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公爵家の半端者~悪役令嬢なんてやるよりも、隣国で冒険する方がいい~  作者: 石動なつめ


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第四十五話「半神って寝込むの?」


 グランドメイズ地下、ラブラさんの部屋。

 先ほどまで綺麗に整えられていたその部屋は、今はごっちゃりと物が散乱している。

 まぁその犯人は私たちなのだが。


「おーい、この辺りで良いかー?」

「んー、もうちょっとじゃありません?」


 お互いに声を掛けあいながら、天井を見上げつつ、私たちは部屋の中にあるテーブルやソファを端にどかし、そこへ本棚を移動させて足場を組んでいた。

 その理由は、天井にある花の形をした結晶を壊すためだ。

 ラブラさんをこの部屋に閉じ込めるための呪いは、あの結晶を壊せば解除されるらしい。

 だがしかし、如何せん位置が高くて届かない。なので部屋にあるもので足場を組んで近づこうとしているわけである。

 部屋に配置された調度品の数々はどれも質の良いものばかりで、足場として使うのは少し気が引けるが、


「頼んだのは私だ、気にしないでくれ。壊れたらまた直すさ」


 と、部屋の主であるラブラさんが言ってくれた。

 また(、、)と言っている辺り、ラブラさんにも覚えがあるようだ。

 まぁそういうわけで今は調度品を移動させる作業をしている最中だ。

 結晶を壊すのは私でないと出来ないらしいが、こういう作業は五人全員で行うので進みが早い。

 結晶の位置を確認しながら足場を組む事、しばらく。

 本を抜いた本棚を三架。上へ、上へと重ねて乗せたばかりはグラグラとしたが、ジャスパーが土の精霊に頼んで固定してくれている。

 本人は「魔法なんてこれくらいしかできねーけど」とは言っていたけど十分便利だと思う。

 

