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o゜包o≡ 足=  作者: 〇樽小樽
ep.1飛行バイクと飛行魔法
20/66

18

 さて。

 軽口の応酬とは言えないくらいの、決定的に関係に亀裂を入れるような言い合いをした。その後に気が付いたことがある。


 楠達は飛行艇に帰らなければならない。


 そのためには地上まで乗ってきたもの……つまり、飛行バイクウィズサイドカーに乗るしかない。

 

 「……」

 「気まずいなぁ」

 「わざわざ声にして言わなくて良いよ……」


 よって、2人はあれだけ啖呵を切り合ったのに、並んでターミナルまで戻り、ここから飛行艇まで同じ乗り物で帰ることになっていた。まぁ気まずい。本当に気まずい。よくここまで肩を並べて歩いてきたものだ、と他人事のようにぼんやり考えた。

 飛行車用ターミナルを目の前に、楠は首元をひっかき呟く。


 「いやぁ……臨時とはいえ一緒に仕事する人相手にあんな啖呵切るんじゃなかったな……」

 「それ遠回しに俺のことも刺してる?」

 「遠回しっていうか……」


 ほぼ直接的に。その言葉はすんでの所で飲み込んだ。


 ここまでの道中、完全に無言だった。行きかう人々はあんなに楽しそうに笑ったりおしゃべりしたり、忙しそうに電話をかけたりしていたのに、この2人だけ完全に無言。車のエンジン音、歩行者用信号が発する電子音、道端の店から漏れ出る店内BGM、それらの間を通り抜けながら、ここだけずっと無の空間だった。

 河合のように無言が気にならない仲ならともかく、楠とリュカはまだ出会って数日しか経っていない。

 そんな相手と、この人混みで、終始無言の時間が続く。それはまぁ気まずくて仕方がなかった。


 ただ、どうやらそれはリュカも同じだったらしい。楠が気まずさに耐え切れず口を開けば、「声にしなくていい」と言いつつ、彼もどこかホッとしたように肩を下ろしていた。

 一度口を開いてしまえばあとは問題ない。2人共良い大人なのだ。表面上は元通り、バディとしての距離感を保って見せられる。

 そうして軽口を叩き合いつつ、ターミナルを横切ろうとしていた時だった。


 「せんぱぁい!」


 嬉し気に上擦った声。この声にこの呼び名。振り向けば予想通り、楠の後輩、河合が手を振ってこちらに駆けてきていた。

 河合は私服だった。小さめのショルダーバッグをかけている。飛行バスの停留所方向から来たことを見るに、飛行バスに乗って丁度帰ってきたところだろう。今日はオフだったらしい。

