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生活の終わり

男の子の太ももは少ししょっぱかったです。


と、感じたことをそのままコピー用紙に淡々と書いてやった。


とても真剣に、感情をこめて書いた。

カウンセラーの先生がやれと言うから、おそらく私の中のなにかを解決するヒントがあるのだろう。


「・・・・東島葵(ひがしじまあおい)さん。あなたはカップラーメンにお湯を入れるときちゃんときめられた線まできっちり入れる?」


学校の相談室。

しわのないジャケットとさらさらの髪、清潔感のあるそのカウンセラーの先生は私の書いたコピー用紙を見て、微笑みながらそう言った。

おそらく何を書いたかなんてそこまで重要ではない気がする。


「料理するときは?レシピなんかにあるでしょ。水とか調味料とかの目安の分量」


「・・・そうですね、きめられた量入れます。でないと、おいしくなくなっちゃうような気がして」


「では、お菓子の『開封後はお早めにお召し上がりください』は?」


「お腹すいてなくても食べます。後で湿気ちゃうくらいならその場で全部食べちゃおうって、、、、」


「ふーん、そっか」


カウンセラーの先生は軽くうなずいてパソコンを向き、なにやらカタカタと文字を打ち始めた。

少し身を乗り出して覗いてみたが、何を打っているのかさっぱりわからなかった。


「・・・よし、なんとなく東島さんの性格が分かってきた。あなたは神経質な性格ね」


「先生はなんだか、適当そうな性格ですね」


「ふーん、そうかな?」


「話してみるとなんとなく、、、、」


「あなたは少しめんどくさい系統の顔、してるわね」


高校生に適当と言われたことに少し腹立ったのか、カウンセラーの先生はいままでの表情を少し崩して言った。


「そうですね、、間違ってはないと思います。ただ、人を外見だけで判断してはいけないって、小さいとき父によく言われました」


「そうね、でも、初めて見たときの人の印象っていうのはそう簡単に変わるもんじゃないわよ。あなたも、『この人頭よさそう』とか『優しそう』とか実際どうなのか知らないのに見た目だけで判断したことくらいあるでしょう。そうやって相手のことを見た目で判断して、ある種、警戒するということは自分を守る上で大切なことなのよ。というわけで、ちょっとスカートめくってもらえる?」


マウスをカチカチしながらカウンセラーの先生は当たり前だと言わんばかりに自然にそう言った。


「・・・ん?スカートって私のですか?」


「うん。前からお腹くらいまでめくってみて」


「それ、カウンセリング関係あります?」


「パンツ見せて」


「い、いやです、、、」


「これもあなたの心理状況を理解するうえで大切なことなの」


カウンセラーの先生の顔が真顔になっていた。


今にも声を荒げそうな謎の圧に負けて、しぶしぶスカートをめくる。

スカートをたくし上げると、カウンセラーの先生は目を細め、私のパンツに鋭い視線を送り「合格」と小さくつぶやいた。


カウンセラーの先生は満足したのか立ち上がると、壁に向かいゆっくりと歩き出した。

私はふと、もう一度カウンセラーの先生のパソコンを覗いた。


そこには制服を着た女の子がスカートをたくし上げているイラストが表示されていた。


私のさっきの状態を再現したようなイラストだった。


「学校で誰ともしゃべらないようになってどのくらい経つ?」


「え?あ、、えーっと、、、2か月くらいですかね。」


私がそう答えると、カウンセラーの先生は『そっかー』とつぶやき、壁にもたれかかった。


「本来ならだれかとコミュニケーションをとるべきなんだろうなぁ、せっかく学校に毎日きてるんだし」


「私はみんなとおしゃべりしたいんですけど、誰かに声をかけるとその周りの人から止められるんです。この人はだめだよって」


「あー、話しかけてはいるのね、、まぁ、止められるのは当然か、、、」


「先生、私なにがダメなんでしょうか?」


「東島さん、あなたはダメなんかじゃないわ。ただ、頭のネジが外れてるだけよ」


カウンセラーの先生はまた微笑んでそういった。


「だってそうでしょう?いきなり同級生の男の子の太ももに吸い付くなんてどう考えても異常よ。多感な時期だからで済ませれるレベルの話をはるかに超えてるもの」


「先生、、、これってカウンセリングですよね?さっきから私、ダメージしか受けてないような気がするんですけど、、、」


「ここで私から提案なんだけど、あなた、転校しない?」


「あのー、、」


「うん。いろいろ考えてみたけどそれが最善ね!」


「先生?聞こえてますか?」


「あとはあなたのご両親に説明するとして、それから、えーっと、、、」


「パソコンのイラストとさっきのパンツの事、校長先生に言いますね」


「それはやめて」


カウンセラーの先生は早歩きでこちらに向かってきて私の両肩に手を置き微笑んだ。


怖い。


「だ、大丈夫です。誰にも言いません」


「、、、本当?」


「はい。だから、どうして転校って結論になるのか教えてもらっていいですか?」


「うーん」


「私は今のまま転校するのは嫌です。せっかく会えた人たちとまともにコミュニケーションがとれないまま転校するのは、なんだか悲しいなって。ちょっとだけおかしなことをしてしまったのは反省しますけど、それくらいでもうここでは無理だって諦めるにはまだ早いんだと思うんです!」


カウンセラーの先生は軽くため息をつき、真剣な顔になった。


「あなた、エリア13に1つだけある学校知ってる?」


「エリア13ってあの田舎町ですか?」


「そう。私は以前その学校に勤めていたんだけど、ちょっと変わった学校でね。1日に1回女子は男子の太ももを吸わないといけないって校則が、、、」


「そんなわけないじゃないですか」


「そのせいか、エリア13の男の人たちはみんな太ももを吸われることに抵抗がなくてね、、、」


「先生!」


私は勢いよく立ち上がった。


「なーに?」


「私、転校します!」


こうして私の新たな生活が始まった。













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