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o゜包o≡ 足=  作者: 〇樽小樽
ep.1飛行バイクと飛行魔法
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15

 びゅう、と風が吹きつける。

 正確には自然に起こる風ではない。乗り物が走ることによって感じる走行風だ。


 「いっつも思ってたんだけど」

 「なに?」

 「地上への向かい方、これしかない?」


 ここがカフェの席なら肘をついている。だが当然ここはカフェではないし、それどころか地上ですらない。

 今現在、楠はサイドカーに乗っていた。

 しっかりとシートベルトをしめ座席に座り込む。斜め上を見上げれば、飛行バイクで飛行するリュカがいる。楠を運ぶサイドカーは、まさに彼が繰る飛行バイクに取り付けられていた。

 ギルド北支部飛行艇と地上の往復、それをこのスタイルで行うのももう慣れた。慣れはしたが、不本意なのは変わりない。


 「きみが免許を取るまでは、これしかないかな」

 

 2人乗りは違反だし、とリュカは続けた。

 いっそ過剰なほどに丁寧な飛行の中、ゆっくり、少しずつ角度をつけて飛行バイクの高度が下がっていく。言われなければ気付かない程の坂道を下っているような、そんな感覚だ。


 「いやなら地上には下りれないし、そうなると免許は取れないけどね」

 「いやとは言ってない」

 「そう?」


 いやではない。不本意なだけである。それを「いや」と言うのかもしれない。

 納得はしている。免許がないのだから乗り物には乗れない。当然のことだ。いつも楠を運んでくれるリュカへの感謝もある。

 ただこのスタイルを本意の元であるとは思われたくない。


 「だって、魔法陣とかあるのに」

 「魔法陣?」

 「ギルドに最初連れてきてもらった時、レオーネさんが使ってた」


 楠は感動したのだ。移動系の魔法陣なんて、存在は知っていても実際に体験できるとは思っていなかったから。

 ギルドに正式加入する気はないが、これだけは正直魅力的だった。これを常に使えるならと一瞬揺れかけたくらいには羨ましい。だってキックボードよりも飛行魔法よりも早く長距離を移動できる。そんなの楽すぎる。


 「なのになんで私たちはいつも飛行バイクで地上まで向かってるの」

 「あぁ。アレはアレサンドロしか使えないからね」


 目を見開きリュカを見上げる。リュカはブレーキをかけながら広い空を見渡した。

 これは可能かどうかではなく、許可があるかどうかの問題なのだ、とリュカは続ける。

 特定の位置への移動魔法陣の使用は、許可を得た人しか使えない。アレサンドロはそのリーダーという立場上招集に応じたり、かと思えば魔獣への対処のためすぐに飛行艇へ戻らなければならなかったりと忙しない。そのため特別な許可を得て移動魔法陣を所持、使用しているのだそうだ。


 「だから、ギルドの人なら誰でも移動魔法陣を使えるってわけじゃないんだよね」

 「ふぅん……あんまり地上と変わらないんだ、そういうの」

 「そうだよ。空の上なら自由だと思ったら大間違いだ。俺らはあくまで、一隊員だからね」

 「隊長がなんか言ってますけど」


 半笑いでそう言うと、リュカは「うーん」と答えにくそうに唸りを上げた。

 気が付けば高度も下がり、楠の目の高さに街路樹のてっぺんが見えていた。

 ちらり、と下を見る。飛行車用ターミナルは今日も賑わっていた。


 なんともお手本のようなブレーキ操作で飛行バイクは着陸した。

 確実に停まったのを確認してシートベルトを外す。楠は好奇の視線を感じながらサイドカーを降りた。

 飛行バイク自体はそこまで珍しいものでもない。郵送業なんかでも使われている、ポピュラーな飛行車だ。

 だがそこにサイドカーともなると、どうしても人の興味を引くらしい。確かに楠も、バイクに取り付けられたサイドカーなんて代物はフィクションの世界でしか見たことがない。地上バイクでも、飛行バイクでも。


 「お待たせ、行こうか」


 飛行バイクを指定の位置に駐車させたリュカが戻ってくる。上着の長い裾を翻し、リュカは日陰へと進路を向けた。


 「いやぁ、暑いねぇ。シュガーからしたら慣れたものかな」

 「慣れとかはないかな、今年は暑い方らしいし」


 この地域は世界的に見ても1年の気温差が激しい。特に今の季節、夏場の気温は高く、別の地域から来た人々はその暑さに驚愕するそうだ。

 特に今年は昨年より暑い夏となるらしい。昨年は一昨年より暑くなかったから、どうせ今年もそんな暑くないだろうと思っていた楠の予想は大外れだ。楠は暑さは得意ではない。

 その上今の楠は隊服を着ている。隊服は安全性の関係上、長い袖に長いズボンだ。その上、特殊な細工を施すために生地が厚い。仕方がないこととは言え、まぁ暑い。

 

