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箱庭  作者: 弥生うづき
雪深い街 ヴェントゥール
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5. 再会

「ところで、お前は何者だ?」

一旦宿へ戻ろうかと、リーファが体の傷の具合を確認していると、徐にエルウードが訊ねてきた。


「これはこれは申し遅れました。私、精霊石(クラフトゥル)調査員をしております、リーファと申します。」

そういって大仰に礼をしようとして、遮られる。

「やめろ。そういう事を言っているんじゃない、お前は()()だ?」

両足を揃えて座り、こちらを伺うエルウードの目がすっと細められた。警戒しているのか、炎の毛並みが逆立っているようにも見える。しかし一方で、こちらが答えずとも既に当たりをつけているような態度でもあった。


「・・・どういう意味?」

「お前も知っているだろう?精霊の力を人間の体に流せば、通常はその力が体内で暴走して死ぬのがオチだ。受け入れるなど、容易いことではない。少なくとも俺はこれまで見た事がない。」

「あら、貴方が容易いって言ったんじゃない。」

「本当に口の減らない奴だな。大体お前の波長自体おかしい。そもそもお前は人間か?」


波長とはオーラというのか存在感というのか、その存在が出している気配のようなものだ。精霊やエルゴ、コギトは、人間とは違う独特な波長を出しており、調査員達はそれを感じて、相手の正体や強さなどを測っている。

エルウードは、リーファのそれが人間と異なっていると言いたいのだろうか。


(お前は人間か?なんて、失礼な質問をしてくれる。人間に決まっているじゃない。)


不躾な質問に、知らず口角が上がる。リーファ本人としては、とても良い笑顔だと思っているのだが、何故か仲間内や交渉相手には胡散臭いと言われる笑みを浮かべて答えた。

「えぇ、おそらくはね。」


「お前は


ドガン!!!!!


突如響いた轟音と地面の揺れに一瞬足元を取られたものの、体勢を整えて辺りの気配を探る。どうやら目の前にいるエルウードとは別のコギトの波長が現れたようだ。


(どういうこと!?こんな短時間に別のコギトが現れるなんて!)

ここまで進んで来た道を戻り洞穴の外に出ると、太陽はほぼ沈みかけ名残惜し気に最後の光を一筋差していた。暗い場所から一気に外に出たせいで、茜色の夕焼けの光が目に染みたが、下の様子を伺うと森の中を何かが走る影と、それを追う白い存在が見えた。


「あぁ小童か。最近この森に居ついている新参者だ。

近頃人を食べる量が増えてきていたからな、討伐隊がやってくるのも時間の問題かと思っていたが、さっそくやってきたか。」

音もなく後ろについてきていたエルウードは、影が走り去った方角を見やりながら鼻を鳴らして言う。その言葉にひっかかる。

「え、この森で食べ散らかしているコギトって、貴方のことではないの?」

「俺はそんな汚い食べ方はしない。そもそも最近は食べてもいない。」

見下している相手と同等に見られたのが不服だったのか、エルウードの波長が剣呑なものに変わる。


狼型のコギトの目撃情報と、最近人間が食い散らかされているという情報が混合していたのか、どうやら宿屋の主人が話していたコギトはエルウードとは別だったようだ。

遠ざかっていくコギトの波長を拾うと、突如胸の奥をぎゅっとわし掴みにされるような、不思議な感覚が拡がる。何故か鼻の奥がつんと痛み、目が潤む。


(この波長はまさか、まさか・・・!!)


反射的に崖を飛び、いくつかの枝のしなりを利用して森に着地する。大した高さでなかったとはいえ、着地までの間に枝が掠り新しい傷が増えたが、既に擦過傷はあちこちにできているので無視することにした。波長を感じた方へ一目散に駆け出していく。


(エルウードは討伐隊と言っていた。鉢合わせるのは厄介ね。)


後を追っていた討伐隊とかち合わないように、影の真後ろを追うのではなく、横から接近できるように追いかける。

影のスピードは速く、またこちらには土地勘がない。加えて森の中の走行は木が邪魔をしてなかなかスピードが上がらない。それでも。


(私があの子の波長を間違える訳がない。あれは、あの子は・・・)


リーファは絶対に見失う訳にはいかなかった。しかし討伐隊を避けながら距離を詰める方法が見い出せず、どう追いつこうか考えあぐねていると、タイミング良く影の向かう先が大きく右に曲がった。

旋回方向に回り込めれば、討伐隊とかち合う事なく接近することができるだろう。このチャンスを逃す訳にはいかない。

エルウードとの契約でかなり体力を消耗しているようで、縺れそうになる足を叱咤する。さらにスピードを上げるべく、ぐっと地面を蹴りだした。

眼前に迫る木々は最小限の動きで避け、ただひたすらに懐かしい波長に向かって突き進んでいく。

そうしてしばらく走り続けていると、走る影の横顔を捉えることができた。

限界を超える運動で張り裂けそうな肺に空気を無理矢理送りこみ、声を張り上げる。


「フィム!!」


声が届いたのか、その場に急停止して弾かれたように振り返る影と目が合う。こちらの姿を認めて驚きに目を見張ったが、その瞬間襲い掛かってきた討伐隊の攻撃を避けようと宙に跳んだ。


「フィム!!」


もう一度名前を叫ぶ。しかし続く討伐隊の追撃を避けるべく、どういった原理なのか見えない足場を蹴り上げるようにして、更に宙を飛び、次第にその姿は遠ざかっていった。


「あっちは街の方向だな。」

影を見失った脱力からその場にへたり込み、ぜぇぜぇと肩で息をしていると、息一つ乱していない、外でも眩い毛並みの狼がすぐ後ろにいた。

「知り合いか?」

さして興味も持っていないようなエルウードから目をそらし、影-フィムの去った街の方を見て呟く。


「私の家族よ。」

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