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o゜包o≡ 足=  作者: 〇樽小樽
ep.1飛行バイクと飛行魔法
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22

 「まだ聞いていいですか?」

 「あぁ勿論。答えられる範囲なら」


 アレサンドロは笑みを深めて促した。それが全て彼の掌の上のような気がして、少し嫌な気になる。


 「魔法陣で魔獣を鎮圧したら、その後はどうなるんですか?」

 「その後、というと? 魔法陣の後片付けの話か?」

 「言われてみればそれも気になりますけど、そうじゃなくて……魔獣の方」


 店の業務に開店から閉店までの大まかな流れがあるように、魔獣鎮圧にも一連の流れがある。

 魔獣を見つける。陽動飛行隊が陽動する。その間に魔法陣隊が魔法陣を書く。書けたら陽動飛行隊が魔法陣まで魔獣を誘導する。魔法陣が発動する。

 楠が把握しているのは、ここまでだ。

 抜けもあるだろうが、まぁ細かいことは今はいい。楠の任務にとって把握しておきたい大切なことは、この流れの終わりだ。

 魔法陣が発動した後、魔獣はどうなるのか?

 そう楠が問うと、アレサンドロは「あぁ」と頷いた。


 「いい質問だ。抜かりないな」

 「……どうも」

 「別に他意はないんだけど、信じてないだろ」

 「信じてますよ」


 嘘だ。楠は信じてないし、多分アレサンドロに他意もある。

 その考えが全部伝わっているのかいないのか、アレサンドロは小さく笑った。楠は少し目を逸らして、バレない様に息を抜く。


 「さて、質問に答えるが。魔獣鎮圧は魔法陣を発動させて終わりじゃあない。楠の言う通り、その後がある」


 アレサンドロは持って回った言い回しをしながら背凭れに身を委ねた。モニターに一瞬視線を移す。


 「魔法陣を発動させると、暴れる魔獣を落ち着かせることができる。どういう方法で、っていうのはちょっとここでは割愛するけど」


 割愛するということは、いわゆる企業秘密ならぬ組織秘密ということだ。楠も知る気はない。一つ頷いて続きを促す。


 「そうして落ち着いた魔獣を保護する。保護した後はまぁ色々検査なり世話なりをして、適切な環境におく。それがギルド北支部の魔獣鎮圧の流れだ」


 思わず息を飲んでいた。

 魔獣鎮圧、という言葉自体が持つ意味は分かっていた。だが言われてみれば、鎮圧といってもなにをするのか、楠は全く知らなかった。


 まさかそこに魔獣の生死が関わってくるとは思っていなかった。


 そうだ。だって楠はほんの少し前まで魔獣のことを、理屈のない災害のようなものだとばかり思っていたのだ。理不尽な脅威から人々を守ることがギルドの任務で、そこに魔獣の生死は問わないものだと、ばかり。

 それがどうやらアレサンドロの言い方では、ギルドは魔獣の生け捕り……いや、生きたままの保護に務めているらしい。


 「……それ、非効率じゃないですか?」


 どうしても気になって尋ねてしまった。

 暴れる生物を生きたまま捕まえるのはきっと大変だ。

 わざわざそんなことをしなくても、もっとやれることはあるだろう。それこそ狩りのように、直接仕留めることだってできるはずだ。

 とはいえ、楠はこの中で最も素人で、魔獣のことを何も知らない。

 そんな素人の質問なんてきっと考えつくされている。だからこれは彼らにとって、呆れるほど単純な思考による質問だったことだろう。

 そんな楠の質問にも、アレサンドロは顔色一つ変えず答えた。


 「あぁ、そうだろうな」


 思わず拍子抜けする。てっきり否定されるものだと思っていた。


 「じゃあなんで」

 「今の非効率が未来のためになるからだ」


 そして人のためにもなる。アレサンドロはそう言って笑った。

 楠は顔だけで振り返る。

 リュカは何も言わず、だが否定もせずにリーダーを見つめていた。


 「……本当に、立派な考えです」

 「お、また皮肉か」

 「今回は違います。どう受け取るかはそちら次第ですけど」

 「いーや、そのまま褒め言葉として受け取っておく」


 ため息を吐く楠にアレサンドロはにやりと口角を持ち上げた。

 苦手だ、この人。リュカはアレサンドロと気軽な仲のようだけれど、楠はとてもそうはなれそうにない。

 当の本人、リュカはアレサンドロと楠を交互に見て首を傾げていた。その様子に再びのため息を吐いた、その瞬間。


 激しいアラートが響いた。


 「見つけた!」


 ガバッと身を起こし、アレサンドロが目を見開く。そのまま前のめりに何やら手元を操作すると、誰かの切羽詰まったような声が部屋に流れ出した。


 「リーダー! かかりました!」

 「でかした! 映像とデータを映してくれ」

 「了解!」 

 「よし」


 アレサンドロは大きく頷き、再び手元でなにかを弄った。指の先から一瞬光が漏れ彼の顔を照らす。同時に、キィン、と短い金属音が鳴った。


 「総員!」


 その直後、アレサンドロの声が聞こえた。

 アレサンドロは今目の前にいる。当然声だって聞こえる。

 だがそうではない。目の前にいる本人から声が発せられると同時に、そっくり同じ声同じ言葉が部屋全体にも響き渡ったのだ。

 それはまるで部屋がスピーカーになっているかのようだった。


 「聞こえたな? 各自持ち場につけ!」


 リーダーの号令に応えるように、飛行艇内部はにわかに騒がしくなった。あちらこちらで大勢の隊員が動き出す。

 自然と溜まっていた唾を飲み込んだ。


 「楠。さっきの、感覚的には待ち伏せってやつだけど、つまりこういうことだ」


 言いながらアレサンドロは立ち上がった。机を回り、楠達の横をすり抜け、扉の方へ歩いていく。


 「罠や不意打ちはできないが、こうして魔獣が現れる場所の近くで広範囲に索敵を行う。魔獣が出現したらすぐに動いて、大きな被害が出る前に鎮圧する」


 扉を開け、アレサンドロはこちらを振り返った。


 「陽動飛行隊には、魔法陣隊が鎮圧用魔法陣を設置、起動するまでの陽動飛行を任せたい。やれるな」

 「もちろん」

 

 リュカが答える。アレサンドロは頷き、視線を楠に移した。

 鋭い視線が楠を射抜く。

 魔獣は待ってくれない。突然現れる。心の準備なんてさせてはくれない。

 楠は一度強く拳を握り、短く息を吸い、吐く。


 「やれます」


 楠がアレサンドロの目を見てそういう言うと、アレサンドロの唇は満足気に弧を描いた。


 「よし、頼んだ。陽動飛行開始のタイミングはこちらから指示する。準備をしてきてくれ」

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