 「ていうか、そんな格好してるから余計暑いんじゃないの?」


 とはいえ、隊服を着ているのは楠だけである。

 飛行バイクでの訓練を受けるのは楠だけであり、リュカはあくまでも付き添いだ。指導自体もどうやらアレサンドロからの任というわけでもなく、ただリュカ自身が「気になるから」とかいう理由でしてくれているらしい。つまりギルドの一員としての公的な仕事というわけでもない。

 そのため彼は私服で来ている。私服ということは、好きなだけ涼しい格好ができるのだ。

 だというのに、リュカはロングカーディガンを羽織っていた。

 長い袖に長い裾。日焼け対策にはなるけれど、その割には生地もしっかり厚い。そんなものを着ていたらそりゃ暑いだろうと楠は思う。

 そう指摘すると、リュカは曖昧に笑って肩をすくめた。


 「そう? それを言うならシュガーの方がじゃない?」

 「これは制服。そっちは私服」

 「うーん、なるほど」


 斜め上を見るようにして少し何かを考えた後、リュカはカーディガンの襟元を、くんっ、と引っ張るように摘まんだ。


 「心配してくれるのはありがたいけど」

 「してない」

 「ありがたいけど、良いんだよ。気に入ってるんだ、この服」


 好きで着ていて、その上で暑さを感じているのなら、別に楠が何か言うこともない。


 「ならいいけど」


 楠は一つ息を吐く。


 「熱中症とかならないようにね」

 「あ、やっぱり心配してくれてるんだ」

 「……まぁ、飛行バイクで送迎してもらってる身ですから」

 「あぁ、足ってことか」


 難しいなぁ、と呟くリュカの背後を楠は指差す。


 「ん?」

 「あんたは飛行バスとか乗る?」


 飛行車用ターミナルの主な使用意図は、飛行バスの乗り降りだ。今日も時刻表通りに飛行バスは運行している。

 楠の指した所にも飛行バスが止まっていた。その付近に乗客と思わしき人々が大勢たむろしている。

 リュカはそれらを視界に収めると、あぁ、と頷いた。


 「乗らないかなぁ」

 「乗らないんだ」

 「乗らないねぇ」


 何故? と楠は首を傾げる。リュカは苦笑し視線を逸らした。


 「まぁ……あ、ほら、飛行バイクで事足りるから。それに普段から飛行艇で過ごしてるし」


 そんなに遠出することもないし、と呟き、リュカは楠の顔を覗き込む。


 「どうしてそんなこと聞くの?」

 「飛行バスなら、車内に冷房効いてるし、暑くないでしょ」

 「……なるほど、やっぱり心配してくれてたんだ」

 「いや、好きでその服着てるなら移動手段とかの方で涼んでるのかなって思っただけ」

 「知的好奇心ね……」


 意外そうに目を丸めたり、空笑いしたり、忙しそうにリュカは表情を変える。それから小さく咳払いすると、先程の楠の真似をするように首を傾げて見せた。


 「そっちは?」

 「乗らない」

 「へぇ。意外だな。飛行バス、便利じゃない?」

 「便利なのは分かるけど……」


 楠は息を吐いた。


 「飛行バス、なんかいやなんだよね」

 「……シュガーさぁ、発言が結構、全部、曖昧だよね」

 「語彙力無いって言いたい?」

 「あぁ、そんなつもりはなかったんだけど」

 「そんなつもりしかなさそうだったけど」


 抗議の視線を向けるとリュカは白々しく肩をすくめた。

 便利なのは分かるが、そうではないのだ。

 そうではなくて、乗りたくない。そしてその理由を楠は掴みかけている。

 リュカも自分と同じなのか確かめようかとも思ったが、まぁ必要ないだろう。人は皆違う人間なわけだし、自分に当てはまることが他人にも当てはまるとは限らない。


 「それじゃあ、飛行バイクで飛ぶのもなんかいや、なんじゃない?」

 「そのことなんだけど」


 にやりと笑うリュカに向き直る。面食らったように瞬きをするリュカを真正面から、じっ、と見つめた。絶対に逃がさない様に。


 「飛行バイクは、一旦保留」

 「保留、って……それじゃあ」


 リュカが目を見開く。そこに僅かな喜色が滲んでいるのが分かった。

 やっぱり、こいつ。


 「でも陽動飛行は諦めない」

 「……どういうこと?」

 「前に自分が言ったこと、覚えてる?」

 「前? なにか言ったかな……」


 眉を下げ視線を逸らすリュカに、楠は不敵に笑い返した。


 「見てて」

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