第五話「転移魔法陣ってほんっと、金持ちの道楽ですよねぇ……」
ほどなくして私とアズは、シーライト王国の王城にある客室に転移した。
客室の窓からは差し込む日差しはトルマリン王国よりも強い。
その日差しを受けながら転移を終えた私は両手を広げて大きく伸びた。魔力を使う、というのは意外と疲れるものである。
私が今使ったものは『転移魔法陣』と呼ばれるものだ。異なる二か所にそれぞれ対になる魔法陣を設置し使用することで、設置した場所同士で行き来が可能になる、という優れもの。
しかしこういった魔法陣を作るにはかなりお金が掛かる。富豪階級の平民が一年豪華な生活が出来るくらいの値段である。しかもこういた魔法陣は起動時に登録した魔力を持つ者しか起動する事ができないため、実質オンリーワンの代物である。
高いけれど中古では売れない盗まれにくい高級品である。
「転移魔法陣ってほんっと、金持ちの道楽ですよねぇ……」
「まぁねぇ」
そんな話をしながら私たちは客室を出て王城の中を歩いて行く。
他国に来たのにこんなに堂々としていて良いのかと思うかもしれないが、ご安心を。きちんと手続きと費用を支払っているので問題がない。
この手続きを自体は色々と時間が掛かったけどね。
「おや、いらっしゃい。ベリル、アズ」
さて、そうして歩いていると、途中で上品な衣装を身に纏った四十代くらいの男性――――シーライト王国国王のライト陛下と遭遇した。
ライト陛下は片手を挙げてにこにこ笑って声をかけてくれた。相変わらず気さくな方だ。
うちの国の王様もこのくらい気楽なら良いのにな、などと思いながら私とアズは頭を下げ、ライト陛下に挨拶を返す。
「お邪魔しています、陛下。お元気そうで何よりです」
どうやら仕事中のご様子で、ライト陛下の後ろを歩く側近のアラゴナや、側仕え達が大量の書類を抱えているのが見える。
書類の量を見るからに忙しそうだが、ライト陛下は朗らかに話しかけてくれた。
「はーい、君たちもね! 今日も冒険?」
「はい、冒険です。度々申し訳ございません」
「いやいや、こちらとしては部屋代も貰っているし、通行料もばっちりだからヘーキヘーキ。どんどん来ちゃって! それに君たちなら問題起こさなそうだから大歓迎!」
ライト陛下はバチンとウィンクを飛ばして笑った。
つられて笑顔になりながら、トルマリン王国の貴族たちがライト陛下と会ったら間違いなく面食らうだろうな、と思った。
ライト陛下は身分に関係なく他者に対しての距離が近い。多くの種族を受け入れ、賑わうシーライト王国を体現されたような懐の広い方である。
太陽とか光とか、そういう明るい言葉がとても良く似合う方なのだ。
「そう言えば君たち、今、どこを攻略中?」
「グランドメイズですね」
「あー、あれメンドイよね。僕も若い頃に潜ったことがあるんだけど、途中でスライムが合体してさぁ」
ひらひらと右手を振って話すライト陛下の後ろで、陛下の側近のアラゴナが「陛下、お時間が……」と声を掛けた。
とたんにライト陛下は拗ねたように口を尖らせる。
「え~ちょっとくらい良いじゃない? ほらさー僕、仕事いっぱいじゃん? 仕事いっぱいすると疲れるじゃん? 若い子と話すと癒されるのよ?」
「では私が十分に癒されておきますので、陛下はどうぞお仕事に」
「酷くない!? つーかずるくない!?」
「連行しなさい」
「今ちょっと変な言葉混ざってない!? 混ざってない!? あ、おい、ちょっと待っ…………」
じたばたと抵抗するライト陛下をスルーして、陛下の側仕えたちはずりずりと陛下を引き摺って行く。
遠くで「またね!」と叫んでいる陛下に手を振り返していると、アラゴナさんが私たちに向き直りにこりと笑った。
「ベリル様、アズさん、あまりご無理はされませんよう。どうかお気を付けて、シーライト王国の冒険をお楽しみ下さいませ」
「ありがとうございます、アラゴナさんも頑張って下さいね」
アラゴナとそんな会話をしたあと、私達は王城出る。
そして城下町にある『冒険者の酒場』という名前の店へと向かった。