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公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~  作者: 石動なつめ


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エピローグ


 学院を巻き込んだ騒動から一年ほど経った、木々に薄桃色の花が咲く春。

 風に吹かれて青空に舞う花びらを見上げながら、私はトルマリン王国の王都にあるカフェに来ていた。


「あー、こっちにもあの花あるのな」


 屋外の設置されたテーブルの、向いに座ったジャスパーが空を見上げてそう言った。

 服装は以前に四人で一緒に買いに行ったものだ。白いシャツに黒色のベストが良く似合っている。

 冒険者の装いで見慣れているから、やはり新鮮だ。

 そんな事を思いながら同じように空を見上げて、


「そうそう。シーライト王国の方が暖かいから、咲く時期はあっちの方が早いんじゃない?」

「あー、確かに。これさ、両方の国で時間ずらせば、花見が出来る期間増やせそーだよな」


 花見酒、と言うようにジャスパーが手でお酒を飲むジャスチャーをしてみせる。

 なるほど、それは確かに面白いかもしれない。観光系の繋がりも強めれば、お互いの国にとって良い収入源になるんじゃないだろうか。

 そうすればトルマリン王国内を、他の国の人々や、多くの種族が歩く姿を見られるかもしれない。

 想像して少し――いや、かなりワクワクする。


「ニヤニヤして何か良い事でも思いついたのかー?」

「うん、ちょっとね。上手く行けそうだったら教えるよ」

「そいつぁ楽しみだ。……だけど、あんま無理すんなよ? ここしばらく働き通しだったんだろ?」

「まぁね」


 心配そうに言ってくれるジャスパーに頷く。

 ……確かに、一年前の出来事から大分忙しくなったからなぁ。

 あの事件が落ち着いた後、トルマリン王国内では色々な変化があったんだ。


 まずはズルタ陛下だが、あの事件の後で陛下は、今現在受け持っている全ての仕事を片付けてから、サファイア王子に王位を譲ると宣言した。

 ズルタ陛下なりのケジメのつけ方らしい。ラブラさんを含め大勢に引き留められたが、それでも決意は揺るがず、退位した後はサファイア王子の補佐をしていくのだそうだ。ちなみにモルガ王妃は「あら、それならのんびりできますわね」などと、とても好意的に受け止めていた。相変わらずマイペースで動じない方である。


 続いてアルマさんやエピドート教授ら、学院を占拠した元騎士たちについてだが、さすがに無罪放免というわけにはいかなかった。

 ただ行動に至った理由や、占拠した際に誰一人として傷つけなかった事、そして何よりラブラさんやズルタ陛下からの弁護もあって、王立学院の修繕費用を負担することと、数年間監視付でトルマリン王国で働く事を条件に釈放された。

 つまりは再び騎士として働かないかって話だね。

 彼らは最初は困惑していたものの、ラブラさんが「私の作る隊に入ってはくれないだろうか」と頼み込んだのが決め手だったように思う。

 思う所は色々あるだろうけれど最終的に全員が承諾し、この国に新たな騎士隊が生まれる事となったのである。


 ラブラさんについは先に話してしまったけれど、新しく設立された騎士隊の隊長に就任したんだ。

 今後どうするかラブラさんもしばらく悩んでいたが、出来る事ならば彼女の父が守って来た国の役に立ちたいと考えたそうだ。

 話を聞いた茨の君は少し不満そうだったけど、今は「仕方ないわね、あたしが手伝ってあげる!」と、任務に同行している姿を良く見る。

 ちなみに、そんな茨の君だが、たまに私のところにやって来ては「これお土産!」なんて言って各地で買ったらしいお菓子を持ってきて、お茶会をするような関係になっている。これは友達と言って良いのだろうかと、内心ちょっとソワソワしていたりするのだが、なかなか本人に聞く勇気が出てこない。

 今度思い切って聞いてみようかなぁ……。


 そうそう、そんなラブラさんの隊だけど、副隊長には何とダイヤ王子が就任している。

 色々と学びたいという本人の意志と、監視役という仕事も兼ねての事らしいが、まぁそれだけが理由ではないだろう。

 ラブラさんの隊にはアルマさんも入っているからね。ダイヤ王子は今もアルマさんの事を想っているらしいと、アンドラから聞いた。

 アルマさんがダイヤ王子に近づいたのは計画的なものだったとは思うけれど――でも、あれからの二人の様子を見ていて何となくだがアルマさんもダイヤ王子の事を憎からず想っているのではないかな、と思った。

