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o゜包o≡ 足=  作者: 〇樽小樽
ep.2 目が眩むような
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11

「えっ」


 外出用ガレージにリュカの素っ頓狂な声が響く。その隣で楠が「お待たせしました」と会釈した。


「いえ、時間通りです」


 組んだ腕を解きながらオルテンシアが返事をする。

 それに対し楠はぱち、と瞬きを1つ。


「5分前集合しろって言われるかと思いました」

「くっ、楠さんの中の私はどんなイメージなんですか!」


 オルテンシアは、ぐっと両手を握り締めてそうツッコみ、それから嘆息した。


「連絡もなく遅れた、とかならまだしも。時間通りに来た方にそんな無粋なこと言いませんよ」

「なるほど。ちょっと誤解してました」

「もっとも任務となれば話は別ですが」

「……なるほど。誤解ではなかったかもしれないです」

「なんなんですか!」


 まったく、とオルテンシアが腰に手を当てる。その拍子に肩から下げたショルダーバッグの細い紐がずり落ちた。

 オルテンシアの私服をリュカは初めて見た気がする。

 いや、長いギルド所属歴の中で初めてということは流石に無いか。しかし記憶の中の彼女は大体が隊服だ。

 それも当然、リュカとオルテンシアがプライベートで出かけることなんてこれまで無かった。だからもし私服姿を見たことがあってもそれは廊下ですれ違ったとかでしかなく、それよりは任務や打ち合わせ等を共にする隊服の方が当然記憶に残る。

 

 と、まぁそれも気になる所ではあるけれども。

 リュカが驚いたのはそこではなく。


「きみ」

「リュカ・シモン隊長! この間ぶりすね」


 彼はオルテンシアの斜め後方でピシッと背筋を伸ばして立っていた。

 この間、とは、楠を探して飛行艇を彷徨っていた時のことだ。あの日居住区の前で鉢合わせた魔法陣隊の隊員。その彼はリュカと目が合うと、ニカッと懐っこく笑った。


「まさかこの間の今日でご一緒できるなんて思わなかったっすよ! 今日はよろしくお願いします!」

「は、はい。こちらこそ」


 なんとか返事はしたものの、未だ脳内は困惑が占めている。

 なぜ彼がここに。ガレージの利用時間が被った、というわけではないだろう。だって今まさに「ご一緒」と言った。ということは――。

 そんなリュカの様子に何かを察したのか、オルテンシアが楠をねめつけた。


「楠さん? あなたまさか、シモン隊長に何も言ってないんじゃないでしょうね」

「そんな、ちゃんとコンティさんに誘われたって言いましたよ」

「同行メンバーのことは?」

「……あ」


 もう! とオルテンシアの叱責が飛ぶ。楠はバツが悪そうに首筋をひっかきながら目を逸らした。

 

「シモン隊長、すみません。連絡がきちんと行っていなかったみたいで……」


 眉を下げるオルテンシア。リュカは慌てて首を左右に振る。


「大丈夫ですよ。ちょっと驚いただけで」


 そして指で頬をかきながら


「それに俺は運転手ですし」


 と言えば、三者三様に声が上がった。


「え?」「はい?」「えー!」

「え、あ、あの?」


 目をぱちくりさせる。な、なんだこの反応。

 後者の魔法陣隊2人はともかく、なぜ楠までそんな反応なのか。リュカに地上までの脚を頼んだのはそっちなのに。……正確には、リュカが申し出た形だったわけだけれど、まぁその前後は良い。


「あんたも一緒に回るんでしょ」

「え!?」


 ごくごく当然のように言われた楠の言葉に、驚きの声が漏れる。


「回るって、地上を?」

「それ以外何があるの」

「一応、念の為聞くけど、その回るっていうのは見て回るとかそういう意味の回るで合ってるよね?」

「だから、それ以外何があるの」

「だって、聞いてないよそんなこと。俺はきみを地上に送り届ける役のつもりで」


 来たのに、と言いかけた所で、オルテンシアの怒ったような声が割り込んだ。


「それも言ってないんですか!」

「……そういえば、それ自体は言ってないかもしれないです」


 と顎を撫でながら楠。


「あなた一体、どんな誘い方をしたんですか!? 肝心なところがなにも伝わっていませんよ!」

「肝心なところ?」


 引っかかるワードに首を傾げる。オルテンシアはリュカのその疑問の眼差しにハッと気が付くと、咳払いして片手を広げた。その手で背後の彼と、楠を交互に示す。


「実は、今日はこのお2人の顔合わせを兼ねたバディ交流会、の、つもりだったんです」

「顔合わせ……」

「ですから元々この4人で町に行く予定で……ですが、そうですね。シモン隊長へのご連絡を任せきりにした私の責任です。申し訳ありません」


 そうしてきっちり、丁寧に頭を下げた。


「いやいやそんな」


 そんな彼女に姿勢を戻すよう促す。オルテンシアが顔を上げたのを確認すると、リュカは背を曲げ、楠の顔を覗き込んだ。

 ちら、と横目で楠が見上げてくる。


「丁度良かった、って、そういう意味だったんだね」


 あの時は、丁度良い足を見つけた、という意味かと思ったが。どうやら真意は違ったらしい。

 町での交流会の話をしようとしていた所で、リュカが楠を地上に連れていくと申し出た。なんともタイミングが丁度良い。

 きっと楠の中では「丁度良かった」の言葉1つに、以上のことが全て詰まっていたのだろう。相変わらずの過程を省いた結果話法だった、というわけだ。


「ごめん」

「いいよ。伝えたつもりだったんでしょ」

「あんた、今日用事あるの?」

「きみの足になることくらいかな」


 冗談めかしてそんな言い方をすれば、楠は一つ息を吐いた。


「足にしてるのはその通りだから反応しにくいな……」

「俺から足になるって言い出したのに?」

「こっちは乗せてもらってる立場ですから」

「きみって意外とそういう所気にするよね」


 口角が緩む。そんなリュカに楠の視線が突き刺さった。

 もしかして、馬鹿にしたとか思われただろうか。そんなつもりは無かったのだけれど……と誤魔化すように首を傾げる。そして、改めてその場の3人に向き直った。


「とにかくそういうことだから。その交流会、俺も参加していいですか?」


 楠が頷く。

 2人のやり取りを見守っていたオルテンシアが、ほっとしたように胸を撫で下ろした。


「勿論です。寧ろありがとうございます」

「こちらこそ。声かけてくれてありがとうございますコンティ隊長」

「い、いえ。これは今後の任務のためにもなりますからね」


 オルテンシアの指が毛先をくるりと巻き付ける。

 

「隊長バディ同士、顔を合わせることも多くなるでしょう。早いうちに交流を持っておいて損はないはずです」


 ん? リュカは内心首を傾げた。

 どういうことだろう。今の発言には違和感がある。一体彼女はどうしてそんなことを――と、考えて気が付いた。

 なるほど。この推測が正しければ、流石はオルテンシアだ。この気遣いができる所が彼女の良い所だろう。隊長として、己のできる事をよく考えている。

 すっ、とオルテンシアの腕が下がる。巻かれた毛先がくるん、とはねた。

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