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第四十三話「あー、耳に出るんすよねぇ」


 ラブラさんに案内されて入った扉の先は、やや広めの部屋になっていた。

 真ん中の私室を中心として、その周りにキッチン、浴室、寝室の小部屋がそれぞれ、ぐるりと円を描いて配置されている感じ。

 壁の材質はグランドメイズのそれだが、壁紙が綺麗に張られており、床はふかふか柔らかな絨毯が敷かれている。

 本棚や食器棚、綺麗な花が活けられた花瓶等々、調度品もちゃんと並べられていた。

 地下であるため窓はないが、天井には空を投影した魔法道具が仕掛けられており――一瞬ここがグランドメイズの中である事を忘れそうになる。空の上の方には太陽のような照明器具まで設置されていた。

 四人揃って「おー」と口を開いて――特に天井を――見ていると、ラブラさんがティーポットを手にこちらを振り向いた。


「ああ、こうしてサファイアたち以外を迎え入れるのは久しぶりだ。ああ、紅茶で良いかな?」

「あ、はい」

「心得た。ああ、その辺りに適当に座って待っていてくれ」


 ラブラさんが指差した先には座り心地の良さそうなベージュ色のソファが。

 私たちはそろそろと近づくと、並んで腰を下ろした。

 ふわりと沈む感覚が気持ち良い。

 まさかダンジョンの中で、こんなゆったりと出来るとは。

 ソファの座り心地に感動していると、


「マジでいたよ、すげぇ」

「しかも割と生活水準が高いのう」


 なんて、うちにの男衆が言い出した。

 周りをきょりきょろ見回して「すげぇ」だの「なるほど」など呟いている。

 するとアズが小さく息を吐いて、


「あまりジロジロ見たら失礼ですわよ? アイドさんまで……」

「うむ、すまんすまん。ついの……おや? あれは……」


 顎を撫でて笑っていたアイドが、ふと、壁のある一点に目を止めた。

 目を見開き凝視するアイドが珍しくて、何があったのかとそちらを見てみる。

 そこには一本の剣があった。

 星の模様が描かれた鞘と、剣身が水のように澄んだ青透明の剣。

 どんな素材を使えば、どんな腕ならばここまで美しい剣が出来るのか――思わず目を惹かれた。


「――――『星の魚』」


 それを見て、アイドは呆然としたようにぽつりと呟いた。


「アイド?」

「『星の魚』じゃ、あの剣は。ドワーフの名工が打ったとされる魔法の剣……あれが、何故ここに……」

「美しい剣だろう?」


 その時、トレイにティーカップを乗せてラブラさんが戻って来た。

 湯気の立つティーカップを私たちの前にそれぞれ置いて、ラブラさんは剣を見上げる。

 その目は懐かしむように細められていた。


「昔はあれを手に、あちこちを色々走り回ったものだ。これでも冒険者だったのだよ」


 ラブラさんはそう言うと、私たちの向かい側のソファに腰を下ろした。

 改めて見ると本当に綺麗な人だなぁ。

 サラサラした金髪に夕焼け色の瞳。美人という言葉が相応しい顔立ちと――尖った耳。


「これが気になるか?」


 じっと見ていたせいか、ラブラさんはほっそりとした長い指で耳を指差した。


「あっすみません。失礼な真似を」

「いやいや、構わないよ。私には半分だがエルフの血が入っていてね」


 ラブラさんはそう笑って話してくれた。

 そうか、ラブラさんはハーフエルフだったのか。

 長い耳を見た時にもしかしたらと思ったが、どうやらそうだったらしい。


「あー、なるほどー。耳に出るんすよねぇ」

「そうそう。耳になぁ」


 しみじみと言うジャスパーに、ラブラさんが大きく頷いている。

 どうやらエルフの血が混ざると耳が長くなるらしい。

 ほうほう、そうなのか、初めて知った。

 私が「なるほど」と呟いていると、アズとアイドも「ほうほう」と頷いているのが見えた。


 ……っと、いつまでもぼうっとしているわけにはいかないな。

 サファイア王子から頼まれたものがある。

 紅茶を一口頂くと、私は鞄の中から一通の封筒を取り出し、ラブラさんに差し出す。


「ラブラさん、こちらがサファイア王子から預かったものです」

「ああ、聞いているよ。ありがとう」


 ラブラさんはにこりと笑うと封筒を受け取ってくれた。

 よし、これで本当の意味でミッションコンプリートである。

 何とかやり遂げられたなぁ……なんてホッとしている目の前で、ラブラさんは封筒を開けて中の手紙を読み始めた。

 その間、私たちは紅茶を飲みながら、お互いに「終わったねー」というような安堵の笑顔を浮かべあう。


 それからしばらくして。


「……サファイアも諦めが悪い。引きこもり続けようと思ったが、そうもいかんか」


 とラブラさんの苦笑染みた声が聞こえた。

 どうやら手紙を読み終わったらしく、ラブラさんは顔を上げて私たちの方を向く。

 ……そう言えばラブラさんと王子ってどういう関係なんだろう?

 気になったので、やや悩んだがラブラさんに聞いてみる事にした。


「ラブラさんはサファイア王子とはどういう……?」

「友人だ。――ここにあるものはサファイアや、ライト陛下が運んでくれてね」


 そう言いながらラブラさんは両手を軽く開いて部屋の調度品を指した。

 なるほど、どうりで花まであるわけだ。

 ……ん? あれ? 運んだとなると、もしかして二人はここに良く来ているのか?

 そうなると自分で来れば良いのだから、別に私に手紙を託す必要なんてなかったのではないだろうか。

 私が怪訝そうな顔になっていると、ラブラさんは少し真面目な顔になる。


「ベリル、頼みがある」

「何ですか?」

「私をここから出してもらいたい」


 ラブラさんの言ったここから出して――という言葉の意味が直ぐに理解出来ず、私は目を瞬く。

 もしかして、ラブラさんは望んでここに住んでいるのではなく、出ることが出来ない?

 私は思わずアズやジャスパー、アイドの方を見る。

 三人も同じように思ったらしく、ぎょっとした顔をしていた。


「サファイア王子やライト陛下が来ているのに出られないって事は、何か事情が……?」

「ああ、あれが見えるか?」


 頷くと、ラブラさんは天井を指差した。

 魔法道具によって投影された空、その青色を越えた先。

 先ほどまで太陽だと思っていたものをラブラさんは指している。

 それは淡い黄色の花の形をした結晶だった。

 目を凝らせば、結晶の中には雷のようなものがバチバチと迸っている。

 

「何か、あれも魔法みたいだな」


 ジャスパーの言葉にラブラさんは「ああ」と頷いた。


「あれは呪いでね。あのせいで、ここから出られないんだ。もし一歩でも外に出ようとすれば……」


 徐にラブラさんは立ち上がると、先ほど私たちが入って来た方向へ歩く。

 そして手前で立ち止まると、外に向かって手を伸ばした。

 その途端。


 ――――天井の結晶が強い光を放ち、扉の開いた空間に眩い雷の柵が現れた。


 雷はラブラさんの手を弾き、押し返す。

 ラブラさんは指先をさすりながら、唖然とする私たちの方へ振り返り、


「これこの通り、雷の柵に阻まれる」


 と肩をすくめてみせた。


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