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o゜包o≡ 足=  作者: 〇樽小樽
ep.1飛行バイクと飛行魔法
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 一体どうやって、と聞かれた。

 何度目かのスピード計測の時だ。舞い降りてすぐに覗き込んだメーターには98と記録されていて、もうそろそろ大台だな、とぼんやり考えた。


 「一体なにをどうやって、こんなに速く空を飛んでるの?」

 「どうって……」


 この頃のリュカは渋面を隠さないようになっていた。訓練始めたての頃といったら、ちょっと危ない飛び方をするたびにそれはもう散々煽り散らしてくれていたものだ。そうすれば楠が萎えて諦めると思っていたのだろう。

 とはいえ楠がそんなことでへこたれるわけもない。表情にこそ出さないが、寧ろ「こなくそ」と闘志を燃やしたものだった。

 そうして日々着々とハードルを飛び越えていく楠に、リュカはどうしたらいいか分からなくなっていたのだろう。こういう時は理不尽な査定で一方的に相手を否定すれば良いのに、こいつはどうもそんなことを考えすらしないようだった。


 その代わり、こうして楠自身について質問されることが増えた。

 「なんで飛行魔法を使おうと思ったの」。「いつから使えるようになったの」。「河合さんとの付き合いはどのくらい?」。

 大体が魔法に関することで、たまになんてことない話題が混じる。そんなことをリュカはずっと変わらぬ渋面で尋ねてきた。だから楠も、足のマッサージをしながら、感覚の鈍い爪先で地面を叩きながら、頼りなさげに漂うドローンを見上げながら、軽い調子で答えた。

 「すぐに帰りたかったから」。「いつだったかな、小さい頃」。「長くはないよ。数年くらい」。

 そしてこの日の質問がこれだった。こういう質問が1番困る。楠は言語化が苦手なのだ。


 「ここで」


 膝裏からふくらはぎにかけてを手でさする。


 「ぐぐってして」

 「……うん」

 「どんっ、てやって」

 「……うぅん」

 「そしたら飛ぶから」

 「そしたら飛ぶから」

 「あとはそれを繰り返すかな」

 「そっかぁ」


 リュカはなんともいえない表情で頷いた。納得していなさそうだ。楠なりに頑張って説明したつもりだったのだけれど、やはりどうも上手くいかない。

 とはいえ、仕方のないことでもある。楠の言語化が上手くないというのもあるが、それ以前の問題だ。

 なにせ、そもそも自分が使う飛行魔法の理屈を楠自身がよく分かっていない。分からないものを説明することなどできないのだから、これは仕方のないことだ。


 「やっぱり、こんな所で消費していい才能じゃないと思うんだよなぁ」

 「自分の職場の事こんな所だとか消費だとかさぁ」

 「ギルドのこと言ってるわけじゃないよ」

 「レオーネさん曰く、私はギルドに必要な人材らしいけど」

 「……まぁ」


 そうだね、とリュカはほとんど声にならない呟きをこぼしていた。


 飛行バイクがヒュンと側を追い越していった。

 あれ、何キロ出てるんだろう。なびく黄金色の髪を追いかけながら考えた。

 陽動飛行隊の飛行バイクは専用の調整がされているらしい。その割には、リュカの背が一定の大きさから遠ざかることはなかった。

 ピピ、と電子音が鳴る。無線からリュカの声が流れた。


 「俺を目印に、そのまままっすぐ飛んで」

 

 返事をしようとして、はたと思い出す。こちらの声を入れるには、確か……そうだ、このボタンを押す。


 「これ聞こえてる?」

 「聞こえるよ。……声、入れ忘れてたね? 出る前に入れろって言ったはずだけどなぁ」

 「……気が逸って」

 「飛行も早ければ気も早い、と」

 「うまいこと言わなくて良いのに……」

 「小声で言っても聞こえてるからね」


 なんとも高性能な無線だ。これならどれだけ騒がしい現場でも指示や報告の声を聞き漏らすことはないだろう。


 「でも本当に器用だね。喋りながらずっと魔法使ってるんでしょ?」

 「ずっとではないよ」

 「あれ、そうなんだ」


 意外そうな声音だ。どうやらいつぞやの説明はきちんと伝わっていなかったらしい。まぁそれはそうだ。あれで完璧にリュカが楠の魔法を理解できていたら、それはそれでリュカがすごい。

