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o゜包o≡ 足=  作者: 〇樽小樽
ep.2 目が眩むような
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「さっきの」

「え?」


 オルテンシアに続いて廊下に出てドアを閉める。すると、傍の壁に背を付けた楠がなにやら声をあげた。リュカは身を屈めて首を傾げる。


「なに?」

「レオーネさんとの予定、私は要る?」

「あぁ、大丈夫だよ。仕事の話じゃないから。きみは好きにしてて」


 ふぅん、と楠は頷いた。


「友達なんだっけ。レオーネさんと」

「ともだ……あー、まぁ……そう、だね」


 ギクリ。リュカは顔を強張らせる。だが否定もできず、口ごもりながら肯定した。

 若干のピリついた空気。それに気が付いているのかいないのか、楠はリュカの背後に話しかける。

 

「……あの人、隊員みんなと友達らしいですけど、コンティさんもそうなんですか?」


 あぁ、まずい。

 背筋を冷たいものが流れ落ちる。そんなリュカをすり抜けるようにオルテンシアが一歩、楠に近づいた。


「あなたまさか、本気にしているわけじゃありませんよね」

「本気に、って」

「リーダーが私たちを友と呼ぶのはお優しいからです。隊員を大切に思ってくださっていることの証明であり、私たちの指揮を上げるため。意味があるんです。決して言葉通りに受け取っていいものではありません」


 オルテンシアは一息で言い切った。まるで自分に言い聞かせるような固い声音。胸の前で片手を握り締める彼女から、リュカは目を逸らした。……気まずい。


 オルテンシアにはこういう所がある。

 彼女はリーダーを強く慕っている。だからこそ、偉大なリーダーを友と呼ぶことに抵抗があるようだった。

 それだけではない。「アレサンドロが、己と同じ立場の隊員達から友と呼ばれること」。これもどうやら受け入れがたいらしい。

 リュカがアレサンドロに軽い調子で関わる度に、オルテンシアは気配を尖らせる。それだけでは終わらない。リュカとアレサンドロはプライベートでの友人同士で、オルテンシアもそれを知っている。それを思い出してバツが悪そうに唇をかみしめる、というところまでがオルテンシアのワンセットだった。

 毎度そんな態度を取られれば、どうしたって気になってしまう。何も悪いことなんてしていないのならば気にしなければいい、とはよく言ったものだが、それはリュカには難しい相談だった。


 しかしリュカはともかく、楠はオルテンシアのことをまだよく知らないだろう。こんな事を言われて一体どう思っただろうか。心配の気持ちでリュカは楠を見やる。

 当の楠はオルテンシアをじっと見つめていた。そして一言。 


「コンティさんって」

「な、なんですか」

「本当にレオーネさんのことお好きなんですね」

「はぁ!?」


 ボッ、と一瞬でオルテンシアの顔が赤く染まる。唇をわななかせ、それからハッとしたように肩をはねさせた。

 こほん、誤魔化すように咳払い。


「それ、それは、それはそうですよ。リーダーのことを好きでない人なんていません」

「それはちょっと言い過ぎかも……」

 

 あぁシュガー。それもまずい。


「言い過ぎ!? 言い過ぎなものですか!」


 引き気味の楠にオルテンシアは前のめりに詰め寄った。

 

「あなたはリーダーのことをまだ知らないだけです! あの方のことを知れば言い過ぎだなんてそんなこと言えません!」

「まぁ確かにここのリーダーってことくらいしか知らないですけど……」

「それだけでも十分あの方を素晴らしいと思えるはずですけども」

「リーダーだからすごいってことですか?」

「そんな単純な話じゃありません!」

「なんなんだ……」


 ずい、ずいとオルテンシアが迫る。楠は困り顔で後退りながら両の手のひらをオルテンシアに向け、どうどうと落ち着かせようとする。だが彼女は止まらない。


「あなたまさか、リーダーが魔法陣開発に携わっていることもご存じないんですか!?」

「えぇ、はい。そうなんだ開発に」

「そうです! いいですか、リーダーは私たち魔法陣隊が魔獣鎮圧に用いる魔法陣を開発した素晴らしいお方で」


 と、言いかけ、オルテンシアはピタッと動きを止めた。すっ、と姿勢を正す。


「……いえ、すみません。リーダーの素晴らしさについてはまた今度お話しましょう」

「今度……まぁ、はい。大丈夫ですけど、なにかありました?」

「先程の隊員に用が。隊長として人を待たせるわけにはいきませんから」


 先程のアツくなっていた彼女はすっかり鳴りを潜めていた。オルテンシアはいつもの様に眉をキリリと引き締めると、「それでは、失礼します」と会釈する。それから人差し指を立て、