 小走りで楠の元にたどり着いた河合は目を輝かせて、手を胸の前で組む。


 「先輩〜! こんな所で会えるなんてぇ! どうしたんですかぁ、飛行バス、乗るんですかぁ?」

 「いや、それには乗らない」

 「えぇ、なんだぁ。一緒にお出かけできるかなって思ったのにぃ」

 「今行って来たんじゃないの」

 「そうだけど、今度の話! 先輩が飛行バス乗ってくれるなら、もっと色んなところに一緒に行けるなぁって……あ、ごめんなさい! お邪魔しちゃって……」

 「いいえ、お構いなく」


 そこまで話して、ハッと河合が目を丸くした。ようやく楠の隣に居るリュカの存在に気が付いたらしい。

 縮こまって謝る河合に、リュカは笑みを浮かべて小さく会釈した。河合も笑い返し、さり気なく楠と距離を詰めた。


 「先輩、お友達ですかぁ?」

 「ちがう」

 「即答……」


 楠の即答に乾いた笑いを漏らし、リュカは河合に向き直った。


 「はじめまして。楠さんの……えっと、仕事の」

 「上司」

 「です。名はリュカ、姓はシモン」

 「はじめましてぇ。姓は河合です。名前は黒音って言います。楠先輩と同じ職場で働いてまぁす」


 陽動飛行隊の隊長と臨時隊員なので、上司、と言う肩書は間違ってはいない。楠の一言にリュカも否定しなかった。

 対して河合は自己紹介をするやいなや、楠に詰め寄る。


 「せんぱぁい! この人もしかして、先輩が短期バイトで行ってるっていう所の上司さんですかぁ!?」

 「あー、そう」

 「ぬぬぬぬぬ……」


 楠が肯定すると、河合はぎゅっと眉間に皺を寄せてリュカを見た。上から下までリュカを観察する河合に、リュカはどうしていいか分からず瞬きするばかりだ。

 楠はそんな河合の二の腕をポン、と軽く叩く。


 「こら、威嚇しないの」

 「してないもん……先輩が良くしてもらってるのか見極めてるんだもん……」

 「それ言うものじゃないな」


 楠が呟くと、河合はますます頬を膨らませて楠に引っ付いた。そして、ピタリと動きを止める。

 なんだなんだと見てみれば、河合は楠の襟元に光るバッジを見つめていた。


 「あの、先輩が働いてるのって、もしかして……」


 バッジを指す指がわなわなと震えている。楠は「あー」とぼやき目を逸らした。

 瞬間、河合が叫ぶ。


 「ギルドですかぁ!?」


 そのあまりの勢いに思わずのけ反る。そこに逃がさないと言わんばかりに河合が縋りついてきた。

 

 「言ってくださいよぉ〜!」

 「だって言ったら騒ぐじゃん」

 「言ってくれたらわたし、全力で止めるのにぃ〜!」

 「ほらぁ」


 だから知られたくなかったのだ。楠がギルドで活動するなんて知ったらこの後輩は絶対に止める。そして案の定これだ。予想通りの反応である。

 河合は不満たっぷりと言った表情で楠の手を取った。一度きゅっ、と握って、それから掌、指、と撫でるように弄りだす。


 「シモンさん、先輩のお仕事って、危なくないんですかぁ?」


 そのまま河合はリュカを横目で見上げて尋ねた。

 一連の流れを脇でただ見ていたリュカは、突然の名指しに目をぱちくりとさせる。


 「えっ、と」

 「確かに先輩はすっごく上手に魔法を使うしすっごく頼りになるしすっごく可愛いけど、でもでも天災ってものすごく危険じゃないですかぁ」

 「河合……」

 「本当のことしか言ってないもん!」


 ぷん、と拗ねたように唇を尖らせる河合。楠は、そんな彼女に取られたままの指を握り込んだ。


 「河合、あのね。ギルドの仕事を受けるって言ったのは私だから。安心して待っててよ」

 「ううう……」


 眉を下げ、口角も下げ、河合はしょぼんと沈み込んだ。

 その姿に心が痛まないと言えば嘘になる。だがなんと言われようと譲る気はない。河合だって楠の性格を分かっている。だからこその、不満と心配が入り混じった表情なのだろう。


 実は、ここまでならいつも通りのやり取りだ。

 楠と河合は何度もこんなやり取りをしている。譲る気のない楠に河合が「もう!」と拗ねて、「そういう所が好き……」と悔しがって、「待ってるね」と約束して、それでおしまい。それがいつもの流れである。


 だがこと今日に限っては、ここにリュカがいる。

 リュカが河合を利用しない手はない。リュカは楠を飛ばせたくない。河合も楠に危ないことをしてほしくない。これは面倒なことになりそうだ。

 

 その前に話を終えてしまおう、と楠が口を開こうとしたその時、一歩早く、リュカが動いた。上半身を折り、河合と視線を合わせる。


 「河合さん。確かに、楠さんが行おうとしている仕事は危険です。とにかく気が抜けない、大変な仕事」

 「やっぱり」

 「でも、それで守りたいものがあるから。だからやるんです」


 リュカはそう言い、優し気に微笑んだ。

 

 「それに、楠さんには僕がついてますからね。無事にそちらにお帰りいただけるよう尽力しますよ」

 「……ふふ」

 「ん? えっと、なにかおかしなこと言いました……?」

 「いいえぇ」


 河合は数秒だけ、そんなリュカの顔をじっと見つめた。かと思うと、くすくすと笑い出す。

 首を傾げるリュカに、河合はふにゃり、と可愛らしい笑顔を向けた。


 「シモンさん。先輩のこと、よろしくお願いしますねぇ」

 

 そうして頭を下げる。リュカは顔を引き締め、「お任せください」と言い頷いた。

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