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WELCOME TO HELL!  作者: 毛熊
第七章 大陸騒乱編
438/461

迎撃する者、逃走する者

「気付かれたか。ならば遠慮はいらん!雄叫びを上げろ!我々の怒りを見せつけてやれ!」

「「「ガオオオオオオオオオオッ!!!」」」


 既に戦闘形態となっている私達はその存在を誇示するかのように咆哮を上げる。地面が揺れるほどの咆哮と、その中に含まれた怒りを感じ取ったのだろう。天幕の外に出ていた敵……恐らくは聖騎士の顔には明らかな動揺が見て取れ

た。


 仲間達を焚き付けながら、私は複眼で周辺の傀儡兵達の様子をうかがう。私達が襲撃しているというのに反応を全く示していない。動かない理由は不明だが、足止めに誰かを向かわせる必要がない分好都合だ。


 聖騎士も慌てている者が多いようだが、無能ばかりではないらしい。むしろ指揮官は冷静さを保っていたようで、一喝するだけで慌てる聖騎士達は統率を取り戻した。


「霊術、来るぞ!備えておけ!」


 統率を取り戻したことで組織立った防戦が可能となった聖騎士達は列を作っている。精鋭と呼ばれる兵がその状態で何をするのかは知っていた。私は霊力を練り上げ、空に向かって砂の弾丸を無数に放った。


 私に続き、仲間達も霊術を放つ。それに前後して聖騎士達もまた霊術を放った。お互いに霊術士に比べれば威力も技術も劣るが、霊術を使える集団であれば激突前に霊術を撃ち合うのは当然のことだった。


 空を霊術が飛び交い、いくつかは激突して上空で爆ぜて華を咲かせる。そしてすれ違った霊術はお互いの頭上から降り注いだ。


「怯むな!突っ込め!」

「はんっ!あんまり俺等をナメんなよ、ボス!」


 霊術士に比べれば威力に劣るとは言え、お互いに殺意を持って放った霊術だ。直撃すれば魔人であろうと重傷は免れない威力が籠められている。


 しかしながら、この程度で怯むほど仲間達は鈍っていない。それぞれの武器や霊術で迎撃し、軽傷こそ負った者はいるものの、脱落者は出ていなかった。


 むしろ聖騎士達の方が被害は大きいかもしれない。連中もさるもの、自分達の身はキッチリ守っていたようで人的被害は出ていないように見える。ただ、奴等の後ろにある天幕は目も当てられない状態になっていた。


 走りながらということもあり、私達の霊術は聖騎士達に比べて狙いがかなり大雑把になっていた。そのせいで私の放った砂弾やレオの放った炎の槍などが、聖騎士の背後にあるいくつかの天幕へと降り注いだのである。


「……何だ、あいつは?」


 霊術の応酬を続けながら走っていると、炎上した天幕から転がるようにして出て来る者がいた。その人物は着ている服に引火しているようで、全身が火達磨になっている。


 それだけなら私は何も違和感を抱かなかっただろう。戦場で火達磨になる者などありふれているし、対処出来ないという時点で実戦慣れしていない新兵か非戦闘員なのだから。


 だが、その人物が何かを叫んだかと思えば、燃えている天幕の中からゾロゾロと魔人の傀儡兵が現れたではないか。


 ただ、傀儡兵達は整列したまま何もせずに立っているのみだ。そして炎に巻かれたその人物は、そのまま焼死したのか動かなくなった。


「まさか、あれが……!」

「人形師、でしょう、ねっ!うわぁっ!?」


 私の呟きに反応を返したのは案内人だった。仲間達のように降り注ぐ霊術を撃ち落とすことは出来ないのか、彼は姿勢を低くしながら必死に走っている。それで当たっていないのだから、中々の強運の持ち主と言えよう。


 私だけではなく、案内人の目にも火達磨になっていた人物は命令して天幕から魔人を呼び寄せたように見えたらしい。あれが人形師だった可能性は非常に高かった。


「っ!出て来たぞ!」

「魔人!?」


 焼死したのは人形師だった。だが、人形師は一人だけではなかったらしい。私の中では人形師を勝手に一人だと思い込んでいたが、冷静に考えればあれだけの数の傀儡兵をたった一人で動かしていると考える方がおかしい。複数いる方が自然な流れと言えた。


