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o゜包o≡ 足=  作者: 〇樽小樽
ep.1飛行バイクと飛行魔法
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13

 「私、飛行バイク乗れないです」


 オルテンシアは瞬きを繰り返しながら、楠の作るバツマークと、楠の顔とを交互に見やる。


 「……え、あ、あの? 言っている意味が、あまり」

 「そのままです。私は飛行バイクに乗れないっていう」

 「そう、そうですよね、今は。だから乗れるようになるために私に意見を求めたんです、よね?」

 「そうですね」

 「それで、さっき参考になったって」

 「はい。とても参考になりました」

 「なら」

 「隊長さんのお陰で、私はやっぱり飛行バイクに乗れないんだなというのがはっきりしました。ありがとうございます」

 「そっ……そっちですか!?」


 彼女が驚くのも無理はない。あれは完全にすべて解決した流れだった。オルテンシアの話によって楠が飛行バイクに乗るコツを掴み無事免許を取得できるまで、の流れが完全にできていた。

 だが実際は逆である。

 オルテンシアの話によって、楠は自分が飛行バイクに乗れない理由を理解した。と同時に、それがすぐには解決しないことも分かってしまった。

 そりゃあできる限り努力はしたい。したい、が、無理なものは無理な時もある。恐らく、いやほぼ確実に、この案件期間内では楠は飛行バイクの免許を取ることができない。


 「そんなことに参考にされるために相談に乗ったわけじゃありませんよ!」

 「いや、悩みは解決しましたよ」

 「乗れない、が解決だって言うんですか!?」

 「はい」

 「あなたねぇっ……」


 とはいえ、これでは楠はお留守番をすることになってしまうだろう。こんな所にまで来ておいてそんなのはまっぴらごめんである。

 だが事実として、楠は飛行バイクに乗ることができない。その理由を解決するのも難しい。でも陽動飛行には携わりたい。

 そんな我儘とも言えるような思いをそれでも叶えようとするのなら、することは1つだ。別の手段を考えれば良い。

 なにかないだろうか。飛行バイクに乗らずに陽動飛行をする方法。ふむ、と人差し指で顎を撫でた所で、気が付いた。そうだ、ここには頼りになる隊長さんがいるじゃないか。自分よりうんと魔獣にも、陽動飛行にも、魔法にも詳しい隊長が。

 そうして改めて視線を向けた先の彼女は、何故だか深く、深く深呼吸を繰り返していた。わなわなと肩が震えている気もする。まるで荒ぶる感情を押さえつけるかのようにきつく瞑られた瞼に、楠は自分の失態を悟った。

 これは、楠が言葉足らずだった。


 「あの」


 弁明を、と口を開くと、それがトリガーだったようにオルテンシアはカッと目を開いた。花の瞳孔が一瞬きらりと輝いて、楠の言葉を奪う。


 「あなた!」

 「は、はい」

 「リーダーの期待を裏切るなんて、絶っ……対に、許しませんよ。もっと考えなさい!」


 はた、と今度は楠が瞬く番だった。


 「あ、だから別の」

 「何か他にないんですか。あなたが飛行バイクに乗るために越えなければならないものは!」

 「それが」

 「いいですか。1つ、どうしても解決しないものがあるからって、簡単に諦めてはいけません。別の要因からアプローチすることで目的が達成できる可能性だってあるんです!」

 「……えっ、と」

 「し、か、も、これはリーダーのお言葉です。……どうです、できそうな気がしてきたでしょう」


 驚いた。てっきり怒られるとばかり思っていた。

 先程の態度では、オルテンシアには楠が任務を放り出そうとしているように見えていただろう。実際は全く持ってそんなつもりないが、あんな言葉選びではそう思われても仕方がない。

 だから誤解を解こうと思ったのに。まさか叱咤激励が飛んでくるなんて思わなかった。


 「それで、先程分かったというもの以外で、飛べない要因に心当たりはつきませんか? よく隊員から聞くものだとそうですね、やはり飛ぶ恐怖心、それからバランス感覚、あとは……」


 こうして少し関わっただけで、彼女が隊長を任されている理由がよく分かる。初対面の余所者にも丁寧で、面倒見が良い。自分の仕事への責任感もある。実に真っ当な上司像だ。


 はっきり言うと、沁みる。ささくれ立った心が丸くなるようだ。なにせ楠はこれまでリュカやアレサンドロといった曲者とばかり関わってきた。訓練や免許取得のために時間を使うから、カフェにだって中々顔を出せない。そんな中に現れたオルテンシア・コンティ。ものすごく沁みる。


