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けしもの屋日誌  作者:
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0 「僕の夢は?と聞かれたら」

   0 「僕の夢は?と聞かれたら」



「将来の夢は?」


 大人が子供に聞きたがる話題のひとつだ。


 幼年のうちならば、「魔法使い」「正義の味方×××」「秘密戦隊○○マンの△△」などと、空想上の産物や、荒唐無稽な物語の登場人物を挙げても、尋ねた大人達は微笑ましく聞いてくれるのだろう。


 ある程度成長した段階で、「野球選手」「プロサッカー選手」「お医者さん」「宇宙飛行士」「凄腕の刑事」などと、多少現実味を帯びた回答をするようになってくると、「そうか。 じゃあ夢に向かって頑張らなきゃね」と、励ましの言葉を添えて、頭を撫でてくれるだろう。


 しかし僕には、「将来の夢」の回答選択肢が、最初から与えられてはいなかった。


(さい)君は、お父様の会社を継ぐんだものね」


「お父さんの後を継ぐために、彩君は毎日お勉強頑張っているものね。 偉いわ」


 僕の将来については、このツー・パターンの一方的台詞(せりふ)で、問答なしに終結していた。

 故に、僕は「将来の夢」なるものを、思い描いた事がない。

 と、いうより、考えた事もなかった。


 まあ、それも仕方ないことだと思う。

 何と言っても、僕は結城財閥総帥結城彩人(あやと)の一人息子なのだ。

 銀行、病院、高級ホテルからに下町の八百屋に至るまで、系列企業は三桁に及ぶ、大財閥の御曹司なのだから、周囲の人々が僕をそのような目で見るのは、至極当然と言うものだろう。

 おかげで、煩わしい無意味な会話をせずに済み助かってはいたものの、世の中のお子様が、子供らしい無邪気な夢を描いていた時代に、僕は、経営論や販売戦略などの話題で盛り上がる大人達の中に、ぽつんと紛れ込み、夢一杯とはとても言えない話ばかり(話している叔父上方には、夢一杯だったのだろうけれど)を、聞かされ育った。

 そんな環境下で、子供らしい夢を描けという方が、僕に言わせれば難しいというものだ。


 だけど人生、何が起こるか分からない。


 昨秋中等科に上がった僕は、とあるきっかけから、「将来の夢」を見つけてしまった。

 しかも、他人には言えない、秘密の夢、なりたい職業。

 何の職業かって?

 それは、〈けしもの師〉という専門職だ。


 この〈けしもの師〉という仕事、世間的にはマイナーな職業という以前に、職務内容を説明したならば、確実に心療内科の受診を勧められるであろう、摩訶不思議の世界に属する仕事なのだ。

 平たく言えば、「魔法使い」や「呪術師」の親類縁者のような職業。 詳しくはまだ僕も理解が行き届いていないので、解説は、今はこれくらいで差し控えたい。

 けれど、摩訶不思議だろうが人外魔境だろうが、僕はこの仕事のプロフェッショナルになりたいと思った。

 否。 なると決めたのだ。


 初めて抱いた「将来の夢」実現のため、僕は師匠と仰ぐ人の店で、既に弟子入り奉公をさせてもらっている。

 善は急げというし、〈けしもの師〉はかなりの専門職。 その知識を理解し技術を体得するには、相当の時間を要すると思われる。 そこで、お師匠に無理を言って受け入れてもらったのだ。


 そんなにも固い決心なら、何故他人に内緒で秘密なのか?と、問われるかもしれない。

 この歳になって、そんな空想の産物のような、怪しげな職業に就きたいんです、と宣言するのが恥ずかしいから、という訳ではない。


 弟子入りの際の誓約書に


 《当店で知り得た事、一切他言無用》


 と、書かれているからだ。


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