 さて、そうして足場は組み上がったわけだが。

 この部屋、意外と天井が高いんだよね。本棚を三架重ねて、剣か何かを伸ばせばようやく結晶に届くという感じである。

 今はラブラさんが部屋として使っているけれど、元々はどういう場所だったのだろうか。

 気になってのでラブラさんに聞いたところ、何とここは『茨の君』が暇つぶしに使っていた研究室だったそうだ。そこをリフォームして現在の形となったらしい。

 茨の君、つまり半神(デミゴッド)となったドライアード。

 ……半神(デミゴッド)も暇つぶしの研究とかするんだなぁと思っていたら、


「あの天井に投影された空も茨の君の力作さ」


 なんて事も教えてくれた。

 茨の君が実在しているだろうというのはジャスパーの話からは知っていたけれど、実際にラブラさんが会っていたと聞くとやはり驚きがある。しかも話し相手だったらしい。


「ジャスパーが魔力を感じないと言っていましたけれど、茨の君は今はいないんですか?」

「ああ、たまに召喚魔法で呼ばれる事があってな。ついこの間、呼ばれて行ったよ」


 という事だ。

 召喚魔法かぁ……。

 神は無理だが、半神(デミゴッド)ならば手順を踏めば召喚は可能らしいと本に書いてあった。

 まぁ半神(デミゴッド)を召喚するのだから、相当の魔力と触媒が必要になるとは思うけどね。

 正直、半神(デミゴッド)には会った事がないので、不在なのが少しだけ残念に思った。


「つーか、ラブラさん、いなくなって大丈夫なの? 茨の君が戻ってきていなかったら寝込むぜ、たぶん」

半神(デミゴッド)って寝込むの?」

「不貞腐れてだけどな」


 ああ、精神的な方か……。

 曰く、茨の君は引きこもりで寂しがり屋という話だから、帰って来た時に誰もいなかったら、ショックが大きいだろう。


「一応、手紙は残しておくし、事が終われば一度は戻ってくる予定だから大丈夫だろう。たぶん」


 たぶんをつけると不安感が増すのは何故なのか。

 聊か心配ではあるが、こればかりは想像しても仕方がない。 

 茨の君には申し訳ないけれど、今はとにかくラブラさんを開放するために結界を壊す事にしよう。


「それでは壊してきますけれど、あれは普通に剣で殴ってしまっても問題は?」

「大丈夫だ。ああ、だが……」


 ラブラさんはそこまで言って、壁の方を見た。

 その視線の先にあるのは青透明の魔法の剣『星の魚』だ。

 ラブラさんはその剣の所まで歩くと、それを手に取った。


「あれは限定的ではあるが強い呪いだ。壊そうとすれば剣が駄目になるかもしれない。念のためこれを使ってくれ、普通の剣よりは耐久力がある」


 そう言いながら戻って来たラブラさんから『星の魚』を差し出された。

 近くでみるとより綺麗な剣である。

 だけど魔法の剣と呼ばれるほどのものだ。本来の持ち主以外が手に取って大丈夫なのか、そもそも使えるのか心配になった。


「お借りしても大丈夫なんですか?」

「ああ、この剣に関してはな。軽く魔力を込めれば切れ味が上がるから、やってみると良い」

「分かりました」


 頷いて両手で『星の魚』を受け取る。

 その剣は見た目よりもずっと軽くて、不思議と温もりを感じられた。

 ……これが勇者の剣か。

 何とも言えない感動がじわりと湧きあがってくる。

 覗き込むジャスパーやアズも少しワクワクした表情だった。

 二人以上に興味深そうに『星の魚』を見つめているのはアイドだ。ドワーフは鍛冶屋を営む者が多く、伝説と称される武器の多くは彼らが打ったものだ。アイドは鍛冶屋ではないが、やはりこういったものには興味があるのだろう。小さく「ううむ、良いのう……」なんて呟いている。


「興味があるなら、後で見ても構わんよ」

「何!? 本当か!?」

「ああ」


 それを見ていたラブラさんが小さく笑いながらそう言うと、アイドは目を輝かせ「ありがたい!」と喜んでいた。

 アイドのテンションが上がるのは珍しいなぁ。何だか良いものを見た気がする。


「それじゃ、行きますね」

「お嬢様、お気を付けて!」

「はーい!」


 アズの声援を受けながら、私は積み重ねた本棚を上り始めた。

 本を取り除いて開いた棚に足を乗せ、一段一段上がって行く。

 棚の板が壊れるかな――と少し心配だったが、頑丈に作られているらしくびくともしない。

 

 そうして積み重ねた三架分を上りきると、天井に投影されていた空を、頭が超えた。

 こうして逆の位置から見ると湖か、泉のようだ。

 ……空は海を映す鏡だと聞いた事があるけれど、なるほどなぁ。


 そんな事を考えながら、私は下を見て――思わず「おお」と声が出た。

 意外と、高い。下から見た時に予想したよりずっと、自分がいる位置が高いように感じられたからだ。

 ジャスパーが魔法で足場を固定してくれなかったら、これはかなり怖かったと思う。

 改めてジャスパーに感謝しながら、私は結晶を見上げた。


 淡い黄色の花の形をした結晶の中には、相変わらず雷のようなものがバチバチと迸っている。

 これがラブラさんを阻んだあの雷の柵の元だろう。

 私は『星の魚』の柄を握り直すと、目測で距離を測る。

 ……うん、届きそうだ。

 剣の長さと私の手の長さを合わせれば届くだろう。


 私は「よし」と軽く頷くと、ラブラさんが教えてくれたように『星の魚』に軽く魔力を込める。

 すると青透明だった剣の色が、すう、と薄くなっていった。

 どうやら込めた魔力の量で変化するらしく、今は水色くらいになっている。もっと魔力を込めたら、もしかしたら透明な剣になるのかもしれない。

 それはそれで見てみたいな――とは思うものの、それは後だ。

 とにかく今は結晶を破壊することが最優先である。私は剣を構え、結晶に狙いを定めると、一気に振り上げかける。


 その途端。

 結晶の光が強くなり、ラブラさんを阻んだあの(、、)雷を私に目がけて放って来た。

 自らに危害を加えようとしたものを阻もうとしたのだろう。


「お嬢様!」


 下からアズたちの焦ったような声が聞こえる。

 当たる、と私は思わず目を強く瞑った。


 ――――だが。


 幾ら待っても痛みはない。

 恐る恐る目を開けば、雷自体はバチバチと激しく迸っていた。

 だがそれに触れても何の痛みも感じない。まるで体をすり抜けているかのようだ。


 ……なるほど。

 トルマリン王国の貴族でなければ、というのはこういう事か。

 恐らくトルマリン王国の貴族以外ならば雷に打たれ、近づけないのだろう。

 術者がそう定義したとラブラさんは言っていたが、まぁ、隣国のこんなダンジョンの底に来ないと思ったんだろうなぁ……。


「大丈夫!」


 私はアズたちに向かってそう言うと『星の魚』を再度構え直す。

 痛くないなら何も問題はない。

 バチバチと放たれる雷の中で、私は『星の魚』を振り上げ。

 ガラスが割れる大きな音を響かせながら、その結晶はあっさりと砕け落ちた。

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