出会い
私は今見つめられている。
イケメンに。
担任の先生は何を考えているのだろうか。
こんなイケメンの太ももを服越しではあるが毎日見える席に初日から配置するなんて。
このままの状態で毎日フラストレーションをため続け、体育などの太ももが少しでも露出する状態になれば、吸い付いてしまうに決まってるではないか。
前の学校と同じように。
今は冬だが関係ない。
なぜなら体育の時、男子の大半はショートパンツの上に長ズボンを穿いており、運動して暑くなればそれをを脱いで授業を受け始めるからだ。
太ももに吸い付いてしまうのは性的な欲求ではなく、なにか別の本能的なものだ、抑えられる自信は今の私には皆無だった。
そしてなぜか見つめられている驚きと、彼の顔を見ていて気付かなかった衝撃の事実。
彼は半袖半ズボンだった。
今時小学生でもしないようなその格好を前に、私は自分の目を疑った。
冬に半袖半ズボンの高校生、、、、
おい、と彼は言ったが私はあまりの事実に固まっていた。
おーい、と言って彼にほっぺをぺちぺちとたたかれて我に返ると、思ったよりも近くに彼の顔があった。
「おまえ、何者?」
と、彼は言った。
正直質問の意味が分からなかったが聞かれている以上何か答えないといけないだろう。
「ひねくれ者」
と私は答えた。
どんな回答を期待していたのかわからなかったが、昨日柏木先生に似たようなことを言われたし、きっと間違ってはないはずだ。
「は?何言ってんの?」
彼が少し笑い、私の顔を覗き込む。
その顔もやはりイケメンだった。
気づかないうちに、私の体は前のめりになっていた。
彼の顔に吸い付こうとしていたのだ。
危ないところだった。
せっかく転校して新たな生活をこれから送るのに同じ過ちを繰り返すところだった。
おそらく、次同じようなことをすればどこかの施設にでも飛ばされるに違いない。
ここは何としてでも理性を保たなくてはならない。
ふと彼の服を見ると胸元の名札に女子みたいな丸時で「佐藤桐人」と大きく書いてあった。
「えーっと、佐藤、、くん?」
「桐人でいいよ」
「じゃ、じゃあ、桐人くん」
初対面でいきなり下の名前で呼ぶのは初めて、というか、同級生と話すのが久しぶりでなんだか変な感じがした。
「な、なんでそんなずっと私を見てるのかな?」
「ダメ?」
「ダメじゃないけどさ、もうすぐ授業始まっちゃうよ?」
「で、おまえ何者なの?」
「ごめん、質問の意味が分からなくて、、、」
「いいから、答えて」
「答えろって言われても、、、私普通の人間だよ?」
「嘘だ、においがおかしい」
「え、うそ、臭い、、?」
「ちょっと嗅がせて」
そういって目の前のイケメン、桐人くんのは私の首元をにおい始めた。
わけがわからなかった。
というか、なぜかその場からピクリとも動けなかった。
そして吸い付き始めた。
あ、この人やばい人だ。
他人の太ももに吸い付くという前科がある私が言えた口ではないが、この人は間違いなく危ない人だ。
本来であれば、私が吸い付くはずだったのに。
突然の衝撃だった。
わけのわからないことを思ってしまうくらいには。
「、、、、った!」
首筋にちくりと何かで刺したような痛みがはしった。
すぐに歯で噛まれたのだと分かった。
そして例の桐人くんはそのまま私の首筋を吸っていた。
離れようと試みてみたが、やっぱり体は動かないままだった。
鼻息が首筋にあたるこそばゆい感覚と、ちくりとした痛みが交互に私を襲った。
そしてさっきからゴクリという音が聞こえる。
血を吸われていた。
ああ、私が前の学校で吸い付いてしまった彼はこんな感覚だったのかな。
少し目の前がくらくらしてきたところで、茶髪のがたいのいい男子生徒の「おーい、桐人~。まだ朝だぞ~」という言葉で突然始まった吸血行為は終了した。
朝だからなんなのか、タイミングが合えば何の問題もなかったのか。
私の頭の中はプチパニック状態だった。
そして私の首筋から口を離した彼は、少し満足げに唇をなめていた。
彼の唾液で少し濡れていた私の首筋をポケットのハンカチでぬぐい、私は目の前の問題児に話しかけた。
「ねえ、今のどういうこと?」
「あー、もういいよ。大体分かったから」
「何が?」
彼はめんどくさそうに前を向いた。
いや、返事くらいしろよ。
私の体だけが目当てだったのだ。
なんて最低な男なのだろう。
私のことをすごく見つめるもんだからてっきり私に一目ぼれでもしたんじゃないかと少し期待してしまった。
転校初日に運命の出会いなんてそんな人生は甘くなかった。
それから桐人くんは一切振り返ることはなく後ろから見ていても退屈なんだなとわかる態度で授業を受けていた。
休み時間にトイレで首筋を見てみるとうっすら噛み跡が残っていた。