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o゜包o≡ 足=  作者: 〇樽小樽
ep.2 目が眩むような
39/66

「友人の願いは叶えたい、ねぇ」

「なんだよ急に」

「きみがいつ俺のお願いきいてくれたのかな」


 両手をデスクにつき、じとりと半眼で見やる。だがアレサンドロはどこ吹く風といった様子でリュカの視線をいなし椅子を引いた。


「逆に聞くけど、いつ僕がおまえの頼みをきかなかったよ」

「よく言うよ……」

 

 ため息混じりに呟く。見下ろした先にアレサンドロの名札が置かれていて、リュカはそれを恨めしい気持ちで睨んだ。

 アレサンドロはモニターに姿勢を向けながら、顔だけで正面のリュカを見上げてくる。


「それで? わざわざ僕を待って、しかもこの部屋に来てまで言いたかったことがそれか?」


 頬杖をつき、にやりと笑う。そんなアレサンドロにリュカは俯いたまま声を絞り出した。


「そうじゃないけど」

「いつまでも拗ねるなよ」

「拗ねてない」


 嘘だ。誰が聞いても嘘だと分かるくらいの低い声音。それを自覚してしまったことが一番気恥ずかしい。

 でもこれは仕方がないことだった。だってアレサンドロが悪い。願いを叶えたいとか言っておきながら堂々と友人を裏切った彼が悪いのだ。


「俺は1人で飛べるって言ったのに」


 だから相方はつけないで欲しい。そう頼んだはずなのに、何故だかリュカの所属する陽動飛行隊には今新人隊員が居て、しかもリュカとバディを組んでいる。これが裏切りじゃなければなんだというのだろう。


 ……いや、分かってはいる。ギルドとしては飛行魔法使いが居た方が良い。それだけでできることが格段に増える。だからアレサンドロは飛行魔法使いを探して様々な町に聞き込みを続けていたわけだし、リュカもそれを知っていた。

 それに、リュカの幸運は魔獣鎮圧における大きな不安事項の1つだ。それもリュカにバディがいればある程度は解消できる。

 だから、ギルド北支部リーダーのアレサンドロ・レオーネはリュカの願いを叶えられない。それも分かっていた。


 だがそれでも割り切れない。

 だってリュカとバディを組んだらどうなるか、アレサンドロが想像できないはずもないのだ。それなのにあの子――楠を連れてきて、あまつさえ正式に隊員にしてしまって、こんなのってない。


「でもさ、ちゃんと頼みはきいただろ。おまえの言う通り、飛行バイクで飛ぶことを条件にしたし」

「最初はね。でも結局飛行魔法で飛ぶことになった。きみが止めてくれると思ったのに」


 リュカが不満な理由のもう1つがこれだ。

 楠をスカウトしに行くと聞いた時、リュカは1つ条件を出していた。それが「飛行魔法使いであろうと必ず飛行バイクで陽動飛行に参加すること」である。

 なんていったって飛行バイクの方が速いし、リュカも詳しいし、教えられるし、陽動飛行の作戦も考えやすい。なにより身一つより絶対に安全だ。そんなようなことでプレゼンして、アレサンドロも確かに頷いてくれた。だからリュカは少しだけでも安心していたのに、結果はどうだろうか。

 いつのまにか楠は飛行魔法で陽動飛行することになっていた。おかしい。自分の願いを叶えてくれるというならアレサンドロは彼女を止めてくれるはずだったのに。

 そう不満たっぷりにぼやくが、やはりアレサンドロは全く悪びれず

 

「それはおまえ、より確実な方に賭けるだろ。臨機応変ってやつだよ」


 と、モニターを操作しながら言った。


「……嘘つき」

「おいおい、僕が?」


 心外だ、とでも言いたげにアレサンドロが肩をすくめる。


「いつ僕が嘘吐いたって……くっ、はは」

「自分で言って自分で笑ってたら世話無いよ」

「アハハ!」


 腹を抱えて笑うアレサンドロに、リュカはこれ見よがしにため息を吐いた。

 アレサンドロは嘘つきだ。別に悪いこととは思っていない。彼はこの北支部のリーダーだから、時にそういう腹芸が必要な時もある。そんな彼の嘘に自分達隊員が救われたこともきっと何度もあるだろう。

 でも今の嘘はいただけない。


「そもそも最初から飛行魔法で飛ばせる気だったでしょ」


 アレサンドロは目を細め、モニターに視線を向けた。

 ついた両手に体重をかけ、ぐっ、と身を乗り出す。覗き込んだモニターには、あの時の映像が映し出されていた。

 定点映像だ。中サイズ鳥型魔獣に対する陽動飛行の様子が記録されている。場面は丁度、楠の無謀な飛行のシーンだった。

 映像の中の小さな楠がぐんぐんと画面上部へ上っていく。


「臨機応変とか言って、計画通りだったんだ」

「それは言い過ぎ。計画通りってわけじゃないさ」


 一瞬画面から楠が消えた。次の瞬間、彼女は魔獣の影から現れ急降下していく。魔獣が姿勢を変えその後を追った。

 

