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o゜包o≡ 足=  作者: 〇樽小樽
ep.1飛行バイクと飛行魔法
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23

 魔獣は高い空の上を飛行しこちらに迫ってきていた。

 これからギルド北支部飛行艇は町の上空から離れ、ひとけのない郊外に移動、魔法陣の設置を開始する。

 設置が完了するまで町や飛行艇に被害が出ないように魔獣を引きつけ、設置完了後は魔法陣の上に魔獣を誘導すること。これが陽動飛行隊の任務内容だ。


 「大体、すでに説明した通りだよ」


 陽動飛行隊室。初日に案内されたあのガレージのような部屋に楠たちはいた。

 室内の様子は以前とほとんど変わらない。棚やハンガー、そしてシャッターの前に飛行バイクが1台。

 

 「合図で陽動飛行を開始する。まずは魔獣と接触するところからだね」

 「野生動物ってあんまり触っちゃだめらしいね」

 「そっちじゃない。接近、の方の意味だよ」

 

 そりゃそうだ。分かっている。楠はヘルメットを片手に肩をすくめた。

 ゴーグルとセットになったこのヘルメットは、法定高度以上、法定速度以上で飛び回る飛行バイクの乗り手に向けて作られたものらしい。もし、万が一の事故が起きた時に、乗り手の目や頭を守る命綱。こと陽動飛行においては魔獣の攻撃からその頭を守る意味もあるようだ。

 楠は飛行バイクには乗らない。乗らないが、その使用用途から楠も同じヘルメットを装着する事になっていた。頭部の防御なんてそりゃあった方が良い。

 リュカは隊服の肩の装飾にマントを纏わせた。その機構は楠の隊服にはない。


 「マント、私は要らないの?」

 「基本的に陽動飛行において無駄なものは無い方が良いよ。咄嗟の機動力に差が出るから」

 「じゃあそれは?」

 「俺には必要なの。……身代わりを増やすためにね」


 リュカはマントを翻し、楠に向き直った。

 真剣なその表情に楠もリュカを真っ直ぐ見上げる。 

 

 「シュガー。これが最後の警告だ。きみはここで待っててほしい」


 本気だ、と思った。

 これまでも本気だったが、これが今までで一番、本気の忠告だと感じた。


 「俺が行く。きみは飛ばなくていい」


 リュカは抑揚のない声でそう告げる。

 楠がじっとその様子を見ていると、一瞬リュカの眦がぴくりと痙攣した。そしてわざとらしく笑みを浮かべて見せる。

 

 「きみとしても俺に任せた方が良いんじゃない? だってほら、自己犠牲の精神なんてものはないんでしょ」

 

 「そういうことだから」、と、リュカは楠の持つヘルメットに手を伸ばす。

 それを、ひょいっ、と躱した。

 空を切った手に固まるリュカを後目に、楠は飛行バイクの方へと歩いていく。


 「私たちの仕事は危険で、気が抜けない大変な仕事」

 「……シュガー、それは」

 「でもそれで守りたいものがあるから、やるんだよね」


 あんたがそう言ったんだよ、と楠は片方の口角を上げて見せた。

 この時のリュカはそんなつもりはなかったかもしれない。だがこの言葉は、楠にとって実にクリティカルなものだった。


 図星も図星。大図星だ。

 楠には守りたいものがある。それは店だったり、楠を信じてくれている後輩だったり、まぁそういった、楠の懐に入ったいくつかのものだ。

 楠はそれらを守りたい。そのために自分がやれることをやる。そのやれることが今は陽動飛行なのだ。


 「だから飛ぶよ」

 

 背後からリュカの大きなため息が聞こえた。振り返らずともその顔が歪んでいるのが分かる。

 足音と共に、苦し気な声が近付いてくる。


 「自己犠牲なんてするものじゃないよ」

 「あんたに一番言われたくないかも」

 「えぇ……」


 楠はヘルメットを被った。手順通りに留め具を付けていく。


 「というか、私のは自己犠牲じゃないって」

 「その理屈が分からないんだよな。守りたいもののために自分が頑張るって、立派な自己犠牲だと思うんだけど」

 「へぇ、あんたは自己犠牲の自覚があるんだ」

 「それは今はいいでしょ……」


 リュカのその言葉があまりに嫌そうに吐かれたので、楠は声を出さずに笑った。

 足音が止まった。顔だけで横を見上げれば、リュカが丁度ヘルメットを被ろうとしている所だった。彼の黄金色の髪が背中を流れていく。

 それを目で追って、楠は口を開いた。


 「どっちかっていうと我儘かもね」

 「えぇ? 俺が散々飛ぶなって言ってるのに、振り切って今まさに陽動飛行デビューしようとしてること? そっちこそ、我儘の自覚があったんだ」

 「それはまったく我儘じゃないけど」


 じとり、もの言いたげな視線が横目で注がれる。それには反応せず、楠は腕を組んだ。

 隊服の長袖越しに、自身の腕を握り締める。


 「私はなにも捨てたくないの」

 「捨て……?」

 「それだけ」


 クエスチョンマークが浮かんでいます、といった表情を浮かべるリュカは暫く考えたあと、もう何度目かのため息を吐いた。


 「きみといると、ため息が尽きないな」

 「私もだよ」

 「ほんと、変な奴だよ。きみは」

 「あんたもだよ」

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