に、リュカは己の隣を行くシウを見た。
「行きたい所があるんだ?」
「そうなんすよ。最初は別に僕1人で行きますよーって言ったんすけど、隊長がそれじゃ意味ないって」
「それは……そうだろうね」
「でも確かに、交流会なんすもんねぇ。じゃあ納得っす」
「それもそうだけど」
一瞬周囲が陰る。飛行バスが到着したようだ。
停留所には大勢の人で列ができていた。そこに、大きなバス車両が降下してくる。
それを見上げながら呟く。
「折角の機会なんだし、行きたい所には皆で行こうよ」
シウは二、三度瞬きした。ふむ、と考えるように俯き、顔を上げる。
「なるほど、そういうのもアリっすね」
「いつもは違うの?」
「そーうっすね。僕は目的が同じなら一緒に行けば良いし、違うなら各々好きな所で楽しめばいいんじゃないかなって思うタイプなんすけど」
その発想はリュカには無かった。しかしそうか、そういうタイプの人も当然いるだろう。
それならもしや、今の己の発言は押し付けになってしまっただろうか。不安が過ぎるリュカに、シウはにこやかに笑った。
「でも、リュカ・シモン隊長達と色々お話したいんで! まじで今日楽しみにしてたんすよ」
これかぁ、と思う。
今のシウに、彼がオルテンシアとすぐさま関係を構築したその流れの一端を見た気がした。
……ぺかーっと眩しいその笑みに、一瞬気圧されそうになったのは秘密だ。




