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o゜包o≡ 足=  作者: 〇樽小樽
ep.2 目が眩むような
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12

「あの」


 楠が軽く片手を上げる。


「つまり、その人がコンティさんのバディの方なんですか?」

「はい!」


 問に答えたのは当の彼だった。

 今まで黙って様子を見ていた彼は、よいしょ、とボディバッグの位置を軽く直す。そして明るい笑みを浮かべた。


「改めまして。姓はナン、名前はシウっす! ギルド北支部で魔法陣隊に所属させてもらってます!」

「楠です。姓が楠で、名前はゆかり。陽動飛行隊です」

「楠ゆかりさん! よろしくおねがいします!」


 彼――シウの眩しい笑顔に、楠は「おお」と目を丸めた。気持ちは分かる。ナン・シウ。リュカ、アレサンドロ、オルテンシアと、これまで楠が関わってきたギルド隊員の中にはいなかったタイプだ。こういう人もいるのかぁと新鮮さを覚えた、とか、そんな感じだろう。


「実は僕もまぁまぁ新人なんすよ」

「へえ。コンティさんのバディだっていうから、てっきり大ベテランなのかと」

「と、言っても2年くらいは経ってるんすけど。でもほら、ギルドってあんまり新人入らないじゃないっすか。だから僕にとったら初めての後輩で嬉しくって!」

「2年と5か月です」


 オルテンシアの訂正に「そうでした」とシウは舌を出す。

 ふむ、と思い返してみるとその通り。楠は、ギルド北支部全体をして実に2年以上ぶりの新人だった。

 ギルドには、毎年新しく隊員が入る時期というものが存在しない。魔法使いの集まりかつ魔獣対処の専門チームということもあり、ある程度人選が限られるからだ。その限られた前回の新人が、まさしく目の前の彼だった。


「だから僕のことは気軽に、良きように呼んでくださいね。敬語もね、あってもなくても良いんで! 新人同士っすから!」

「あなたまだ新人気分なの?」

「隊長~加入順ならまだまだ新人っすよ僕は!」


 シウがそう胸を張る。オルテンシアはため息を吐いているが、まぁ確かに、リュカなどから見れば彼もまだまだ新人くくりと言って良い。

 とはいえ彼は立派に魔法陣隊として務めている。魔法陣隊の活躍を一番近くで見ることができるのは、共に現場に出る陽動飛行隊だ。そのリュカから見た限り、シウは加入当初から要領良く任務に当たっていた。

 面倒見の良い相方に教えられ、メキメキとその力を伸ばす将来有望な魔法陣隊隊員。それがリュカの、現時点でのナン・シウへの印象だ。


「コンティさんは、どう呼んでるんですか?」


 楠が尋ねると、オルテンシアは嫌そうに眉の皺を濃くする。


「チョコレートともビスコッティとも呼んでいませんよ」

「なんすかそれ」


 と首を傾げるシウ。


「なんでもない!」


 オルテンシアがピシャリと言うと、彼は「えー」と口を尖らせながらも素直に引き下がった。


「ですから私は至ってそのままです。ナン・シウ、と」

「なるほど」


 楠は頷き、今度はリュカを見上げる。


「あんたは?」

「え?」


 まさか振られると思わなかった。ぱち、と瞬きして考える。

 改めて問われると少し戸惑ってしまう。いつも特に意識していないことだから。えーっと、確か、


「シウさん、かな」

「あぁ……」

「え、なに? なにその反応」

「いや、ぽいなぁと思って」


 どういうこと……? 

 まったく「ぽい」の意味が分からないが、楠は案の定それ以上言及する気が無いようだった。こういう時、置いてけぼりにされてる気分になって少し胸がもやっとする。


「じゃあ呼びやすさ重視で、シウさん。よろしく」

「オーケーっす! こちらこそ~!」


 そんなリュカを他所に2人は初対面を済ませていた。新人たちの和やかな雰囲気に、どこか肩の力が抜けた様子のオルテンシアが口を開く。


「では、挨拶も終わったことですし。行きましょうか」

「了解っす!」


 改めてガレージ内を見れば、2台分の飛行バイクが準備されていた。年季が入りながらも手入れの跡が見られる1台と、比較的新しくも使い込まれた1台。これだけで性格が見られるものだ。

 リュカは後者の飛行バイクの傍に立つシウに尋ねた。

 