 僅かに右膝を曲げる。ぐぐっと溜めて、溜めて、そしたら、どんっ。合わせて右膝を空に押し出せば楠の身体は速度を維持して飛んでいく。

 開きそうになった前方飛行バイクとの距離が詰まる。そして気が付けば、魔獣の姿もかなり近づいてきていた。


 「でか……」


 思わず声が出た。

 ギルド飛行艇で初めてその姿を見た時よりもっと大きい。近づいたのだから当然と言えば当然だ。でも本当に、思っていたより大きかった。


 楠にとって身近な鳥といえば、やっぱり町中でよく見る小鳥だ。電線によく群れで止まっている。間近で見たことはないが、イメージでは楠の片手ぐらいのサイズ感。

 ところが先の鳥はそんなイメージとはかけ離れていた。なにせ楠より2倍も3倍も大きい。あんな巨体が倒れてきたら人間なんてひとたまりもない。それが町中で暴れることを考えると……考えたくもなかった。

 もう一度電子音がする。流れ出したのは聞き取りやすい声。アレサンドロだ。


 「中サイズ鳥型魔獣の鎮圧について確認する」

 「中サイズ?」


 聞き間違い? だが待てども訂正の連絡なんてものは入らなかった。アレサンドロは次々と各隊に向け声をかけていく。


 「魔法陣隊。指定のポイントに鎮圧用魔法陣を設置、対象が接近し次第の発動を頼む。コンティ隊長、時間は」

 「5分いただきます」

 「よし。と、いうことで。陽動飛行隊」


 魔獣はもうすぐそばまで迫っていた。リュカの背中越しに、魔獣の姿をいざ改めて見る。

 3倍なんて嘘だ。楠の5倍近く大きい。


 「5分間の陽動飛行、それとこちらから合図があり次第の鎮圧用魔法陣への誘導を頼む」

 「了解」

 「りょ、うかい」


 張り付いた喉をなんとか動かした。

 今から、あれと? 追いかけっこ? 5分間も?

 あんなの、もし羽ばたいた翼が少し掠っただけで。

 

 「シュガー」

 「……なに」


 上手く返事ができているだろうか。よく分からない。分かることといえば、魔獣のくちばしがやけに鋭く見えることだけ。


 「今の無線、入力が分かれてるから、リーダーと隊長の声しか入らないんだよ」

 「……それ、今言うこと?」

 「うん」

 「うんって」

 「隊員の声は基本的に同じ隊の人にしか聞こえないようになってるんだよね。だからシュガーが声を入れ忘れてたのも、残念ながら俺しか知らない」

 「残念?」

 「コンティ隊長が知ったらすごく怒るだろうから」

 「あぁ……まぁ、でも忘れてたのは私が悪いし」

 「大事なことだからね。あれ、ってことは俺も怒った方がいいのかなぁ」

 「あんたさぁ」


 こんな時になに呑気な事を、と続けかけて気が付く。

 自然に声が出せていた。

 そういえば、飛び出す時も相当緊張していたな、と思い返す。同時に、ここまで飛んでくる間の心中が至って普段通りだったことも。


 「総員配置についたな。今回も、皆に任せた」

 「あ、始まるよ。シュガー」


 ぐっ、と手を握る。開く。手袋越しの手は十分な熱を持っていた。


 「リュカ」

 「うん?」

 「大丈夫になった。ありがとうね」

 「……それはよかった」


 リュカの言葉に重なるように、リーダーの号令がかかる。


 「魔獣鎮圧を開始する!」

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