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o゜包o≡ 足=  作者: 〇樽小樽
ep.1飛行バイクと飛行魔法
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31

 「もちろん。我らギルドはきみを歓迎する」


 詰まっていた息を吐く。緊張した。そんなに緊張する予定ではなかったのに。それもこれも、アレサンドロが余計なことをするからだ。

 気が緩めば力も抜けた。意識して伸ばしていた背が丸まる。そこにアレサンドロの晴れやかな声がかかった。


 「いやぁ良かった良かった。これでうちも安泰だ」

 「……まぁ、やれることはやりますよ」

 「あぁ、期待してる」


 アレサンドロの口調はすっかり砕けている。楠が外部の人間から内部の者になったからだろう。その辺りの線引きは流石にちゃんとしている。


 「……あ、でも待ってください」

 「なんだ? 給料の話? それとも休暇?」

 「その辺りはまた後でちゃんと聞きます」

 「ちゃんとしてるなぁ。そうでなくちゃ」 

 「そうじゃなくて、飛行艇に乗るの、もう少し後でもいいですか」

 「あぁ、身辺整理か?」


 ギルドに所属するということは、楠はこれからあの飛行艇に乗り込むということだ。これからの生活を営む場が飛行艇になる。以前のような、とりあえず詰め込んだ荷物では向かえない。

 それに、やらなければならないこともある。今住んでいる場所とか、色んな契約とか、あとなにより店のマニュアルを完成させなければならない。

 あれが出来上がらなければ楠は絶対にここをたてない。なにをしていようとカフェのことが気になって仕方がなくなってしまう。

 アレサンドロは合点したというように頷いた。


 「いつでもいいよ。ただまぁ、流石に何ヶ月もは待てないな。僕らがじゃなくて、魔獣が待ってくれないんだ」

 「もしかして、私が乗るまで飛行艇ってずっとこの町にいるんですか?」

 「いいや。なんならもう別の町に向かってるよ」


 置いてかれてる? この人。リーダーなのに。

 憐れみかけて思い出した。アレサンドロには転移用魔法陣があるのだった。

 彼にとっては物理的な距離などあってないようなものだ。ということは必然的に、楠はアレサンドロの魔法陣によって飛行艇に乗ることになるのだろう。


 「準備できたら連絡してくれ。隊服とバッジを用意して待ってるから」


 隊服とバッジ。それを身につければ楠は完全にギルドの隊員になる。

 まさか自分が、と今でも思う。だがやっぱりこれが最善だ。ギルドに所属することで、楠は大事なもの全てをそのまま抱え込んでいられる。そのために楠はある意味ギルドを利用するのだ。

 ……なるほど、アレサンドロの言う「楠のような人物は信頼できる」とは、こういうことだったのかもしれない。


 「もう一つ言ってみてもいいですか」

 「なんだ? 保険の話? それとも」

 「それもあとで聞きますから」


 言葉を遮って手を向ける。ストップ、と差し出された掌に、アレサンドロはわざとらしく唇を一文字に噤んだ。

 その顔を食い入るように見つめる。


 「もし、この町にまた魔獣が現れたら、どんな状況下でも最優先で対処してもらえませんか」


 アレサンドロは笑った。そのまま無言で、頷きも、首を振りもしなかった。


 「……まぁ、そりゃ約束はできないですよね」


 期待はしていなかった。むしろ、安易に頷いたり、嘘や曖昧な返事で誤魔化したりしなかったことに安堵したくらいだ。

 だからこそ楠もアレサンドロを信用できる。

 ゆっくりと手を引っ込める。すると唐突に、アレサンドロはなにやら胸元に手をやった。

 ぱち、と小さな音がして、その胸からバッジが外れる。


 「ここからは友人として話すけど」

 「いつ友人に……?」

 「僕はプライベートではうちの隊員と友人同士のつもりなんだ」

 「初めて聞いた……」


 初めて聞いたし、別に楠は認めていない。顔が渋く歪むのを感じる。

 自称友人はどこか穏やかな笑みを浮かべた。それがこれまで見てきたどの表情とも違って見えて、つくづく器用な人だなと思う。


 「僕は友人の願いは叶えたいと思ってる」

 「はぁ……」

 「それがギルド北支部リーダーの立場では叶えられないことだとしてもな。それでも、アレサンドロ・レオーネとしてはなんとかしてやりたいと思ってる。それだけ伝えておきたかった」


 それだけ言って、彼は再びバッジを付けた。


 「……あんたも難儀な人ですね」

 「あんまりリーダーにあんたとか言うもんじゃないな。ま、今回も聞かなかったことにしておくけど」

 「それはどうも」


 どうやら、難儀の部分は否定しないらしい。嘆息と共にパイプ椅子の背もたれに身を預ける。

 なにはともあれ、楠はこいつを信用するしかない。自分が所属する支部のリーダーとしても、突然できた友人もどきとしても、だ。

 

