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第四十六話「外の空気はワインのように美味いなぁ」


 ラブラさんと共にグランドメイズを脱出し、その足で王城に向かう。

 時間は昼を二時間ほど過ぎた頃だろうか。

 グランドメイズに長く潜っていると、外の空気が恋しくなる。

 私たち以上に長い時間そうしていたラブラさんは、よりそう感じるのだろう。両手を上に挙げて大きく伸びると、深く深呼吸をしていた。


「外の空気はワインのように美味いなぁ」


 まったりした笑顔でそんな事を言っているが、例えが微妙に分かり辛い。

 ジャスパーとアイドの酒が飲める組は何となく分かるらしく軽く頷いていた。

 まぁ、そんな感じで私たちは和やかに王城を目指していた。

 時々、冒険者の知り合いが声を掛けてくれたりする。ラブラさんを見て「新しい仲間?」と聞いてくる人もいた。

 ラブラさんは「それも楽しそうだな」などと、満更でもなさそうに笑っている。

 ……そう言えばアンドラも一緒に冒険がしたいって言っていたっけ。

 もしラブラさんにアンドラが一緒のパーティで冒険するとなると、総勢六人の内の四人が前衛職になる。面白そうだが、なかなか攻撃的なパーティになりそうだ。

 そんな事を考えながら歩いていると、アズに声を掛けられた。


「そう言えばお嬢様、ライト陛下にはもうご連絡を?」

「いや、まだなんだ。手紙を送ろうかとも思ったんだけど、私たちの方が先に着きそうでさ」


 私は軽く首を振ってアズに答える。

 最下層を出発する時、一応は手紙を出す事も考えたんだけどね。

 グランドメイズで出した手紙が外に行く場合、ダンジョンネットワークを経由し、配達人の手に渡った上で届くから、少し時間差があるんだ。

 配達人も手紙が排出される場所でずっと待機しているわけではないし。

 なので手紙を出すのは止めて、直接向かう事にしたのである。


「そう言えば、何か手土産を用意してくれば良かったか」


 私たちの話を聞いていたラブラさんが、ふとそんな事を言い出した。

 手土産との言葉に私は首を傾げる。

 ラブラさんの言い方から考えると、手土産を用意する場所はグランドメイズだろう。

 あそこに手土産になりそうなものあったっけ……いや、まぁ、たまにお菓子とか宝箱の中に入っている事があるけども。


「ちなみにどんなものを?」

「スライムの核か、ミノタウロスの角だな!」


 好奇心から聞くと、ラブラさんから大変物騒な答えが返ってきた。

 スライムの核はまだ良い。幸運の象徴だし、レアアイテムで私も好きだ。

 しかしミノタウロスの角とはこれいかに。

 ……いや、うん、確かにミノタウロスの角も、武器に加工できるレアアイテムなんだよ。

 でもこう、手土産っぽい感じじゃないんだよなぁ……。


「ライト陛下は酒の方が喜ぶと思いますがのう」

「あー、酒盛り好きだもんなー、陛下」


 アイドがそっとフォローを入れると、ジャスパーも大きく頷いた。

 ナイスだ二人とも!

 ラブラさんは目を瞬いたあと「なるほど」と言っていた。


 そうして話をしながら歩く事しばし。

 やがて道の向こうにシーライト王国の王城が見えてきた。

 ライト陛下やサファイア王子はいらっしゃるだろうかと考えながら近づいて行くと、門の所にちょうど二人の姿が見えた。側近のアラゴナさん達も一緒だ。

 しかし、どうも様子が変だ。二人の表情には少し緊張の色が混ざっているように見える。


「何かあったのでしょうか?」

「どうだろう。サファイア王子も一緒だからね」


 ライト陛下とアラゴナさんだけならばシーライト王国内での何かだろうが、サファイア王子が一緒にいるとなると違う可能性もある。

 門の所で話をしている様子からすると、聞かれたくない話題ではないと思うのだが、それでもこのまま近づいて良いものだろうか。

 考えあぐねていると、


「なるほど、それで……ん?」


 会話中のライト陛下の目がこちらを向いた。

 ライト陛下は数回目を瞬くと笑顔になって、


「……あ! 皆、おかえりなさーい! やー、待ってたよー! 無事で何より!」


 と、手をぶんぶん振って呼びかけてくれた。

 どうやら近づいても大丈夫そうだ。

 少しホッとしながら歩いて行くと、ライト陛下の隣にいたサファイア王子が大きく目を見開くのが分かった。

 視線の先ににいるのはラブラさんだ。


「ラブラ様……!」


 サファイア王子は感極まったように名を呼ぶと、ラブラさんに駆け寄る。

 これは邪魔してはいけないアレだ。

 そう判断して、私たち四人は左右に割れて道を開けた。


「ああ、本当に……! 本当に、呪いが……!」

「世話を掛けたな、サファイア」

「いいえ、いいえ! ご無事で何よりです!」


 ラブラさんの言葉に、サファイア王子は大きく首を振った。

 普段の落ち着いた様子とは違い、王子は頬をやや紅潮させ、熱のある目でラブラさんを見つめている。その目が僅かに潤んでいるように見えた。

 ……本当に、ずっと助けたかったのだろうな。

 二人を見ながら何とかなって良かったと思っていると、不意にサファイア王子が勢いよくこちらを見た。


「ベリル、アズ、アイド、ジャスパー! 本当にありがとう!」


 そして見たことが無いような笑顔を浮かべ、そう仰った。

 おお、こういう風に感謝されるのは――嬉しいな。

 私は「いえいえ」と答えると、アズたちの顔を見る。三人も少し照れくさそうに笑っていた。

 

 ああ、これで本当にひと段落したんだ。

 そう思って肩の力が抜けかけた時。


「陛下、そろそろ」


 と、ライト陛下の側近であるアラゴナさんが、会話が途切れるタイミングを見計らって声を掛けた。

 ライト陛下は「そうだね」と頷く。

 ……そう言えば、陛下たちは何か話をしている最中だったのでは。

 あの時の表情からすると、あまり良い内容ではなさそうだが。


「陛下、お話し中にお邪魔して申し訳ありません」

「ああ、いや。全然邪魔じゃないよ、そこはヘーキ! むしろバッチコイって感じ!」


 ライト陛下はニッと白い歯を見せ笑うと、サムズアップした。

 それからその手を首にあて「ただ、ちょっとねぇ」と困ったように呟く。


「何かあったのですか?」

「うん。――サファイア君」


 私が聞くと、ライト陛下はサファイア王子の方を見る。

 話を振られたサファイア王子は少し落ち着いたようで、表情を引き締めて頷いた。


「実は、トルマリン王国の王立学院が占拠されてね」

「…………はい?」


 思わず聞き返した私は、自分でも自覚するくらい間抜けな声を出していた。


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