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【完結】無能恋愛  作者: 夏目くちびる
起の章 【初めまして、女王さま】
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恋愛の9 未来への布石

 × × ×



 まだ日も昇らない冷たい時間。僕は、馬車を運転するアグロさんの隣に座ってイスカを目指していた。馬車のサイズは1トン程。紅茶の箱で、半分程度が埋まっている。

 普通の馬ならば確実に潰れてしまうはずだけれど、これはどうやら強化魔法を使って二頭いる馬のパワーを増強しているらしい。この世界の流通は、こうして行われているようだ。



「……ったく、まさか輸出まで任されるとは思ってもいなかったぞ。トモエ、お前は一体何をしたんだ?」

「恋愛ですよ。その過程に、商売が絡んだだけです」

「呆れた。ママゴト感覚でイスカの市場に殴り込むのは、世界広しと言えどもお前くらいのモンだろうな。……そうだ。これ、食うか?」



 笑いながら言って彼が取り出したのは、包からトマトの湯気を漂わせるホットドッグだった。



「いいんですか?」

「あぁ。家を出る前に、妻にお前の分も作ってもらったんだ。我が家の料理は最高だぞ」

「ありがとうございます!いたただきます!」



 最終調整に時間をかけていたから、僕のお腹はペコペコだった。温かいのは、彼が魔法で温めたからなのだろう。

 しかしなるほど。魔法世界の現地民は、こうやって魔法と付き合っているのか。チーズのとろけ具合を見るに結構な高温を発しているんだろうけれど、変わらない態度を見るに誰でも出来る事なんだろうな。



「めちゃくちゃ美味しいですね!このソーセージは何の肉なんですか?」

「魔物だよ、ブタの魔物だ。この前ちっとばかしボーナスが入ってな、このソーセージはダットロード家のご馳走ってヤツさ」

「……ブタの魔物、ですか?」



 ぬいぐるみになっているくらいだからあまり悪い存在ではないと思っていたが、こんな所で名前を聞く事になるとは思わなかった。

 しかし、どういう訳なのか分からず、意味を考えていたが答えが見つからなかったため、僕は自分が異世界人である事を彼に白状した。驚かれたが、長い時間をかけて自分の生い立ちを説明したことで理解を得ることが出来た。



「……つまりだな、魔菅が太ければ太いほど魔法の才能が高まるってのは、動物にも適応されている訳だ。だから、普通のブタから生まれたとしても、そいつの魔菅が臨界点を越えて太ければ魔物って事になるんだよ」

「じゃあ、人の場合は魔人になるんでしょうか」

「そう言う事だ。人と同様、魔物に進化した動物も知能が高まるみたいでな、餌のより良い部分を選んで食うようになるから、自ずと肉の味も高まっていくんだよ。酪農家の夢は、家畜を全て魔物化する事だって言われてるんだぜ」



 加えて、魔物同士で子を作ったとしても必ず魔物になる訳ではないようだ。だから、家畜に関しては一種のブランドであると考えればいいだろう。



「しっかし、トモエは知れば知るほど面白い奴だな。異世界には運送屋はいるのか?」

「もちろんです。トラックと言う乗り物がありましてね」



 そして、僕は前の世界のトラフィックや流通の仕組みについて説明した。この話が、彼の成功に貢献する事があれば嬉しい限りだ。



 やがて、果てしなく続く海の切れ目の街、エイバーへたどり着くと、既にあるテントとテントの間の出来たスペースの前で馬車は止まった。太陽は、水平線を赤く染めている。



「……よし、これで全部だな」

「ありがとうございました。それでは、一週間後に」

「おう、頑張ってくれ。紅茶、うまかったら会社の連中にもお前の事話しておいてやるぜ」」



 荷物を降ろし終わると、アグロさんは自分の会社へ帰って行った。

 ホットドッグのお返しとして、サンプル用に開けたルーシー・ブレンドを渡しておいたのだ。会社の人と味見をして、一緒に宣伝をして欲しいと頼んでみたのだけれど、また「がめつい」と笑われてしまった。僕って、そんなにがめついかな。



