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o゜包o≡ 足=  作者: 〇樽小樽
ep.2 目が眩むような
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 そんなわけですっかり勢いを削がれてしまった。悪い意味ではない。どことなくすっきりした気分だ。力が抜けた肩を一度大きく回す。それから部屋の端に置かれた椅子を運び、デスクのサイドに座り込んだ。


 モニターの映像は終盤に差し掛かっていた。画面の奥から魔獣が向かってくる。それを引き連れるようにリュカが飛んでいるはずなのだが、魔獣に比べて小さな人間の姿はこの距離だと殆ど認識できない。

 ただ、魔獣の上方に1つ、小さな点が見える。

 

「しかし楠なぁ。本当に大収穫だった」


 アレサンドロは背凭れに身を預けながらそう言った。


「ここまで希望通りの人材を見つけられるなんてな」 

「彼女、これで電球より高く飛んだこと無かったんだって」

「それが今や遥か上空を難なく飛び回ってる。これが才能かぁ」

「アレサンドロが言うとちょっと嫌味っぽい」

「あれ、そんなつもりないのにな」


 リュカは肩をすくめる。

 魔法の才能、という点でアレサンドロの右に出る者はいない。少なくともリュカの知る中には。

 リュカは魔法音痴なので、魔法の使用感については詳しくない。だがアレサンドロの魔法自体はずっと傍で見てきた。

 ギルドの隊員たちは己のような一部を除いて殆どが優秀な魔法使いだが、そんな彼らをもってしてもアレサンドロ以上に繊細に、正確に、素早く魔法を使える者は見当たらない。もしかしたら、飛行魔法の一点だけで言えば楠に軍配が上がるかもしれないが、それでも魔法全体で見ればアレサンドロには敵わないだろう。

 ……いや、楠なら、もしかして? あれだけ天才的な飛行魔法の使い手なのだ、他の魔法についても驚くべき才能を見せてくれるかもしれない。


「でもそうだね。あの子は天才だよ」

「へぇ? おまえがそう言うって珍しいな」


 器用に片眉を跳ねさせる。アレサンドロのそんな興味深げな横顔越しに、映像は大きな動きを見せていた。

 魔獣が大きく回転する。その巨体の下を潜り抜け小さな人間が飛び出した。「ヒュウ」、とアレサンドロが楽し気に声をあげる。


「アレサンドロはさ、飛行魔法ってどうやって使ってるの?」

「お、相方に興味が出てきたか」

「そういうの今はいいから」


 呆れたため息と共にそう言うと、アレサンドロはやれやれ、と首を振った。それから足を組む。片膝にもう片足の靴を乗せるタイプの、どっしりとした組み方だ。リュカはこれを見る度に、ズボンの膝が汚れるのでは、と少し心配している。

 

「飛行魔法はさ、いわゆる体内利用魔法なんだよ」

「体内利用」


 モニターの映像が止まる。かと思えば、映像中の魔獣と2人は紐で操られるような不思議な動きをしながら時を巻き戻されていった。


「通称、体内魔法な。魔法を体内で使うってこと。この辺は義務教育とか高等学校教育でもやる範囲なんだけどなぁ」

「知ってるよ。ちゃんと習った。魔法教育は実技が駄目な分筆記で点取らないとだったから」


 学生時代を思い出す。実際問題それでなんとかなったのは義務教育までだった。そもそもが筆記のテストとやる気で評価されてようやく中の上の成績だったわけで、実技が評価の大半を占める高等学校ではその技は通用しなかった。

 それでも詰め込んだ知識はきちんと根付いている。頭の棚から、目当ての分野でラベリングされた引き出しを探した。

 

「魔力と特定の物質を反応させることで、魔法という現象が発生する。体内魔法ってことはつまり、人間の身体の何かと魔力を反応させることで、飛行魔法が使えるってことだよね」

「そうそう。言葉にすると単純だけど、これが中々難しい」

「単純かなぁ。きみだけじゃない?」

「いや? だってやってることは体外魔法と同じだからな。理屈自体は単純だよ。実践するのは難しいけど」


 へえ、と素直に頷く。正直リュカからすれば全ての魔法は複雑で難しい。でもアレサンドロがそう言うのなら間違いはないだろう。

 

「ただなぁ、飛行魔法を完成させるには、いくつか反応を起こさないといけないんだよ」


 そう言うとアレサンドロは身を起こし、デスクの引き出しから紙を引きずり出した。


「それ大丈夫な紙?」

「問題ない。適当なコピー紙だよ」


 それから上着の内ポケットからペンを引き抜く。彼は椅子のひじ掛けを台代わりにし、さらさらと何かを書き付けた。リュカに見やすいようにしてくれたのだろうけれど、よくその狭い場所と身を捻ったような体勢で物が書けるなと思う。


「まず、そもそも身体を浮かせなきゃならない。だからこうして、体密度を小さくする」


 トン、とペン先で指された魔法式を見る。なるほど、こういう反応か。

 そうやって体密度が下がれば、浮力によって体は浮き上がる。ようは風船の原理だ。


「これだけでも飛行っちゃあ飛行だけど、これじゃあ自由がない。風の赴くままに飛ぶだけの綿毛と一緒だ」

「手を離された風船じゃなくて?」

「そういう時もある。とにかくそうじゃなくて、飛行魔法とは自走式の綿毛もしくは風船になることと見つけたり、ってな。つまり自分で移動するために……こう」


 新たに魔法式が示される。魔力と……なんだこれ?


「筋肉だよ。まぁ滅多に見ない式だから」

「筋肉に式なんてあったんだ……」

「式を使うあらゆる学問の中でも魔法学くらいかもな。とにかく、魔力を筋肉に作用させることで大きな爆発力を得る。ほら、良い例だ」


 ペンがくるりと回り、ピッ、とモニターの方を指す。釣られてリュカは顔をあげた。

 いつのまにか映像はズームされていた。先程より陽動飛行隊の姿が大きく見える。映像はその中でも魔獣の上部、楠を中心に映していた。

 楠はまるで空中を泳いでいるかのような体勢でまっすぐ空を飛んでいた。ぐっ、と片膝を曲げ身を縮める。そして空中を蹴りつけると、彼女の身体は弾かれたように速度を得た。


「今の」


 映像が止まる。


「今のが、この式で説明した魔法。速度を出したり方向転換したり、そのための爆発力を得る魔法だな」


 リュカは大きく頷いた。

 ようやく合点がいった。リュカが今まで想像していた飛行魔法の正体はこれだったのだ。知りたかったことが明確に解決して、なんとも晴れやかな気分である。


「で、最後に一番大事なやつ」


 とか思っていたので、リュカはその言葉に目を大きく見開いて驚いた。

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