 「実際の所、友人ってなにしてるんです?」

 「え? あー……掘り下げられると思わなかったな」

 「いえ、参考までに」

 「参考ねぇ」


 アレサンドロはテーブルに片肘をつき、その手に顔を乗せた。


 「言っておくけど、友人っていうのはあくまで心持ちの話だからな。別に隊員のプライベートに割って入る趣味は無い」

 「良かった、安心しました」

 「おまえね、素直なのは基本美徳とされるけど、素直すぎるのは考え物だぞ」


 呆れたような笑みを見せる。それから「あ」と一言呟いた。


 「まぁでも、普通に休日一緒に過ごすやつはいるな」

 「え、隊員で?」

 「隊員で。楠は知ってるはずだけど、覚えてないんだったか」


 ふむ、と顎に指を滑らせて、すぐに思い当たった。

 初対面の時だ。楠は全く覚えていないけれど、アレサンドロはこの店に客としてやってきたのだった。

 そしてきっとその時に連れが居た。

 なるほど。なんであいつがあの時あそこにいたのか、少し考えれば分かることだった。


 「リュカ」

 「正解! 改めてにはなるけど、あの時はうちのメンバーと……それから、僕の友人を助けてくれてありがとう」


 起き上がり目礼するアレサンドロに、楠はゆるく首を振った。

 あの瞬間のことは、まるで昨日のことのように思い出せる。それだけ印象的な出来事だった。

 目の中で黄金色がちらついた気がした。その後、あの髪はエクステになっていたりしないだろうか。


 「あの人、看板に当たりそうになっておいて自分の髪の毛の方気にしてたんですよね」


 ぽつりと零す。アレサンドロは覚えがあるように困った笑みを浮かべた。


 「まぁ私を遠ざけるための冗談だったのかもしれないですけど」

 「いや、僕はあいつの友人だから自信を持って言うけど、それ確実に本気だな」

 「……レオーネさん、さっき私に素直すぎるのはどうのって言ってましたよね」

 「うん、言った。考え物だって」

 「それ、あいつにそっくりそのまま言った方が良いですよ」

 「アハハ!」


 笑い転げるアレサンドロを睨む。素直すぎるリュカに一体どれだけ振り回された事か。

 ずっとあいつのことがよく分からなかった。とにかく第一印象が最悪だったのだ。命より髪を優先するのもそうだし、なにより彼は当時の楠にとって己の存在をアレサンドロに密告した人物だという印象だったから、それは全部を悪い方向に捉えてしまっても仕方がないと主張したい。


 しかし、今になって思えばおかしな話だ。

 あれだけ1人で飛びたがるリュカが楠のことを密告するだなんて、現在の楠の中のリュカ像からはあまり想像がつかない。

 楠の訓練に合格を出すなどはしていたが、あれとはまた訳が違う。あれはもう話が進みだした後のことだからだ。

 素直すぎるとはいえ、あいつはあれでかなり頑固だ。自分が望まない方向に進みそうな道は閉ざせるうちに閉ざしてしまいそうなものなのに、それよりもギルドへの忠義を取ったのだろうか。


 どれだけ考えても本人のことは本人にしか分からない。別に彼の選択を批評しようとか、そんなつもりもない。

 ただ、リュカの密告がなければ、楠はこれからもずっとカフェの店員だっただろう。


 「そもそもあいつが密告しなければ……」

 

 何も始まらなかったのに、と言いかけて、アレサンドロに遮られた。

 

 「あぁ、そのことなんだけど」

 「そのこと?」

 「密告の件。それ、リュカが僕に報告してきたわけじゃないんだよ」

 「は?」


 思いもよらないことに動きが止まる。呆然とする楠に、アレサンドロは悪巧みが成功したように目を細めた。


 「リュカも僕が飛行魔法使いを探していたのを知っているから、いずれは言うつもりだったかもしれないけどな。でも、少なくともあの時は言わなかった」

 「じゃあなんで」

 「リュカが言ってないなら答えは一つだろ」


 前提が覆る。


 「楠がリュカを助けたのを、僕が見てた。それだけだ」

 「……だって、飛行魔法で助けられたってリュカが言ったって」

 「あぁ言ったよ。僕がこの目で見たことについて問い詰めたら、それはもう渋々と」

 「それは」

 

 想像できる。アレサンドロに言葉巧みに詰められて、顔をしわくちゃにしながらそれでも正直に話してしまうリュカの姿。それは、自ら進んで楠のことを報告する姿よりも、ずっと鮮明なビジョンで脳裏に浮かんだ。


 どうやら、全てはそこから始まっていたようだ。

 魔獣が現れて、リュカの上に看板が落ちてこようとして、それを楠が助けた所から、この奇妙な縁は出来上がった。

 あの瞬間にこの運命は決まっていたのかもしれなかった。


 なるほど。縁とは、運命とは、こういうものか。

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