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o゜包o≡ 足=  作者: 〇樽小樽
ep.1飛行バイクと飛行魔法
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16

 「どう」


 ふわりと舞い降り、渾身のドヤ顔。

 未だにふわつく足を動かしてリュカの元へと歩み寄る。地に足が付いていないような感覚が抜けない。トランポリンの上をジャンプしないように歩いているような、月面を浮き上がらないように歩いているような、そんな感覚だ。どちらも経験はないけれど、きっとこんな感じなのだろう。

 ひょい、と手元を覗き込む。リュカが持つ器械にはデジタル数字で94と表示されていた。

 94。時速94キロ。


 「速い?」


 振り返って見上げ、気が付く。


 「……リュカ?」


 リュカの顔は真っ白だった。

 瞬きを繰り返すリュカの目は楠を捉えない。明らかに動揺してるようだった。

 そんな様子のおかしいリュカの目の前で、楠はひらりと片手を振ってみせる。


 「ちょっと」

 「……あ」

 「褒めて伸ばすって言ってなかった?」


 リュカの焦点が楠の指に合った。それから腕を辿り、2人の目が合う。

 リュカはハッと目を見開き、それからまた目線を彷徨わせた。


 「えっ、と」

 「もしかして見てなかったとか」

 「見てた、見てたよ。見てた、けど」

 「けど?」

 「見てたからこそ、ちょっと。……驚いて」


 小さく呟いてリュカは視線を落とす。その手が持つのはスピードメーターだ。


 「人がこんなに速く、それも空を飛べるだなんて。思わなかった」

 「私も」

 「えぇ?」

 「思わなかったけど、やってみるもんだね」


 爪先で地面を叩く。ようやく足の感覚が戻ってきた。気にはなる後遺症だが、地上についてから不調がある分には何も問題はない。


 「それで」


 楠はリュカを見る。彼は俯き、94の数字を見つめ続けていた。

 リュカは決して察しが悪い方ではない、と、楠は感じている。だからきっと、こいつは既に、楠が言いたいことを分かっているだろう。


 「言ったよね。飛行バイクより速度が出るなら、自分で飛んでいいって」

 「……良いとは言ってないよ」

 「でも飛べない飛行バイクよりこっちの方が上手くいきそうじゃない?」

 「そもそも、どうして、こっち? 飛行バイクはどうしたの」

 「だから、飛行バイクは保留」

 「陽動飛行は飛行バイクで行うって言ったよね」

 「まぁ確かに言ってたけど、どうしても無理なら別の手段を考えてもいいでしょ」

 「どうしても無理なの、本当に?」


 言いたいことが分かっているだろうに、こうして本題を避けるような言葉遊びを続けようとする。正直、楠としてはそんな逃避に付き合うのはごめんだ。アレサンドロでもあるまいし、さっさと本題に入ってしまいたい。

 ただ、この件に関しては少しだけ突っ込んで話した方が良い気がする。その方がきっとこの後が有利だから。


 「少なくとも、すぐには無理」

 「なんで?」

 「だって意味分かんないから」

 「……俺からしたら、意味分からないのはそっちだけどな……」

 

 お互い様だ、という言葉は飲み込んだ。己が言葉少なな自覚はある。なんとか持ちうる言葉を総動員して、言語化を試みる。

 

 「飛ぶ感覚が分かんない。あれって、なんで空飛んでるの?」

 「なんでって、そりゃ人類の英知、科学の結晶だよ。具体的な仕組みが知りたいなら資料を用意するけど」

 「それは今関係ない」

 「そっちが言ったのに……」

 「というか、仕組みとかの問題じゃないの」


 オルテンシアは、飛行バイクでは己が空を飛んでいる感覚が強く、それが恐怖だったと言っていた。

 だが楠はそうではない。楠はそもそも己自身が空を飛べる。空を飛ぶこと自体の恐怖心は無かった。

 ではなぜ飛行バイクで空を飛ぶ感覚が掴めないのかというと、まさにその前提が問題だったのだ。


 己が空を飛べる。だからこそ、己以外に身を任せて飛ぶ感覚が分からない。


 自分が空を飛ぶのは当然だ。だがこのバイクは、バスは、どうやって空を飛んでいる?

