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o゜包o≡ 足=  作者: 〇樽小樽
ep.1飛行バイクと飛行魔法
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20

 ノックを3回。「どうぞ」の返事から間髪入れず、楠はリーダー室に入室した。

 まっすぐデスクに向かう。アレサンドロが顔をあげる。

 その瞬間、楠は懐にしまっていたブツをアレサンドロの目の前に差し出した。


 「おー、許可証!」

 「取りました。取れました」


 苦節数週間。本当に? もっとあっという間だった気もする。

 とにかく、とうとう楠は己の飛行魔法一つで陽動飛行を大々的に行うことができるようになったのだ。

 規定高度以上の飛行魔法使用を許可する。そう記されたペラ1枚の紙が楠の手の中で輝いている。後光が差していてもおかしくない。ペカー、なんて効果音もなっていそうだ。

 アレサンドロは笑って拍手した。ぽふぽふ、と手袋を打つ音が鳴る。


 「いやぁ流石だ楠」

 「そもそも免許の有無を聞かずにこの部隊に配置した意図が気になる所だけど、全部間に合ったので良しとします」

 「あぁ、それを読んでたんだ。きみなら絶対になんとかすると思ってた」

 「今言われても……」


 楠はため息混じりに呟き許可証を見下ろした。

 しれっと本音か建て前か分からないことを言うな、この男。こっちは飛行バイクの免許を取ろうとして、やめて、飛行魔法の使用に切り替えた流れがあるというのに、それも全部読んでいたとでも言うのだろうか。

 ……考えるのはやめよう。そういえば、「飛行魔法で陽動飛行をします」と宣言しに突然この部屋に乗り込んだ時も彼は全然驚いていなかった。リュカの絶望したような表情をよく覚えている。我らがリーダーなら臨時隊員のためを思って止めてくれるとでも思っていたのだろう。


 楠がこうしてリーダー室に来るのは3回目だ。初めてギルド北支部飛行艇に降り立った時と、宣言のため乗り込んだ時。それと今。初めは真新しかった隊服も大分楠に馴染んできていた。

 アレサンドロはそんな楠を微笑まし気に見つめた後、その背後に視線を移した。


 楠から半歩下がった位置にリュカが立っている。

 バディとして、そして陽動飛行隊の隊長として、リーダーへの報告に同伴するのは当然のことだ。彼がいることは全く問題ない。

 だがその表情はどうだろう。気まずげに逸らされた目。下がった口角。折角のおめでたい場だというのに、リュカの顔には全く持って祝福の色は無かった。


 アレサンドロの視線に気が付いたのか、2人の目が合う。リュカはばつの悪そうな顔で再度そっと目を逸らした。アレサンドロはそれについ吹き出しそうになり、寸での所で堪える。そして何事もなかったかのように楠を見やった。


 「それ、結構審査大変なんだよな。魔獣用訓練と並行して進めてたし、いっぱい訓練やら検査やらやっただろ」

 「やれって言われたのは大体やりましたね」


 正直なところ、必要なステップ数を聞いた時は少しだけ眩暈がした。

 そもそも飛行魔法を使うと決めたはいいものの、大事なことをすっかり忘れていた。規定高度以上で飛行魔法を使うには、指定機関による許可証が必要なのだ。それをアレサンドロから聞かされた時のリュカの顔といったらない。あの正直すぎる安堵の表情に絶対に負けない。その一心で目も眩みそうなスケジュールをこなしていった。


 不規則に動くドローンを避ける訓練、飛行魔法の持続時間検査、その他たくさん。超巨大送風機に逆らって飛ぶ訓練だか審査だかもあった気がする。実はどれが魔獣用訓練でどれが飛行魔法許可証用審査なのか正確には分かっていないが、とにかくそれらを課されるがままやってきた。

 そしてその全てで無事、合格の評価を受けている。


 「なにが大変だった?」

 「大変……」


 思い返せばどれも大変ではあった。それもそうだ。なにせ楠はただの一店員なのだから。

 ドローンは執拗に楠を狙って体当たりしてくるし。長時間飛行魔法を使い続けるのも初めての事で、初めのうちは何度か落下してしまった。落下といえば、ドローンのあまりの猛攻に無理に動かした身体の筋がピンと攣り、これまた落下したこともあった。そうして敷かれた分厚いクッションの上でぼよんと跳ねると、決まって傍らから「飛行バイクなら落ちないけどね」と煽られる。

 楠は片手で自身の背後に立つリュカを指した。

 

 「……強いて言うなら、この人の相手が大変でした」

 「アハハ!」

 「アレサンドロ!」


 堪え切れないといった様子で吹き出したアレサンドロにリュカが大声をあげた。楠は肩をすくめる。

 アレサンドロはひとしきり笑った後、大きく深呼吸をした。


 「まぁ、それも良い訓練になっただろ。なにせおまえ達はバディなんだから」

 「現場でもこの人の相手しろってことですか?」

 「ちょっと、言い方」

 「あぁそうだ。よぉく見てやってくれ」

 「アレサンドロまで……」


 2人に散々言われ、リュカは眉を下げる。どうしても納得がいかなかったのか、リュカはちらりと楠を見て目を眇めた。


 「そうは言うけど、彼女の飛行技術はまだ一人前とは言えない。実際カバーする側なのは俺だし、そもそも現場に出られるかだってまだ」

 「魔獣の出現予測はどんな感じですか?」

 「こら! 人の話を遮らない!」

 「アッハハハ!」

 「笑う所じゃないってばぁ……!」


 アレサンドロはとうとう手を叩いて大笑いしだしてしまった。話の腰を折られ爆笑され、リュカの勢いはすっかり衰えた。高身長がすっかり縮こまって見える。

 楠はそんなリュカに、もう何度目か分からない文句を告げた。


 「現場には出る」

 「う」

 「言われた訓練もやった。審査だってあんたがお墨付き出したんでしょ」

 「そ、れはぁ」

 「へぇ?」


 うっ、と言葉に詰まるリュカに、アレサンドロが目を細めた。その面白がるような声音にリュカの視線が右往左往と泳ぎに泳ぐ。

 

 「や、でもそれは」

 「そういうことなんで、現場では任せてください。で、出現予測なんですけど」

 「きみ全然喋らせてくれないね?」

 

 リュカが楠の顔を覗き込もうとする。それを知らんふりでスルーした。

 そんな2人の様子に、アレサンドロは「いやぁ」と呟き椅子の背凭れに身を預ける。


 「おまえ達、随分仲良くなったなぁ」

 「えぇ……?」

 「アレサンドロにはそう見えるの……?」


 心底何を言われているのか分からない、と言いたげなバディの表情があまりにも似ていて、アレサンドロは三度吹き出した。

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