 「やはり自分より速い存在というものは怖いようですね。制御の感覚も難しいようで」

 「……はやい?」

 「え?」


 そんな折、引っかかる言葉があった。

 顔をあげ聞き返す。きょとん、と目を丸くするオルテンシアに、楠は「もういっかい」と促す。


 「もういっかい、今の聞かせてもらっても良いですか」

 「飛行バイクの速度の話です。というより、バイク自体、乗り物自体と言いますか」


 聞くに、とある隊員の話のようだった。自分自身が走る速度に比べて圧倒的に速い乗り物を自分が乗りこなす、というイメージが付かず、恐怖心を覚える。そんな隊員が過去に居た、というエピソード。


 「その隊員は反復練習で乗り越えましたが、勿論人によりますよ。……もしかして、こちらが参考になりそうですか?」


 速度。

 そういえば、楠には飛行バイク以外にもう1つ、空を飛ぶ手段があるのだった。ただそれはリュカに止められた。何故かというと単純明快。飛行バイクの方が速いから。

 じゃあ、飛行バイクと同じかそれ以上に速く飛ぶことができれば、なにも文句はないはずだ。


 「バイク、って」

 「はい」


 ごくり、オルテンシアが喉を鳴らす。


 「どういうのが速いバイクなんでしょう」

 「え、えぇ?」


 がく、オルテンシアの重心が落ちる。ずっこけ。そんなこともしてくれるのか。また1つ親しみやすい所が見えた。

 困惑したような表情だった彼女はしかし、それをすぐに咳払いでひっこめ、視線を落として考え込んだ。


 「……確か、速いバイクというのは軽いのが良い、と聞きました」

 「軽い」

 「それからパワーがあるもの」

 「パワー」

 「私も、専門的なことはあまり分かりませんが……確か、エンジンに供給する空気の量を調節して、燃焼させて、その力が伝わってタイヤを回すんですよ」


 どこかで聞いたような、聞いたことないような。バイクに乗るの必要ないくつかの手順や注意点は覚えても、仕組みまではちゃんと意識して学んでいなかった気がする。少なくとも楠はこんなことパッと説明できない。


 「だから、空気の供給量が多い、とか……早く燃焼させられる、とか……とにかく、たくさんタイヤを回せた方が速いですよね。……きっと」


 軽くてパワーがあると速い。空気の量、燃焼の早さ。

 完璧に理解できたかと言われるとそうではない。

 でも、やれそうな気がする。


 「……すみません。曖昧なことしか答えられなくて」

 

 オルテンシアは申し訳なさげに眉を下げた。そんな顔をする必要は全くない。楠は力強く頷いた。


 「コンティさん、今のです」

 「な、なにがです?」

 「今のコンティさんの説明のお陰で、私、きっと飛べます」


 彼女の目が少しずつ大きく、丸く見開かれていく。瞬きすると、ぱちん、と音が鳴るようだった。


 「たくさん、ありがとうございます。これでレオーネさんの期待にも応えられます」


 オルテンシアは本当にすごい。彼女のお陰で楠はいくつもの新発見ができた。溢れんばかりの感謝を伝えたいけれど、楠はどうにも言語化が上手くない。それでもできる限り、伝えられる限りの言葉を尽くした、つもりだ。

 頭を下げる。頭上から小さく息を吐く音がした。


 「……そう。良かった」


 心の底から安堵したようなその声音に、楠は顔をあげた。

 目が合って、オルテンシアはこほん、と咳払いをする。


 「それから、こちらこそすみませんでした。任務を放棄するような態度を取ってしまって」

 「いえ、いいのです。こちらも短慮でした」


 本人は良いと言うが、初対面の彼女には本当に迷惑をかけてしまった。隊長である自分のアドバイスのために楠が陽動飛行を諦めた、だなんて、絶対に許しがたかっただろう。一瞬でもそんな誤解を与えてしまったのがなんとも申し訳ない。

 それに、そうだ、彼女は隊長だ。一体どれだけの時間彼女を拘束してしまったのか。魔法陣隊隊長なんて、立場上絶対に忙しい。

 そう考えるとオルテンシアには何かしらでお礼をしなければならない。何が良いだろうか。楠がギルドの正式な隊員なら、お礼の機会はいつだってあった。しかしいかんせん臨時なもので、機会も内容も限られる。

 ……いや、これこそうちの隊長に相談しよう。流石のリュカもこれにはしっかり答えてくれることだろう。

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