 楠は自分の飛行能力に信頼を置いているが故に、それ以外の空飛ぶ物質に恐怖を感じていた。


 「とにかく、なんで飛行バイクで飛べないのかは分かるの。でも、それを克服するにはどうしたらいいかは分からない」

 

 理由は分かった。でも解決策は分からない。

 それならいつまでも1つに固執していられない。まだ可能性がある別の手段をとるべきだ。

 

 「それで、これ」


 リュカは力なく手元のスピードメーターを掲げて見せた。頷き返す。


 「そう。飛行魔法で速く飛ぶ。飛行バイクと同じくらい、それ以上に速く。初めてやったけど、まぁまぁ速いんじゃない? 多分」

 「まぁまぁどころか……」


 空を仰ぎ見るリュカに合わせ、楠も頭上を見上げた。

 空中にドローンが規則正しく並んでいる。彼らは楠が空飛ぶ前と寸分違わぬ隊列でそこに浮かんでいた。


 「あの速度で、あの正確性で空を飛ぶ魔法使いなんて、そうそう居ないよ。……本当に初めて? それで、これ?」

 「バイクを参考にしてみたらできたよ」

 「あぁそう……」


 リュカは不貞腐れたように呟いた。


 「電球より高く飛んだことないとか言ってなかった?」

 「そうだね。でも飛行バイクで浮きはしてたから」

 「それもバイクを参考に、って?」

 「うん」

 「シュガーって忖度抜きでやっぱり天才なんだ」

 「前は忖度してたってこと?」

 「きみも分かってたでしょ」


 肩をすくめてみせる。乾いた笑いが聞こえた。

 さて、本題はここからだ。改めてリュカに向き直る。一瞬目が合って、罰が悪そうに逸らされた。


 「最初の方向性とは違うけど、これで問題ないよね」

 「問題は……ある、よ。そもそも生身で魔獣に近づくなんて危険すぎる」

 「バイクもそう変わらなくない? それに、そのための隊服でしょ」


 袖を掴んで片手をあげる。生身を守るための長袖長ズボン。それに特殊な細工。装甲がない、という意味では、飛行バイクも飛行魔法も変わらない。


 「あと、ほら。実践訓練とかあるし。実際の魔獣はドローンみたいにお行儀良くないよ。不規則な魔獣の動きを避けられないと」

 「そういうの、寧ろ自分の身一つの方が避けやすそうな気がするけど」

 「どうかな。運動神経に自信は?」

 「可もなく、不可もなく」

 「じゃあ無理かもね。隊長としては大事な隊員にもしものことがあったらと思うと心が痛むし、そこは厳しく見させてもらうけど」

 「あのさ」


 咄嗟に言葉を遮った。

 勝手に話して、勝手に納得し、勝手にしめようとしている。なんだこいつは。何を1人で突っ走っているのだ。


 「言ってることは分かるし、その本番の、訓練? があるならそれは受けるけど。それクリアしたら現場に出て良いんだね?」


 リュカの主張自体は筋が通っている。

 魔獣は生きている。ドローンの示すコースを上手く飛行できたからといって、魔獣の動きに対応できるとは限らない。その実践用の訓練を行う前段階として飛行バイクの免許が必要だったわけで、それを別方向からクリアした今、これからが本番だというのも、分かる。

 だが楠には確認しておかなければならないことがあった。

 これまでリュカが度々吐いてきた煽りのような発言と、今のおかしな様子。

 それらが繋がって、1つの可能性を導き出す。


 「後出しでなんやらかんやら条件つけて、結局自分1人でやります1人がいいですーとか、言わないよね」

 「……あ」

 「あんた、本当はバディなんて付けられて、迷惑してた?」

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