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青い空に黒い点が浮かんでいる。
小さな鳥が飛んでいた。どこへ向かうのだろう、とぼんやりその姿を目で追う。
「何見てるの」
視線を下げる。
彼女の黒い髪が風に揺れる。隊服の間はずっと括っていたので、その光景はなんだか新鮮に目に映った。
「……思ったより、大荷物だね」
質問に答えないリュカに楠は半眼を見せた。
「引っ越しみたいなものだから。こんなもんでしょ」
「そっか、それもそうだね」
答えて、改めて実感した。アレサンドロに聞かされた時、迎えの日時が決まった時、飛行艇を出発する時、その全てで半信半疑だったのに、いざ本人を目の前にするともう認めざるを得ない。
彼女は本当に、共に来るらしい。
「これ乗るかなぁ……」
ガラガラとスーツケースを引きながら楠がこちらに近付いてくる。先程まで、その音にすら気付かなかった。
リュカは横向きに腰掛けていた飛行バイクから降り、サイドカーの方に回る。
「ちょっと狭くなるかもね。乗り心地は悪いかも」
「迎えがこれだって分かってたら、もう少し減らしたんだけど」
「なんだと思ってたの?」
「魔法陣。レオーネさんの」
「そんなほいほいと使えるものじゃないよ」
楠の手からスーツケースを受け取ろうとして、代わりに大きな箱を持たされた。傍には同じものがもう二つほどある。これを全部乗せてしまえば、楠が座れるスペースは三分の一もないだろう。
「やめておく?」
口をついて出た言葉に、楠は呆れたようなため息を吐いた。
「はいはい」
「……もうちょっとちゃんと聞いてくれてもいいでしょ」
「そっちこそ、もうちょっとちゃんと聞いてくれてたら、私がなんて答えるかなんて分かるよね」
よいしょ、と楠がスーツケースを持ち上げる。サイドカーに詰め込んで、リュカの方に手を伸ばした。
それを躱して、箱をサイドカーに乗せる。
「これも乗せるよね」
「……あぁ、うん」
「……なに」
他の箱を持ちあげていれば、隣からはなにか物言いたげな視線が注がれていた。怪訝な表情で尋ねる。
楠は目を細めて言った。
「乗せてくれるんだと思って」
「……当たり前でしょ」
そんなに気が利かないと思われていたのだろうか。少しだけショックだ。
そのまま箱を詰めて振り返る。
最後の箱を持った楠が横に並んできて、それを乗せた。
「じゃ、行こうか」
そう言うと彼女はそのままサイドカーに乗り込む。足だけ入れて、困ったように固まった。荷物の位置をずらしだす。場所を開け、なんとか座る隙間を確保したようだった。
それを見届けて、リュカは飛行バイクに跨った。
「行くよ」
「うん」
「行くからね」
「分かったって」
吸って、吐く。そうして息を整えて、リュカはちらりと横を見た。
楠が言う。
「よろしく、相方さん」
「あぁ。よろしく、シュガー」
そして飛び上がる。
ギルド北支部飛行艇へ、陽動飛行隊が帰還する。
ep.1 飛行バイクと飛行魔法 完
ご愛読ありがとうございました。
またいつか、ep.2でお会いできれば幸いです。