「シウさんは、よく地上に行かれるんですか?」

「そうっすね。やっぱり色々、そこでしか見れないものとか見てみたいんで!」

「あぁ、確かに。色んな地域に行けますからね」

「そうなんすよ~! あ、勿論ちゃんと訓練だってしてますし、任務最優先っすよ! えぇ!」


 オルテンシアが渋い表情で「まだ何も言ってませんよ」と呟く。


「というか、そうだ。リュカ・シモン隊長も敬語とかどっちでもいいっすからね。良きように接してくださいよ!」

「そう? じゃあ遠慮なく」

「いやぁ、こうしてお2人とお話しできて本当に嬉しいっす! ほら、前も言いましたけど僕、影薄いんすよ。僕たち魔法陣隊と陽動飛行隊の仲なのに2年間殆どお話できなかったじゃないすか」

「あー……」


 ちら、と彼の隣のバディを見る。

 以前も思ったが、彼のこの「影が薄い」自認、真実は恐らくちょっと違う。正確には、任務中バディとして常に彼の隣にいる人物――オルテンシア・コンティがとんでもなく目立つからそちらに目を持っていかれがち、といったところだろう。

 とはいえリュカは彼のことを知っていたし、任務関連で何度か話したこともある。つまり、これまでリュカとシウの交流が無かったのはそれが原因というわけでは無い。


「まぁ実際、隊が違うと任務外で関わることは少ないからね。任務中だって隊同士の報告は隊長を通すし」

「そうっすよねぇ。だから僕のこと知っててくれたのが余計嬉しくて……って、あれ?」


 そこでシウが小首を傾げる。


「それ、別にこれからも変わらないっすよね?」

「それ?」

「関わり度合いというか」

「あぁ、そうだね」

「でも僕たち隊長バディ同士、顔を合わせることも多くなるんすか?」


 ぎくり。と、オルテンシアの肩が揺れた。


「あーっ、と、それは」


 次いでリュカも目が泳ぐ。別に疚しいことなど一切ないのに。

 オルテンシアの真意がリュカの想定通りだったとして、それがバレて困ることもないと思う。ただ、オルテンシアがどうもそれを隠したいようだから……なんとか誤魔化したいけれど。


「リュカ」

「うん!?」

「なに驚いてんの」


 ビクリと大袈裟に振り返れば、半眼の楠が飛行バイクを押し引いていた。その見覚えの在りすぎる車体に慌てて駆け寄る。


「ごめん、俺がやるよ」

「別に、運ぶぐらいはね。乗せてもらうわけだし」


 そう言う楠の手からするりと飛行バイクを掠め取る。そうして出発しやすいように動かしていると、感嘆の声が背後から上がった。


「おぉー。それサイドカーっすか? 現実で初めて見た……」


 興味深げに近付くシウに、楠が返事をする。


「これ、やっぱりギルドじゃ常識ってわけではないんだ」

「そりゃそうっすよ! まぁ確かに個人用の飛行バイクは皆好きにカスタムしてるっすけど、サイドカーとなると僕はマジで見たことないっす」

「ふぅん。シウさんの飛行バイクは、それ?」

「はい! 僕は特になんも弄ってないっすねぇ。でもこうして見るとサイドカーかっこいいなぁ……でも運転むずいんだろうなぁ……」

「そうなんだ」

「そりゃあもう、普通の飛行バイクとはまた違う運転技術が必要なんじゃないすか? 良くは知らんすけど。楠ゆかりさんから見てどうすか、その辺」

「私乗ってるだけだから、なんとも」

「そうすか乗って、え? サイドカーに?」

「うん」

「え?」


 なにやらシウにとって衝撃の事実が発覚したようだが、それについては深く触れまい。

 とにかくその間にリュカの飛行バイクも準備を終えた。色々と確認するべき所を確認して、大丈夫いつも通り。動作不良は見られない。問題なく運転できるはず。


「お待たせ。いつでも行けるよ」


 立ち上がって声をかけると、楠は慣れた動作でサイドカーに乗り込んだ。シウがぽかん、と口を開けてそれを見ている。


「ナン・シウ、急ぎなさい」


 オルテンシアが声をかけた。彼女はヘルメットを両手に掲げて、すっかり準備万端だ。シウはバタバタと自らの飛行バイクの元へと戻っていく。


「隊長、隊長! 僕もあれしたい!」

「おばか! 自分で勝手になさい!」


 そのやり取りに苦笑し、リュカはサイドカーで寛ぐ楠を見下ろした。

 なんてことないいつも通りの表情。ヘルメットの留め具をパチンと付け、その背を凭れさせる。そうして視線に気づいたのか、こちらを振り仰いだ。


「なに?」


 リュカが答えるより早く、重い駆動音が響きだした。ガレージのシャッターが上がり出す。

 白い煙のような雲を眺め、リュカは首を振った。


「行こうか」


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