ダンジョンブレイク
ある日、この世界にダンジョンと呼ばれる物が現れた。その数日後、最初に現れたダンジョンからは大量のモンスターが現れ、人間たちを殺し回っていた。だが、それに呼応するように人間の中にスキル持ちという存在も現れ出した。世界はそういう人物をプレイヤーと呼び、プレイヤーたちはダンジョンを攻略していった。そんな世界で我は…
我は柳雪、とあるダンジョンのボスだ。我は食料もいらないし、睡眠も必要としない。性欲も感じなければ性器も存在しない。そもそもとして性別が存在しない。そんな存在だ。だが我には1つ悩みがあった…
「つまらない」
我がそう言葉にすると側近である桜坂怜が話しかけてくる。
「どうかされましたか?」
「なぜ、我はボスなのに、一度たりとも攻略者を見ていない!下の階層の奴らからの連絡で外には大量の攻略者…いや、プレイヤーが存在するらしいではないか!何故我のところには誰1人として来ないのだ!」
「そういうことですか…それについては調べてあります」
そういうと、怜は一枚の紙を見せてくる。我はその紙を取り、内容を読む。
「そちらはここ数年の攻略者の殺害数と攻略者を倒した者たちの割合です」
俺はそれを見ていく。そして、不思議なことに気づく。
「おい、これは間違いだろう。何故10階層でこんなにも攻略者が死んでいる?」
見ていくと1〜9階層までは5%行かない程度、それに対して10階層では90%以上と、9階層を超えた者たちを全員殺害している。
「忘れられたのですか?10階層は私の妹の桜坂華恋が中間ボスとして待機しているんですよ」
「いや、待て。華恋はまだ幼いだろう。こんな量の攻略者を相手取って殺せるとは思えん」
「私もそう思いましたので一度華恋が攻略者と戦っているところを見に行ったのですが、かなり一方的でした」
我はそれを聞いた瞬間疑問が絶えなかった。華恋は幼い、それにスキルも戦闘向きとまでは言えん。なのに何故そこまで一方的な戦いになるのかと…
「原因は攻略者…いえ、人間たちは同胞を大切にするからだと考えられています」
「…なるほど」
我はその回答で何となく納得をした。華恋のスキルは精神煙夢。魔力を煙に変え、その煙を吸った者を操れるというものだ。精神までも操るため、どれだけ呼びかけようと解けることはない。解除方法は術者の死亡、または華恋のスキル以上の強力なスキルで上書きするかだ。また、華恋以上の魔力持ちには効かないという弱点も存在する。
「つまり、精神煙夢によって操られ、なす術なく殺されたということか。」
「はい。華恋の弱点でもある複数人の操作についても、1人操れば全体の動きが鈍くなるため殺しやすくなったものだと考えています」
「なるほどな…で、華恋を超えた者たちも11階層で死亡ということか…つまらん!」
資料では1番奥まできた者でも13だ。我の階層は30。13で止まっている攻略者どもには夢のまた夢だろう。
「どうしたものか…」
我が頭を抱えていると怜が提案をしてくる。
「ダンジョンブレイクを起こすのはどうでしょうか?」
ダンジョンブレイク。ダンジョンが現れて時間が経ったのちにボスがダンジョンコアを壊すことで起こる現象。それを起こすとダンジョンが消滅、ダンジョンボスや中間ボス等が外に出ることが出来る。
「それもありだな…よし、壊すか」
そして俺はすぐさまダンジョンコアの場所に向かった。そこには輝く宝石のようなものが置いてあった。大きさは我と同じぐらいで、強力な魔力を放ち続けている。
「よし、行くか」
我は魔力を集めコアを指で弾く。するとヒビが入り、そこを中心にどんどんヒビが拡がっていく。そして最終的にはバラバラに砕け散った。
――――――――――――――
私は高山彩音。A級プレイヤーだ。私は今、現在残るダンジョンで最古のダンジョンである終焉のダンジョンの入口に居た。難易度は不明、10階層までの情報は出ているが11階層以降の情報は殆どない。そのため大量のプレイヤーが死んで行った。そんな終焉のダンジョンには必ずA級以上のプレイヤーが入口に待機するようにと言われている。
「はぁ…暇だなぁ」
終焉のダンジョンは現れてから100年以上1度もダンジョンブレイクを起こしていない。今日も何も起こらずに終わるだろうと思っていた。瞬間ダンジョンが崩れていく。
「!?!?」
私はすぐに振り返り武器を構える。するとダンジョンの砂埃の中から7人の人型の生物が現れる。
「もー、ダンジョンコア壊すなら言ってよねー」
「それは悪いと思っている。」
「ボスが決めたことだ。俺はなんの不満もないぜ」
