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o゜包o≡ 足=  作者: 〇樽小樽
ep.1飛行バイクと飛行魔法
3/35

 シャー。シャー。

 楠が乗りこなすキックボード、その車輪の音がリズムよく鳴る。穏やかな日差しの中、町はいつも通りの騒めきに包まれていた。


 つい先日町に鳴り響いたサイレン。あれを聞いたのは本当に久しぶりだった。前回がいつだったかすら思い出せない程には過去の記憶だ。もしかしたら、楠がこの町に来てからは初めてだったかもしれない。

 それなのにも関わらず、町の被害は最小限どころか、殆ど無いと言っても良いくらいに留まっていた。

 強いて言うならば、楠が働く店の看板が落ちたことくらい。もっともこれはサイレンとは関係がない、ただの老朽化だった。

 それ以外で言うならば、強風でごみ箱が飛んで行ったりだとか、パラソルが飛んで行ったりだとか、そういった具合だ。それもこれも楠が後輩と共に探しに行き、今では無事に帰ってきている。他の建物の迷子たちも殆どが発見されたり、消耗品だからと諦められたりしたようだ。

 なにはともあれ、あんなことがあったというのに、町は至っていつも通りだった。


 シャー。シャッ、タン。

 目的地に到着し、キックボードから降りる。持ち運びやすいように折りたたんでいると、ふっ、と頭上に影が差した。

 飛行バスだ。

 建物よりも遥か上空を決められた行路で走る飛行バス。後輩はそれに乗ってよく出かけるようだが、楠は数えるほどしか乗ったことが無い。学校行事という、どうしても避けられない時だけだ。それ以降は徹底して避けている。だから楠は知らないが、後輩曰く、この町の飛行バスは座席のシートが可愛いのだそうだ。

 そんな飛行バスは、今日も時刻表通りに運行していた。


 「……なんてことないな……」


 呟いて、折りたたんだキックボードをよっこいせと持ち上げる。そのまま目の前のドアを開いた。


 「あっ、ゆかり先輩!」


 入った途端、明るい声がかかる。準備が終わったところなのか、河合がロッカーを閉じながら顔だけをこちらに向けていた。

 片手を上げて、自分のロッカーへ向かう。荷物を肩から下ろしていると、河合が髪とエプロンを揺らしながらこちらを振り返った。可愛らしい笑顔で近寄ってくる。


 「おつかれさまです、先輩。ふふ、ねぇねぇせんぱぁい」

 「お疲れ様。なに?」

 

 エプロンを纏い、髪色に溶け込む黒いゴムで髪を束ねる。楠はあまりそう言ったこだわりはないが、この店のエプロンも後輩のお気に入りだ。

 その後輩、河合はなにやらソワソワとしている。


 「見て見て、パフェ食べてきたんです! この間、休みの日に」

 「へぇ」

 「すっごい可愛い桃のパフェだったんですよぉ」


 果物の名前に、ちらりと河合を見る。により、と猫のような口で微笑む河合が小首を傾げ、楠を見上げていた。


 「近いですよ。飛行バスですぐ」

 「あー……」

 「行きますか? 一緒に!」

 「バスかぁ」

 「もう、絶対行かない反応ー」


 頬を膨らませる河合を横目に準備を完了させた。ぼんやり斜め上を見ながらエプロンの紐を調整する。

 河合と行く桃のパフェと、あまり乗る気になれない飛行バス。天秤にかけて揺らしてみると、若干、本当に若干、河合に傾く。いやでもバス。バスかぁ。


 「ていうか河合さぁ」

 「なぁに先輩」

 「飛行バス、もう動いてたんだ」

 「え? あぁ、動いてましたよぉ。殆ど被害もなかったみたいですし、なんならサイレン収まった翌日から動いてたんじゃないかなぁ」


 河合が人指し指を口元に当てる。

 確かに、逆にあんなことがあったからこそ、ということもある。別の地域に住む血縁や友人の様子を見に行くためには、飛行バスが手っ取り早い。そういう意味では変わらず運行する飛行バスは非常に仕事熱心と言えるだろう。

 しかし優秀な運営とはいえ、慣れないことに被害が出ていれば難しい。飛行バスは走れず、知人に会うことも、休みを利用して河合がパフェを食べに行くこともできなかった。


 「ギルドが来ててよかったですねぇ」


 それもこれも、たまたまこの付近に来ていたギルドのおかげだ。

 ギルドが天災を遠ざけてくれたおかげで、この町は今日もいつも通り動いている。 

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