「くれぐれも! 隊員バッジにそぐわない行動は慎むように。いいですね?」


 リュカと楠は顔を見合わせた。


「だって」

「きみじゃなくて?」

「お2人共ですっ!」


 もう、と嘆息し、今度こそオルテンシアは立ち去った。

 その背に軽く頭を下げ、リュカはひっそりと肩の力を抜く。


 オルテンシア・コンティ。魔法陣隊隊長として日々尽力する彼女のことを、リュカは本当に立派な人物だと思っている。

 だからこそ後ろめたい。アレサンドロとの関係の件だけではない。

 彼女と話していると、隊長としての心構えの差を勝手に覚えてしまう。ギルドに所属する者としての意識の違いを勝手に実感してしまう。そうした全てが重なってリュカの肩に見えない圧をかけ続けていた。


 だから、楠のオルテンシアへの態度はなんとも新鮮だ。


「やっぱりコンティ隊長と仲良くなったよね?」


 尋ねると、楠は彼女が去った廊下の先を見ながら首を傾げる。


「仲良いかはやっぱり分からないけど、私はコンティさんのこと結構好きだよ」

「そう、なんだ」

「うん」

 

 楠は頷き、横目でリュカを見上げた。


「あんたは?」


 一瞬どきりと心臓が音を立てる。

 考えを見透かされた? なんて返事をするべきかと迷って視線を伏せる。だがその合間に楠が言葉を続けた。


「あんたはちゃんとレオーネさんと友達なの?」


 あぁ、そっちか。

 どうやらアレサンドロの「友達」を本気にするなと言ったオルテンシアに対して、リュカは「友達」についてどう思っているか、と聞きたかったらしい。相変わらず言葉のつなぎが分かりにくい子だ。

 リュカは動揺を誤魔化すように頬をかく。


「ちゃんとって言い方が引っ掛かるけど、まぁ友達のつもりだよ」

「あの人と友達ねぇ」

「随分含みがあるね。俺だってアレサンドロは良い奴だと思うよ?」

「あぁそう……」


 楠は顔を顰めた。

 それこそ不思議だ。楠はなにがそんなに嫌なのだろう。

 実際、先程のオルテンシアの言葉は正しい。

 彼女ほど熱烈ではないにしろ、ギルド北支部の隊員は皆アレサンドロのことを好意的に思っている。と、いうより、彼を厭う人間をリュカは見たことがなかった。

 好きかと言えばそれほどではないけれど別段嫌いではない、くらいならあるかもしれない。だが楠のように、ここまで露骨にアレサンドロに苦手意識を向ける人物をリュカは初めて見た。


「そんなに苦手?」

「私はね」


 ため息と共に楠は腕を組んだ。両肘を両手で抱える。


「コンティさんには本気にするなって言われたけど、そもそも私は認めてないし」

「認めて……あぁ、友人の話ね」

「なんの許可取りもなしに勝手に友人を自称してこられたんだよね」

「中々そんな展開無いと思うけど、一体どんな流れでそうなったの?」

「……まぁ、友人の願いは叶えたいみたいな」


 なるほど。リュカは小さく頷いた。

 それこそアレサンドロの真髄だ。隊員を友と呼ぶことで、リーダーでは寄り添えない部分に寄り添う。確実に彼の美徳とされる部分の1つだし、事実そこに惹かれる者も少なくない。

 だというのにまさかそこで嫌われるなんて、十人十色とはよく言ったものだ。少しだけおかしくなって笑いがこぼれる。


 あれ?

 そこでふと思い出す。

 「おまえの願いを叶えたい」とはリュカだって何度も言われてきた。アレサンドロの言葉に嘘はないし、リュカもアレサンドロを信用している。だがリュカは気付いてしまった。


 そういえばつい最近、お願いをガッツリ無碍にされたことがある。

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