そんな会話をしながらモンスターが現れる。私は冷や汗を大量にかいていた。相手は終焉のダンジョンのボス格のモンスターたちだ。私程度では足止めもできないだろう。すでにギルドにはメールでこのことは伝えている。
『もしかしたらまだ対話が出来るかもしれない…』
相手は日本語を話している。モンスターの中には会話ができる者も存在すると言われている。そのため私は一縷の望みにかけて話しかけた。
――――――――――――――
我々が外に出るとそこには剣を構えた女が1人佇んでいた。すると女性が口を開く。
「あなた方は何者ですか!会話は可能でしょうか!」
「ボス、この者をどうされますか?」
「話し方が立場を理解してなーい。殺していい?」
「待て、いきなり殺しては彼女も納得しないだろう。そうだな…我はこのダンジョンのボスだった者だ。貴様は何者だ?」
「私はA級プレイヤーの高山彩音です!」
「エーキュウ?エーキュウとはなんだ?」
我がそう言うと華恋が答える。
「攻略者…いえ、プレイヤーにはランクというものがあるらしいです。」
「ふむ、エーキュウとは高いのか?」
「いえ、私でも操れたのでそこまで強くないと思います」
「そうか」
エーキュウとはそこまで強くないらしい。相手の魔力寮である程度エーキュウの強さはわかっていたが、華恋に操られるレベルはかなり弱い。ここにいる7人の誰にも勝てないしいい勝負にすらならないだろう。
「で、貴様は何故ここにいる?」
「私は終焉のダンジョンの見張りをしていました」
「見張りか…」
『終焉のダンジョンとは我々の居たダンジョンのことだろう。そこをこの低レベルの者が見張り役としているとは…』
「舐められたものだな」
我がそう言うと女はダラダラと汗をかいていく。
「どうした?気分が悪いのか?」
「い……いえ!」
「そうか」
『最初に見つけたプレイヤーだ。死なすわけにはいかない。こいつを使えば色んなところに行けるかもしれんし、外の世界の情報を簡単に集められるやもしれん』
情報とは力だ。戦いでは知らなかったなどは通用しない。戦場では敗者が悪で勝者が正義なのだ。それに今の我々には外の世界の情報は是が非でも欲しいものなのだ。そのためこいつを死なすわけにはいかないのだ。すると少し遠くから足音が近づいてくる。
「仲間を呼んだのか…」
当たり前だ。7対1、しかも相手は格上。仲間を呼ぶのが正常な判断なのだ。そして足音の人物達が姿を現す。気配は12人、足音だけなら7人程度だったことを考えるに、最低でも5人は隠密のプロがいる。
「全員!戦闘態勢!」
29階層の中間ボスである山田ライチが声を上げる。その言葉と同時に全員が戦闘態勢に入る。我を囲むように六人が立つ。すると目の前から7人の男女が現れる。隠密をしている5人は回り込んでくるつもりだろう。そのことに全員気づいている。だが、まだ戦闘になるとは限らないため、全員気づかないふりをしている。
「何者だ?」
「彩音さんの同業者だよ。」
『彩音とは多分あの女のことだろう。つまりこいつらはプレイヤーか…しかもあの女より格段に強いはずだ。』
「で、何の用だ?」
「知ってるか?ダンジョンブレイクをしたとき、中から出てくるモンスターをどうしているか。」
「さあな。我には関係ないことだ。」
そういうと全員が我々のことを睨みつける。
「全員討伐するように命令がでてるんだよ。だから…」
男はそういうと一瞬で距離を詰めて二刀の小刀を抜く。
「死んでくれ。」
まあまあ速い攻撃。だが、その攻撃をライチが余裕で受け止める。
「ボス、交渉の余地なしってことで全員殺していいですよね?」
「ああ、問題ない。しかし、そこの女だけは殺すな。」
『女…彩音と呼ばれていた者からは戦闘の意思を感じなかった。まだ、会話できる可能性がある。だが、この者たちは無理だ。』
「お前たち、どけろ。我がこの者らを消し去ってやろう。」
「!!…ですが!このようなものら、あなた様が出るような幕では…」
「いいのだ。暇だからな。それにここの平均的な強さも知りたいからな。」
「舐めてくれるなぁ!」
「舐めていない。おぬしらへの警戒の表れだ。それに気づいていないのか?すでに我の攻撃は始まっておるぞ?」
「は?」
そう。すでに攻撃は始まっていた。
「数ある我がスキルのうちの1つ、暗黒吸引。ありとあらゆる存在を飲み込み消し去る。スキルの発動条件はなし、スキルの発動場所も自由自在。吸引する物体の調整まで出来る。もちろん威力もな。難しいのだぞ?おぬしら12人全員に気づかれないように発動させるのは。」
相手は全員すでに下半身が消えていた。
「クソったれが!」
「いやだ!死にたくない!」
「誰か!助けてくれ!」
「はぁ…うるさいな。」
瞬間、スキルの威力を上げ、一瞬で敵は消え去った。