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o゜包o≡ 足=  作者: 〇樽小樽
ep.1飛行バイクと飛行魔法
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28

 目的地は近い。直線上に速度を落とさず飛び続ける。


 「2人で飛んでるんだから」

 「……やれることやって、そのせいできみが危なくなったらどうするの」


 エンジン音に視線だけ寄越せば、いつの間にか真下にリュカが付いていた。髪とマントが軌跡のように靡いている。


 「俺はずっとそのこと言ってるんだよ」

 「あぁ、そうだったんだ」

 「そうだったんだよ。どうも噛み合ってなかったみたいだけど」

 「ある意味噛み合ってた気もするけどね」


 見えた。ぽつぽつと空に散らばる丸い何か。それに囲まれるように白い煙のようなものが広がっている。


 あれがギルドの誇る魔法陣隊。有人用ドローンにその身を預け、荒れ狂う魔獣が到達する時を今か今かと待っている。

 そしてあの白いものが、彼らがこの短時間で描き上げた魔法陣だ。楠の角度ではただの薄い塊にしか見えないが、きっと上空から見れば緻密な文様が繊細に練り込まれていることだろう。

 あそこに突っ込んで、魔獣を魔法陣の上に乗せる。陽動飛行隊の任務はそこまでだ。

 ラストスパート。最後まで気は抜けない。

 

 「さっきも言ったけど、生きて帰るつもりだよ、こっちも」

 「シュガーはそう言うけどね。つもりでどうにかなると思ったら大間違いだから」

 「はぁ?」


 もう一蹴り、と溜めた脚が止まった。

 なんだこいつ。おまえ、おまえがそれを言う!?


 「あのね、それならあんただって」

 「俺が、なに?」

 「危険が全部自分のせいだと思ったら大間違いだからね」

 「え、えぇ?」

 「私が追い付かれそうになったのは私の問題だから。自惚れないでねほんとに」

 「自分で何言ってるか分かってる!?」


 正直なところあまり分かっていない。ただどうしても言ってやりたかった。

 一体どの口で「つもり」を否定するのか。ずっと自分の想像に怯えているのはそっちのくせに! 自分だけ良くて楠は駄目なんて、そんなの通すわけがない。

 感情のままに右足を叩きつけた。ビュンと加速して、一気に魔法陣まで飛び翔ける。


 「危なくなる時はなるって言ってんの! そういうものでしょ!」

 「だっ……だったら、尚更! 俺と一緒に飛ばせるわけにいかないなぁ!」

 「なんっでそうなるの!」

 「危険にわざわざ近づく必要もないからね!」

 「この頑固者、何回言ったら分かるの!」

 「シュガーに言われたくない!」


 魔法陣に合わせて少し高度を下げる。リュカも同様に少し高度を上げた。進路が重なって、必然的に横並びになる。

 

 飛ぶ。飛ぶ。前方の有人用ドローンが場所を開ける。

 開けた道に思いっきり飛び込んだ。 


 「なんでも思い通りになると思うなよ!」

 「なんでも思い通りになると思わないで!」


 陽動飛行隊が魔法陣上空を一足飛びに飛び越える。その直後、魔獣が魔法陣に突入した。


 「発動!」


 凛とした声と共に、空がまばゆい光に包まれる。楠はそれを背後に感じながらゆるやかに速度を落としていった。少しだけ浮き上がって、振り返る。


 眩しい。

 魔法陣が眩しいくらいに輝いている。その上で魔獣が悶えていた。

 なにをしているのか、まったくもって楠には分からない。ただ一つ、陽動飛行隊は無事に任務を完了したようだった。


 「リュカ」 

 「……あれだけ色々言い合ったのにすぐ切り替えられるところ、シュガーのすごい所のひとつだよ」

 

 近付いてくるエンジン音に声をかける。背後から飛行バイクがゆっくり向かってきて、隣に停まった。ブレーキ性能は飛行魔法の方が高いらしい。また一つ分かった。


 「なに?」

 「助けてくれてありがとう」

 「へ」

 「言ってなかったから」


 隣を見る。リュカは楠を見たまま、ぽかんと口を開けていた。


 「……かん、しゃ、されるようなことしたかな」

 「したでしょ。あんたが割り込んでくれたから魔獣に追いつかれなかった」

 「あれは……俺ならいいと、思ったから」


 そう言うと、気まずそうに目を逸らされる。

 そういえばこいつはさっきもそんなようなことを言っていた。

 今になって思えば、なんだか言わなくてもいいようなことも言った気がする。いや、確実に言った。どうも頭が回っているようでいなかったらしい。速く飛ぶことに夢中だったから、というのは言い訳だろうか。

 とにかく、助けられておいて取る態度では無かった。それは確かだ。


 「分かんないけど、あんたが助けるつもりで飛んできてくれたのは事実でしょ」

 「助ける……」

 「ありがとうね。助かった」


 リュカは黙っていた。黙って静かに一点を見つめていた。そうして一つ、息を吐く。


 「シュガーこそ」


 楠には、顔をあげたリュカの表情から何かを読み取ることはできなかった。彼が今何を考えて、どう結論付けたのか、他人の楠には分からない。

 でもきっとネガティブなことではないと思う。

 リュカは眉を下げて笑った。


 「想定よりスムーズに事が進んだのは、やっぱりシュガーがいたからだと……思うよ」

 「今言うの躊躇ったね」

 「いやいや、そんなまさか」


 肩をすくめるリュカをじとりと半眼で見やった。

 とはいえ実際の所、楠は今回いったいどれだけ役に立ったのだろうか。自分なりに求められているであろうことをしたつもりだが、果たしてその結果がどのくらい魔獣鎮圧に影響したのか、やっぱりよく分からない。


 「ありがとう」


 よく分からないけれど、リュカがそう言うのなら良いんだろう。

 どうやら楠は、やれることはやれたらしい。


 「次はさぁ」

 「次?」

 「今回よりもっと上手くやれるようにするよ」

 「……シュガー?」


 リュカが困惑したように首を傾げる。その拍子に髪が背中を流れた。


 「もっと慣れれば、もっと安定して陽動飛行できるようになるし」

 

 大きな鳴き声に魔法陣の方を見る。あれだけ大暴れしていた魔獣は今やその動きを止めていた。よく見ると少しだけ、サイズが小さくなっている、ような。


 「そうしたら、いつかあんたのこと助けられるよ」


 これにて陽動飛行隊による此度の任務は終了した。あとは他隊におまかせしよう。

 もっとも、もし万が一、本当にいざということが起きる可能性を鑑みて、まだ暫くは空中で待機して気を張っていなければならない。だが魔法陣隊が順調な今、楠達にできるのは、次のための反省をすることだった。


 「……今回も十分助かったよ」 

 「もっとだよ」

 「その向上心には隊長として称賛を送りたいところだけど……シュガー?」

 「なに」

 「シュガーって臨時隊員なんだよね?」


 あ。

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