 その人形師に率いられて天幕から現れたのは魔人の傀儡兵であった。その数は数百を超える。私達よりも圧倒的に数が多いではないか。


「ボス!奴等、逃げるぞ!」

「ああ、見えている!」


 ザルドが指摘するように、人形師達は魔人の傀儡兵に何らかの指示を出すと一目散に逃げ出した。どうやら戦闘力が高い訳ではないらしい。敵の戦力が増えないことは確かであった。


 ただ、私達にとって人形師に逃げられることは本来の目的が果たせないことを意味している。今も私達に霊術を放っている聖騎士達などよりも、人形師を討たなければならないのに、だ。


「お任せ、下さい!こちらでは、お役に立てそうもありませんので!」

「……わかった。任せる!」


 人形師達を追うために誰かを行かせる必要がある。誰にするかを私が決める前に立候補したのは案内人であった。


 彼は我々の速度についてこれるようだが、それだけだ。降り注ぐ霊術に対応することは難しいらしい。だが、逆に言えば我々に匹敵する速度で駆けられるのであれば、逃げる人形師達にも追い付けるはず。私は人形師の対処を彼に任せることにした。


 案内人は私に一任されるや否や、我々の集団から離れていく。特別に狙われるかとも思われたが、聖騎士からはよく見えていなかったのか彼の方へ霊術が放たれることはなかった。


「総員、抜剣!迎え撃て!」

「「「「「うおおおおおおおおおっ!!!」」」」」


 霊術の応酬を繰り返しながらもお互いの距離は迫っていく。そろそろか、と私が考えたのとほぼ同時に敵の指揮官が抜剣を命じる。聖騎士達は一斉に長剣を抜き、鬨の声と共にこちらへ突撃してきた。


 先陣を切るのは指揮官らしき男。その聖騎士は真っ直ぐに私を見据えていた。狙いは私であるらしい。良いだろう、相手をしてや……いかん!


「チッ!ザルド!部隊を率いて魔人を迎撃しろ!」

「承知した!行くぞ!」


 激突する直前、私は案内人の行く手を阻むように駆け出す魔人達に気付いた。どうやら逃げ出した人形師が自分達を守るように命じたらしい。


 いくら案内人が素早いとしても、迎撃に向かう魔人を振り切って追いつくのは無理だろう。何と言っても向こうにはティガルがいるのだから。


 ならば魔人達を抑えるために戦力を派遣しなければならない。ザルドの部隊とリナルドの部隊、どちらを送るか。迷う時間すら惜しかった私はザルドへ迎撃を命じた。


「滅びよ、邪悪な魔人!」

「……その言葉、そっくりそのまま返してやろう」


 指揮官が剣を振るいながら私のことを邪悪な魔人と罵った。きっと単なる挑発ではなく、本気でそう思っているのだろう。私はそう確信していた。


 鋭い斬撃を双剣で弾きながら、私は不必要だと言うのに言い返してしまった。自分で思っているよりも聖騎士と教会に対して強い憎悪を抱いているらしい。言い返さずにはいられないほどに。


 ただ、私に一人で挑んで来るだけあって、聖騎士の腕前は中々のモノ。怒りで冷静さを失っていては不覚を取る可能性があった。


 他の聖騎士も手練れ揃いらしく、仲間達と乱戦になっている。どれだけ急いだとしても今すぐに突破するのは難しい。人形師を討てるのかどうかは案内人とザルドの部隊に掛かっている。頼むぞ、ザルド達!

 次回は3月4日に投稿予定です。

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― 新着の感想 ―
やはり人形師は複数人いましたか。 傀儡兵も何人いることやら? 一難去ってまた一難、です。 力を合わせて、頑張るしかない!
人形師、1人だけの特異技能って訳ではなかったかー、厄介な しっかし、死体を動かして兵士代わりに使ってる奴らに邪悪とか言われたくないですね!
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