 ダイヤ王子とアルマさんが今後どうなるかは分からないけれど、良い方向に行ってくれると良いなと願っている。


 他に大きな変化と言えば――こっちは国全体になるのだけど。

 あの事件以来、冒険者についての考え方がトルマリン王国内で見直され、サファイア王子の意向もあって、国の補助が入るようになった。

 今後、ゆっくりとではあるが、国内の冒険者の酒場の支部を広げて行く事になるそうだ。

 ただ国が関わって広げて行くにあたって冒険者の“酒場”という名称は如何なものか、という話も出てきて、トルマリン王国内では“冒険者ギルド”という名称への変更が検討されている。

 まぁ、名前が変わっても、その形態や内容は変わらないんだけどね。問題はそれが冒険者たちに受け入れられるかどうか――という事ではあるが、そこはそれほど抵抗感はないのではないかと私は思う。

 他の組合に商業ギルドというものもあるので、名前が統一されて逆に分かりやすくなるのではという話を王都支部のマスターであるラリマーさんから聞いた。

 トルマリン王国の今後数年は、色々な変化に伴って忙しくなるだろう。


 それで、だ。そこで私にも変化があった。

 国と冒険者が今まで以上に協力する体制を取るにあたって、その仲介をする者が必要となったのだ。

 トルマリン王国は貴族が力を持つ国であるため、長い年月で染みついた身分による相手への感情や接し方は、意識していたとしてもそう簡単には変えられない。

 そこでサファイア王子からトルマリン王国内での冒険者と国の仲介役として、私にご指名が入ったという事だ。

 有難いが少々荷が重すぎる――とは思ったのだけど。

 この国で冒険者たちが活躍する姿を見てみたいと思ってしまったので、引き受ける事にしたのだ。


 そうして私は今、トルマリン王国各地を走り回っている。

 トルマリン王国中を移動するため、転移魔法陣では追いつかず、馬車や馬での移動も大分増えた。

 そうして移動するにあたって、さすがに護衛を増やした方が良いのではないかとアズに言われて両親に相談したところ、数日後に何故かアンドラがやって来た。

 どうやら護衛を探していると聞いて立候補してきたらしい。

 ダイヤ王子の護衛は良いのか、この男は――なんて思っていたら、ダイヤ王子の後押しもあったとアンドラは話してくれた。

 話しながら時折アンドラがアズの方を見ている事に気が付いて、ああ、そういう事かと納得する。

 恐らくダイヤ王子は友人の恋路を応援したんだろうな。アズも何だか嬉しそうだし、あちらで問題が無ければ有難いので後でお礼を言っておこう。


 まぁそんな感じで、とにかく毎日が忙しくて、シーライト王国へ遊びに行く暇がない。

 一つ仕事が片付けば、別の仕事が舞い込んできててんやわんやだ。

 正直、これが延々と続けば天寿を全うすることなく召されてしまう気がする。

 ……さすがにそろそろ休暇を取るべきかなぁ。


 なんて思っていた時に、ジャスパーが遊びに来てくれたのである。

 休んで良いのかな、なんて思っていたら兄上と姉上が有無を言わさず「さすがに働き過ぎだから!」と言って、サファイア王子から休暇をもぎ取って来てくれた。アズとアンドラの分もまとめてだ。

