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研究部隊エリアは広い。なにしろ研究部隊は複数の班に分かれており、各班ごとに部屋が設けられている。業務に使う機材サイズの関係上そもそも部屋自体が大きいこともあり、隊員でさえ迷うこともあるほどだった。
とはいえリュカにはそんなこと関係ない。オルテンシアも同様だ。さっさと歩みを進め、時折楠のマップに現在地を示し、一行は目的地まで辿り着いた。
「データ解析班」。そのプレートが掲げられたドアをスライドさせる。
「おっ来たな」
リュカ達の気配に真っ先に気が付いたアレサンドロが顔だけでこちらを振り返った。
部屋の中央にアレサンドロを含む数人が集まっている。彼らはテーブルを囲みながらなにかを話したり、手元を操作したり、ペンを走らせたりと忙しい様子だった。
「魔法陣隊隊長、オルテンシア・コンティ。まいりました」
オルテンシアは腰を折る。リュカは慌ててそれに倣った。
「陽動飛行隊隊長、リュカ・シモンです。同じく、まいりました」
「……あ、陽動飛行隊、隊員、楠ゆかりです。まいりました」
「そんな畏まるなよ。楽にしていい」
アレサンドロの言葉に顔をあげる。リュカに続いたらしい楠は既に顔をあげていて、オルテンシアは未だ頭を下げたままだった。きっかり3秒、オルテンシアが頭を上げる。
「来てくれ。前回のデータを渡す」
「データ?」と楠が首を傾げた。リュカは手元の端末を掲げる。
「魔獣鎮圧のデータだよ。前回っていうのは、シュガーがまだ臨時隊員だった時のやつ」
「あの鳥の?」
「そう。中サイズ鳥型魔獣ね」
楠は顔を顰めた。
中サイズと聞いた時の彼女の驚愕の声をリュカだけが知っている。楠が住んでいたあの地域は魔獣の出現頻度が低い。だからか彼女は魔獣についてまだまだ知らないことが多かった。
前回出現した魔獣は鳥型で約8メートル。十分中サイズに収まる大きさだ。
「魔獣鎮圧の様子を記録した映像データと、魔獣自体のデータ……大きさとか、どんな動きしてたかとかな。そういうのを各部隊に毎回渡してるんだよ」
そう説明しながらアレサンドロは隊長達から受け取った端末をテーブルに置いた。テーブルの天面に表示されているアイコンを順番に触っていく。その間もデータ解析班の隊員達はテーブル上で繰り返し映像を再生しては、手にしたペンでなにかを書き込んでいた。
その様子を食い入るように見つめる楠にリュカは小さく笑う。
「デジタルテーブルだよ。特別珍しいものでもないと思うけど」
「一般のカフェには無いでしょ。マニュアルだって紙でファイルにまとめたし」
「マニュアルは紙の方がよくない? 見やすいし、頭に入りやすい。適材適所だね」
そんなことを話していれば、あっという間に共有が終わったようだった。アレサンドロが端末を1つ、1つと隊長に返す。
「じゃ、各々確認しておいてくれ」
「はい!」
ハキハキとした返事はオルテンシア。リュカは端末を受け取りながら彼に声をかけた。
「ちょっと、アレサンドロ」
「ん? なんだ」
「この後いい?」
「この後か」
アレサンドロは一瞬間を置いて、
「あぁ、大丈夫だよ」
「良かった」
「でもまだ少し解析班と話があるから……どうする、先行ってるか?」
「いや、外で待ってるよ」
「オーケー」
ひらりと手を挙げる。「じゃ、行こうか」と楠に声をかけつつ踵を返した。
「失礼します」
「ああ、お疲れ」
背後でオルテンシアが丁寧に退室の礼をしている。リュカはドアをスライドさせた。楠がちら、とこちらを見上げたので、端末を持った手で促す。
「ありがとう」
一言と共に楠は廊下に出る。それを見送り、リュカはドアを開けたまま室内に顔を向けた。
オルテンシアが振り返る。こちらに歩いてくる彼女から一瞬鋭い視線が向けられた、気がした。




