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第四十一話「ダンジョンと言うか何かを祀る神殿のようですわね」


 シーライト王国に到着すると、そこには何故かライト陛下と側近のアラゴナさんが待っていた。 

 どうやら事前にサファイア王子が連絡をして下さっていたようだ。

 無事で良かったと微笑んで下さる陛下とアラゴナさんの言葉が嬉しかった。


 もう少しお話をしていたかったが、陛下もお忙しい中で時間を割いて下さっているはずだ。

 なので早々に私たちはグランドメイズへ向かう事となった。

 ちなみにサファイア王子は帰りの事もあるので、私たちが戻るまでは二国を行き来して仕事をするそうだ。

 ……働き過ぎではないだろうか、なんて少し心配になる。

 第一王子のサファイア王子は第一位の王位継承候補者なのだが、やはりそうなるとお忙しいんだなぁ。


 そんなサファイア王子にもお礼を言いつつ、私たちは早速グランドメイズへ向かった。

 ちなみに王子から届けて欲しいと頼まれたものは、こちらもまた手紙だった。

 ダンジョンネットワークには頼れない重要な手紙――との事だが、そう言われると預かった私としてはとても緊張する。

 失くさないように鞄にしっかりとしまうと、私たちは記憶陣からグランドメイズの内部へと飛んだ。


 キラキラとした光の粒子に包まれて到着した先は、私たちが四人で攻略した二十二層の入り口ではなく精霊の安息所だった。

 ここは先日の一件でアンドラたちと一緒に助けを待っていた場所だ。

 ここに記憶陣を敷いて戻ったために、記憶した場所が上書きになってしまったのである。

 ちなみに救助された後で聞いたら、私たちがいたのは二十七層だったらしい。

 グランドメイズは全で三十層のダンジョンなので、かなり下層に飛ばされてしまっていたようだ。

 生きていて良かったなぁと思う反面、ちと残念だなという気持ちもある。


 ……五層分、損したなぁ。


 せっかく四人で攻略していた最中だったのに、何だか勿体ない事をした気分にもなる。

 グランドメイズは日々の積み重ねで攻略するタイプのダンジョンだ。

 一日で攻略完了――という事ならもう少し感じ方も違っただろうが、やはり二十二層までかかった日数分思い入れも深い。

 まぁ事故でグランドメイズに飛ばされた結果、良い事もあったのだけどね。


「さぁて、それじゃーサクサクっと行きますか!」

「サクサク進めるような場所じゃありませんわよ、ジャスパーさん」

「そうじゃぞ。まったくお前は長生きエルフのくせに、こういう部分では浅慮じゃのう」 

「こっちに来てから揃って酷くない!?」


 呆れ顔の二人の言葉にジャスパーが口を尖らせる。

 どこかイキイキとしている様にも見えた。

 アズはともかくとして、やはり貴族の屋敷で過ごすのは二人ともそれなりに窮屈だったのかな、などと思いつつ。

 会話がひと段落したので、私たちはジャスパーを先頭に私とアズ、そして後方にアイドという隊列でグランドメイズを進み始めた。 


 相変わらずグランドメイズは薄暗い。

 ここが上層であればもう少し明るいのだが、さすが全三十層のダンジョンだ。下へ、下へと進むにつれて暗さが増してくる。

 不思議なのは幾ら薄暗くなっても決して真っ暗にはならない事である。

 これはダンジョンネットワークのおかげで、不純物と共に吐き出される微量の魔力が、僅かではあるが辺りを照らしているのだそうだ。

 この僅かな明るさでも道は見えるので進めない事はないのだが、明るい方が罠の察知やモンスターとの戦闘がやりやすい。

 隠密(ステルス)が必要な状況を覗いて、基本的には明るい状態で進む事が冒険者の間では推奨されていた。


 歩き出して直ぐに、先頭を歩くジャスパーが腰のベルトに引っ掛けたカンテラを手に取り火を点けた。

 すると辺りがふわっと明るくなり、良く見えるようになる。

 事故でグランドメイズに飛ばされた時は必死で、辺りを良く見る余裕はなかったのだが――こうして落ち着いて眺めると、なかなか綺麗なものだった。 

 グランドメイズの壁の材質は上層・中層と同じだが、あちこちで浮き彫り(レリーフ)が施されている。

 花や木々、人や鳥、モンスター、それに植物を纏う女神。彫られたレリーフはどれも美しく、神秘的だ。

 

「ダンジョンと言うか何かを祀る神殿のようですわね」


 アズがそう感想を述べる。

 そう、ちょうどそんな感じだ。

 するとアイドが「ふむ」とレリーフを見上げ、


「もしかしたら本当に神殿であったのかもしれんのう。よほど大事なものを守るために、このグランドメイズが出来たのかもしれん」


 と言った。

 なるほど、確かに逆に考えればその説もありかもしれないね。

 人の手が入って生まれたダンジョンというのは、何かしらの意味を持って生まれている。

 今でこそ中級くらいの冒険者パーティの力試しの場として使われているけれど、昔はもっと違う意味合いがあったのかもしれないね。

 そんな事を考えていたら、ジャスパーが妙に真面目な顔で、


「……まさかベリルの文通相手じゃねーよな?」

「さすがにそれはないんじゃないかなぁ……」


 まぁグランドメイズの最下層に住んでいるのだから、可能性としてはなくはないけれど。

 そうなるとラブラさんは何歳なのかという話になる。

 エルフ族ならば平均的な寿命は四~五百歳前後らしいから、グランドメイズの誕生から今まで生きていたとすればギリギリか、すでに超えている。

 だが手紙に綴られた文字の力強さを見る限り、ラブラさんが弱っているという様子は感じられなかった。

 実際に見た事はないから確かな事は言えないけれど。


「まぁ会いに行ってみれば分かるじゃろうて。そもそも辿り着かん事には始まらんよ」

「そうですわね。……あ! 今日もお弁当を作ってきたんですよ、お嬢様! 精霊の安息所に着いたら皆で食べましょう!」

「やった、嬉しい! ありがとうアズ!」


 小さくガッツポーズをすると、アズが「お嬢様に褒められた!」と喜んでくれた。

 アズのお弁当と聞いてジャスパーとアイドもソワソワした様子になる。

 ラブラさんと初めて会うのも楽しみだけど、もう一つ楽しみが出来て気持ちが明るくなる。

 ついでに心なしか速足になりながら、私たちはグランドメイズを進んで行った。

 

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