 そうして「久しぶりにのんびりしておいで」なんて背中を押されて屋敷を出て――――今に至るのである。

 ちなみにアズとアンドラも一緒に来ているが、少し離れたテーブルで何か楽しそうに話をしているのが見えて微笑ましい。


「あれから一年かぁ。何かあっという間だったよな」

「そうだねぇ。色々忙しくて、シーライト王国へ冒険に行けないのが結構辛い」

「何度か国には来てたじゃん」

「仕事でね。そう言うんじゃなくて、こう……遊びたい」


 私がテーブルに突っ伏すと、ジャスパーは小さく笑う。


「アイドもたまに言ってるぜ。ベリルとアズの仕事が早く落ち着かんかのうって」

「私も早く落ち着かせて一緒に冒険したいなぁ……。そう言えば、アイドは元気?」

「おう、元気も元気。今回も来たがってたんだけど、用事が出来ちまってさ」

「そっか」


 用事があるなら仕方ないけど、私も久しぶりにアイドにも会いたかったな。

 残念に思っていると、ジャスパーが少し真面目な顔になった。


「なぁベリル。前にさ、学院を卒業したらシーライト王国に来たいって言ってたじゃん」

「うん」

「あれ、今はどう?」


 そう聞かれ、私は少し返答に悩む。

 あの頃は「今すぐにでも行きたい」って気持ちだったんだけど、今は任された仕事もあるから、そうも言っていられない。

 いつかは行きたいなとは思うけれど、今はいつになるかは考えられないというのが現状だ。


「しばらくは無理そうだなとは思ってるけど、でも、どうして?」

「んー、実はさ。新しくこの国に出来る冒険者の酒場のマスターをやってくれないかって、打診が来てるんだよ」

「え?」


 驚いて聞き返すと、ジャスパーは指で顔をかき。


「如何せんこっちは人員不足なんだってさ。それでどうせならって、ベリルと交流のある俺やアイドに話が来てる」

「アイドにも? ……知らなかった」

「手紙で書こうとも思ったんだけど、忙しい所で変に悩ませてもなーってさ。その話もしたくて今日は来たんだ」


 ほうほう、なるほど。

 ……でも、そうか。ジャスパーとアイドがトルマリン王国に。

 それ自体は嬉しいけれど、そうなると――今までのようにひょいひょいと一緒に冒険は出来なくなるなぁ。

 来てくれるかもしれないのは嬉しいけれど寂しい、そんな風に私は思う。


「それで受けるか断るかを決める前に、ベリルがどうするのかを改めてちゃんと聞いておきたくてさ」

「どうして私に?」

「ベリルに会えなくなるのが嫌だから」


 ジャスパーが私の目を真っ直ぐに見てそう言った。

 それからややあって。


「…………俺ってチキン」


 なんて、何故か項垂れたジャスパー。

 ジャスパーはチキンじゃなくてダークエルフだと思うんだけど。

 そんな事を思っていると、


「もー! 煮え切らない男ね! さっさと好きだって言っちゃいなさいよ! ベリルみたいなタイプ、言わなきゃ絶対気付かないわよ!」


 なんて頭上から少女の声が降って来た。

 ぎょっとして見上げると、そこには腰に手を当てて空中に仁王立ちした茨の君の姿がある。

 そんな風に立っていたらスカートの中身見えますよ、何て言ったら失礼だろうか。


「げぇ!? 何でいるんだよ!? ってかいつからいたんだよ!?」

「面白そうだからよ! 屋敷を出た時から見ていたのに、あんた全然ダメじゃない! アズたちを見習いなさいよ!」


 そう言って茨の君はアズたちを指差す。

 唐突に話を振られたアズとアンドラは、あたふたとして赤くなっている。

 うん、実に微笑ましいな。


――――ではなくて。

 茨の君が何かこう、とんでもない事を言ったような気がするんだけど。

 えっとジャスパーが……。


「……ジャスパー」

「……ナニカナ」

「えっと、今の茨の君の、ですね」


 何だか急に顔が熱くなってきて、私がしどろもどろにそう言葉にしていると。

 ジャスパーが真っ赤に茹で上がった顔で唸った後、


「俺はベリルの事が好きだから」


 そこで一度言葉を区切り。


「ベリルが選んだ場所で生きたい」


 ジャスパーが言い終えると、大きく風が吹き、たくさんの薄桃色の花びらが空に舞い上がる。

 見守るようにこちらに顔を向けるアズとアンドラ。

 満足げな茨の君。

 そしてジャスパーの視線を受けていると、


「――――ってのをさぁ! もっとスマートに言う予定だったんだよ!」


 と、ジャスパーがテーブルに突っ伏した。

 それから恨めし気に茨の君を見上げ「ちくしょう、覚えてろ!」なんて言っている。

 いつも通りの様子に緊張が緩み、自分の表情が笑顔になるのを感じた。


「ジャスパー」

「ああ?」


 すっかりやさぐれてしまったジャスパー。

 その表情が初めて会った時のものに似ていて、懐かしく感じる。

 あの出会いがあったから、アイドに出会い、冒険者をやって――今の自分がここにいる。

 思い返せば、ここにいる私の始まりはジャスパーだった。


「ならジャスパー、一緒に考えてくれる?」

「え?」

「生きたい場所を選ぶのを」


 先ほど以上に顔が熱くなるのを感じながら、私がそう言うと。

 ジャスパーは目を瞬いた後、満面の笑みを浮かべて頷いてくれた。 


 これにて公爵家の半端者は完結となります。 

 この物語に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました!

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