 骨組みを組んで天井を張り、木箱の上にカーテンのような生地の布を敷く。後ろに箱を重ねて、タンクに淹れた試飲用の紅茶を上品なポットに移した。最後に、ルーシーさんが書いてくれた商品紹介のパネルを飾って準備は完了。気が付けばお隣さんも店を開いていて、船の到着と共に一気に人が増えていった。



「いらっしゃいませ!」



 しばらく店頭に立って声を出していたのだけれど、目まぐるしい程のスピードの中ではなかなか足を止める人は現れない。

 ならばと、そろそろ程よく蒸れた頃の、ポットに移した紅茶を紙のカップに淹れて彼らの鼻孔を惹き付ける事とした。因みに、このポットは内部に最適な温度を保存している。カテリーナさんの特製だ。



「……くんくん。もし、主さん。随分と良い香りを漂わせておりんすね」



 店の前で足を止めた、廓詞(くるわことば)を操る彼女は、額を開け長い黒髪を片側に結んで垂らし、大きな猫目に手には煙管(きせる)を持っていた。



「よろしければ、一つどうですか?」



 返事を待たず、僕は紙のカップに淹れたを手渡した。彼女は柔らかく「ありがとう」と言ってから口に含むと、まるでフレーメン反応のように大きな目を見開いて、肩にかけていた黒い花柄の上着を落としてしまった。



「あぁ、汚れてしまいますよ」

「……これは、大変な事でありんすね。一体、どこなたの茶葉でありんすか?」

「クレオですよ。ここから、大陸を北へ行ったところにある小さな国です」

「クレオ?主さん、あんた女なんだぇ?」

「いえ、僕は見た目通り男です。珍しいでしょう?」



 すると、彼女は視線で僕を舐めてから、煙管を木箱の上に置いてすぐに両手でカップを口へ運んだから、僕は上着を彼女の肩へ戻した。



「しかし、13000ゴールド。随分と強気な価格でござんすね」

「そうでしょうか。これまで門外不出だったクレオの紅茶です。むしろ相当にお買い得ですよ」



 言いながら、確かに露天で販売するにはあまりにも高額だと思う。しかし、世の中には「金額を買う」人間がいる事を、僕は経験則で知っているのだ。

 そして、クレオの限定品であり、且つ販売員が男とくればお客さんは必ず何かを疑う。更に、船から降りてくるのはお客さんだけでなく他国の行商人だって多い。そんな特殊な条件下での安売りは、確実に下策中の下策だろう。



「……いいでありんしょう。お一つくんなまし」

「ありがとうございます。誰かへのお土産ですか?」

「そうと言えば、そうでありんすぇ。あぁ、ほんにいい香りで」



 呟いて微笑む、彼女の幸せそうな顔を見ていると、何か一つお節介を焼きたい気持ちに駆られてしまった。



「お客さん、エイバーは初めてですか?」

「えぇ、故郷は遠いところに」

「でしたら、このテント通りを抜けて右へ曲がったところに、素晴らしい味のハーブクッキーを売っている店があります。よろしければ、お茶請けに購入してみては?」

「そこも、主さんの店なんだぇ?」

「いいえ、僕のお店で売っているクッキーを卸してもらっているのです。とても評判がいいんですよ」

「なら、少し覗いてみようかねぇ」



 言うと、彼女は僅かに背の高い履物を鳴らして、街の方へと歩いて行った。「ありがとうございました」と背中に声を掛けると、彼女とのやり取りを見ていたのか、周りのお客さんたちも続々と試飲を求めてきたのだった。

「面白かった!」


「この後どうなるんだ?」


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― 新着の感想 ―
[一言] 最初の一人をつかまえるのが大事。きっかけがあれば、人は集ってくると。 東方からやって来た人、とか… 緑茶はあっても紅茶は初体験だったのかな。
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