「あのまま楠が飛行バイクで飛ぶ気だったら僕はそれを応援したよ」


 それに、とアレサンドロは続ける。


「おまえの言う通り、楠が辞めたいって言い出したら決して引き止めずそれを認めるつもりだった」


 映像は、飛行バイクを繰るリュカが楠と魔獣の間に割り込む所を映した。

 リュカはモニターから視線を逸らす。アレサンドロは手元を弄りモニターを操作した。再生速度が速くなる。


「実際あいつが臨時隊員の契約を終了させに来た時、僕はちゃんっと見送っただろ?」

「……それはそうだけど」

「ほら。嘘つきは否定しないけど、この件に関しては嘘なんて吐いてないって」


 あまりにも自然な言い方に思わず頷きかけて、いやいやいや。危ない。誤魔化されるところだった。首をゆるりと振って、改めてアレサンドロを見下ろす。


「で?」

「で、とはなんだよ」

「飛行魔法で飛ばせる気だったんじゃないのか、についての答えは?」

「僕はさぁ、リュカ」


 アレサンドロはなんでもないような顔で、


「嬉しいよ。おまえがそうやって遠慮なく来てくれることがさ」

「なんか良い話しようとしてる? きみ、そういう話するような表情してないけど」

「おまえがそうやって僕の友人でいてくれるから、僕は僕を見失わずに済んでるんだ。ありがたい存在だよ」

「うーん……きみがこうやって回りくどい時にロクなことないんだよな。それで?」

「僕は楠を見つけた時からずっと飛行魔法で魔獣に接近させるつもりだった」

「やっぱり!」


 あっさりと告げられた事実に大きな声が出てしまった。

 ひらり、と目の前で、厚いリーダー用手袋に包まれた手が振られる。あやすような手つきだ。


「まぁまぁ、怒るなよ。怒るなら僕の話を聞いてからにしてくれ」

「怒ってはないよ。呆れてるだけ」

「じゃあ呆れるなよ」

「それはちょっと無理かもね。少なくとも今は」


 リュカはデスクから離れ姿勢を正した。手慰みに指を組む。それからしかめっ面でアレサンドロをねめつけた。


「嘘、吐いてないのは分かったよ。実際アレサンドロはあの子になにもしてないからね」


 飛行魔法で飛ぶことを決めたのは楠だ。その案を考え付いたのもそう。「飛行バイクが駄目なら飛行魔法で飛べばいい」と誰かに入れ知恵されたような様子もなかった。

 もしアレサンドロが本当に計画していたのなら、もっと確実な手段を取っている。彼自身が楠になにかしら働きかけていたはずなのだ。それがなかった時点でこいつの言う通り、確かにそこに計画性は無かったと考えていいだろう。

 アレサンドロは嘘を吐いていない。

 それはそれとして、リュカの願いは叶わなかった。それだけだ。


「きみの目的と俺の願いが相反してるならさ、言ってくれれば良かったのに」


 アレサンドロは飛行魔法使いを飛行魔法で飛ばせたかった。リュカは楠を飛行バイクで飛ばせてほしかった。それらはどちらか一方しか実現しない。だからアレサンドロは楠を止めなかったのだ。

 理屈は分かる。それなら彼は当然、リーダーである自分の目的を優先するだろう。

 でもだとしたら、最初に言って欲しかった。


「色々言ったけどね、我儘言うつもりはないよ。きみの邪魔にもなりたくないし、言ってくれればあんなお願いすぐ撤回した」

「そう言うと思った。だからだよ」


 どういう意味だ? 疑問に頭を捻る。そんなリュカにアレサンドロは柔らかく微笑んで、


「おまえに遠慮させたくなかったんだよ。友人なんだから」


 なんてことを言ったのだ。 

 言葉の意味を理解するのに少しだけ時間がかかった。ぱち、と数回瞬きする。

 アレサンドロはモニターに向けていた視線を一瞬こちらに向けて、今度はいつものように笑った。リュカで楽しんでいる時の笑い方。


「口開いてる」


 乾くぞ、と続ける友人にリュカは息を吐いた。

 彼とは長い付き合いだが、リュカはこいつに勝てる気がしない。だってそんなこと言われたら全部許してしまう。


 アレサンドロは、我等がギルド北支部リーダーだ。だから決定的な場面ではギルドのためを最優先に判断するし、それが当然である。

 それなのに彼はリュカの友人として、本当に出来る限りギリギリまで友の想いを繋ぎとめようとしてくれた。彼にかかれば、表に出る前に捨てられかけた物まで拾い上げられてしまう。

 これこそまさしくアレサンドロ・レオーネの真髄だった。リュカは彼のそんなところに惹かれた者の1人なのだ。

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