1. はじまり
Ég hélt sem skýlaus, heiðblár himinn dagur svolítið.
Sólskinið að augun ég brennir klárað það en venjulega
Vindurinn veðri sterkara fyrir lok sumarsins er finna kaldur
Það yrði ánægð ef ég gæti í svona sem lætur þig.
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「フィヤットル山に?」
「はい」
「あんたが?」
「はい」
「・・・正気か?」
「おそらく〜」
人もまばらな早い時間に、隣町から歩いてきたのか、少し疲労の滲んだ顔で宿の受付を訪れた女を、店主は訝し気に上から下まで見た。
肩につくくらいの長めのボブは白に近い銀で、うっすらと光を反射している。
こうした視線に慣れているのか、情けなさそうな笑顔を浮かべながら店主を見つめる瞳は、くすんだ灰青だ。
寒い地域特有の色の白い肌ではあるが、その服装は明らかに旅人のそれで。
寒がりなのだろうか、厚手の外套の上に毛皮のケープを羽織り、革のブーツの上からはケープと同じ毛皮を使用したレッグウォーマーをするなど、やたらと着こんでいたのが印象的だった。
整った目鼻立ちをしているがまだ少しあどけなさの残る顔をしていて、とてもではないが真冬の、それも切り立った崖のある雪山に向かうような人間には見えなかった。
「なんでまたあんなところに・・・。あんたみたいな子が行くところでもないだろう?最近物騒にもなってきているしなぁ。」
「そうなんですか?あぁすみません、私はこういう者なんです。」
そう言って女、リーファは、着込んだ外套を少しめくって、懐に入っている不思議な光を放つ石をちらりと見せると
「フィヤットル山では、近年精霊石の産出が上がっているという事で、その調査に参りました。」
そう言って、営業特有の胡散臭さの残る笑みを浮かべると、それまで訝しげな目をしていた店主は、少し緊張を解いて目元を和らげた。
「あぁなんだ、あんた精霊石調査の人かい?だったら先にそう言ってくれ。またなんか怪しい奴がきたのかと思ったよ。ただでさえ最近コギトが出たんじゃないかってざわついてるんだからさ。」
「コギトが?」
「まだそうと決まった訳ではないんだがな、ここ最近いやに死体がでるのさ。こんな山だからな、死体自体はそう珍しくはないんだが、山の獣にしちゃ、随分綺麗に心臓だけえぐられているって話だ。噂じゃコギトに喰われたんじゃないかって言われてるよ。
おかげで山にも入りにくくなってね、冬支度が進まなくて困っているんだ。
頼みの綱は精霊石だからさ、なんとかしてくれると助かるよ」
「なるほど。承知しました、健闘します。」
そうしてまた、胡散臭さの残る笑顔を店主に向けた。
自然豊かな国、ラント王国。この国で精霊はそんなに珍しくはない。
見える人見えない人に分かれてはいるが、その力の片鱗はあちこちで感じることができるし、なによりも精霊が与えてくれる精霊石は、人々の生活を豊かにしてくれた。
どういった現象で精霊石ができるのか、詳しいところはまだ解明されていないが、それぞれの属性の力が封じ込められたその石は、特別な力を必要とせず、人間でも精霊の力を使えるようにした。
火の精霊石を入れたランタンや街頭は、人々の生活に明かりをもたらしてくれたし、水の精霊石はどこでも清潔な水が使えるようになった。豊かな土壌や作物の成長を促してくれる土や木の精霊石、風力発電に欠かせない風の精霊石。
あまり市場には出回っていないが、聖・闇のものもあり、精霊石がもたらしてくれた恩恵は計り知れない。
そうした精霊石の発掘場所を探すのが、リーファ達精霊石調査の人間だ。
時に精霊の領域にも入る彼らは、精霊に対する知識が豊富でなくてはならない。
そして何より、自我を持った精霊、エルゴやコギトに対応できる力を持たなくてはならない。
「コギト、ね。やっぱり噂は本当だったみたい。最も、そんなに信じてもいなかったんだけど。」
与えられた部屋で床に荷物を広げ、整理しながら一人ごちる。
意外にも親切だった店主から、思ったよりも早くチェックインすることができた。
大して期待もしていなかった部屋はきちんと掃除が行き届いており、暖炉で暖められた部屋の温度が心地良い。
窓辺のテーブルには黄色い小さな花が生けられており、厚い雲からさした太陽の光が一筋さしていた。早い時間だからか太陽の位置は低かった。
雪深い道を歩いてきたことは、思った以上に体力を消耗していたらしく
暖かい部屋で一息着くと、急に瞼が落ちてきた。気を抜くと襲い来る睡魔を、かぶりをふって追い払う。
(ここに辿り着くまで、思ったより時間がかかっちゃったな。
噂のコギトを探してもう何件目か。今回のが当たりじゃないとしても、せめてもう少し有益な情報が手に入ればいいんだけど・・・)
荷物整理がひと段落つき、伸びをしながら立ち上がると、着こんでいた外套を脱ぎ、肩を回して凝り固まった体をほぐす。
ふと視界に入ったベッドは柔らかそうで、吸い込まれるように近づいた。
ぼふっと音を立ててベッドに倒れこむと、ふんわりと太陽の匂いがした。
(少しだけ。少しだけ休んだら、山へ向かおう・・・)
もう睡魔に抗う力は残されていなかった。
初投稿です。よろしくお願いします。