家は?
時間が経つにつれて、少しずつ今の状況が整理できていった。
それは数学の授業の最中だった。
突然一人の女子生徒が教室を出ていき、数分後、戻ってきた服装はなぜかところどころ焦げていた。
そして何事もなかったかのように再び授業を受け始めたのである。
それを見て私は察した。
おそらくここは普通ではない学校なのだ。
次問題をしでかしたらどこかの施設に送られる。
そう思って気を付けようと心掛けたが、とっくにもう施設とは言わないまでも、普通ではないところに送り込まれたのである。
頭のおかしな人は桐人くんだけではなかった。
最初の休み時間の段階で転校生というのはどう立ち振る舞うかによってその後の学校生活は大きく左右する。
失敗しないためにも廊下に立たされている間に何度もシミュレーションした。
だが、何事も思った通りに行くはずもなく、何事もなく次の授業が始まってしまった。
私だって、動くつもりだったのだ。
クラスの誰かが席を立ち、会話を始める。
または、先ほどの自己紹介の時の盛り上がりから、誰かが話しかけてくるはず。
そう思っていた。
だが、休み時間、誰一人として席を動こうとはしなかった。
さすがにここで動くのはまずいのかな。
そう思っているうちに最初の休み時間は終わってしまった。
正直びっくりした。
もしかしたらクラスの会話の中になじめないかもしれないのではないかと思っていたが、その会話自体がなかった。
クラスは休み時間だというのに、時間が止まったかのように静かだった。
その日の授業は午前中までだった。
ホームルームが終わり、帰りの礼をして、クラスメイト達は機械的に帰って行った。
もしかしたら、自己紹介をしたときのあの盛り上がりは夢だったんじゃないか。
そう思ってしまうほどにその時以外、クラスメイト達の声は聞こえなかった。
私は教室に一人残り、呆然としていた。
どうやら明日は休校日らしい。
しかし、やることは一向に思いつかなかった。
友達も作れなかったし、急に出発したせいでゲームも持っていないし、こんな田舎にどこか一人で遊べる場所があるとも思えなかった。
そしてここに最大の問題がある。
家がない。
私は駆け出した。全速力で。
今タイムを計れば100m間違いなく自己ベストがでると思う。
そして、たどり着いた職員室の扉の前で息を軽く整えて、扉を勢いよくあけた。
突然の大きな音に先生たちは驚いていたが、関係ない。
私は目当ての担任の先生を発見し、息を荒げながら、早歩きで近寄った。
「先生!!」
「おー、どーした、そんなに慌てて」
「家が!帰る家が、ありません!!」
「ん?名簿だと陽怪霊園の横のコンテナハウスになってたぞ?」
担任の先生は少し不思議そうにそう言った。
「霊園、、、取り憑かれたりしませんよね?」
「まあ、大丈夫だろ」
「えーー」
先生は机に向き直り、机の上をきれいに整理すると、「んじゃ、おつかれさん」と私の肩を叩いてかえって行った。
相変わらず痛い。