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第三十七話「お嬢様は本当にライト陛下贔屓ですよね」


 屋敷の客間。

 柔らかな日差しが差し込む中、私はサファイア王子と向かい合って座っていた。 

 私の隣にはジャスパーとアイドが座り、後ろにはアズが控えてくれている。

 私もアズたちもサファイア王子の突然の来訪に驚いたが、どうやらちょうど時間が出来たようで、ジャスパーとアイドがシーライト王国へ戻る日時について相談に来て下さったのだそうだ。

 色んな意味でナイスタイミングだった。

 サファイア王子ならばシーライト王国へよく足を運んでいるらしいし、ライト陛下とも親しげだった。

 学院はすでに卒業されてらっしゃるので、アルマさんとの交流も――たぶん――ないだろう。

 王族である事だけが心配だが、それでもライト陛下が信頼してらっしゃるならば、きっと大丈夫だ。

 アズに言えば「お嬢様は本当にライト陛下贔屓ですね」と言われそうだが。

 そんな事情から私がサファイア王子にアルマさんの事と、グラススパイダーの件、そして「あくまで仮定ですが」と前置きしてエピドート教授の事を相談してみる事にした。

 サファイア王子は顎に手をあてて小さく頷くと、


「――――なるほど。それは気になるね。確かにアルマの留学の手続きを行ったのはエピドート教授だ」

「やっぱり……」


 やはり留学の手続きを担当したのはエピドート教授だったようだ。

 ……個人的には、あまり当たって欲しくない予想ではあったけれど。


「グラススパイダーの件も、もう少し詳しく冒険者の酒場で聞いてみよう。アイド、申し訳ないが後で付き合って貰えるかい?」

「それは構いませんが……サファイア殿下が行くんですかの?」

「うん」


 サファイア王子は躊躇いなく頷いた。

 そう言えばシーライト王国でも良くグランドメイズに潜っているって言っていたっけ。冒険者の酒場とも何か繋がりがあるのかもしれない。

――なんて考えていたら、サファイア王子がこちらを見た。

 少し楽しそうな様子の王子に私は首を傾げる。


「何でしょう?」

「いや、その相談を私にするなんて思い切りが良いと思って」

「あ、それ俺も思った。ちょうど良いとも思ったけど」

「ジャスパーさん、殿下相手ですよ!」

「いや何かグランドメイズで一緒だったし、今さら取り繕ってもさぁ」

「このエルフ……!」


 アズが半眼になってジャスパーを睨む。

 サファイア王子は笑って「今さらだからね」と頷いた。

 何となくだが、気安いジャスパーの態度に嬉しそうにしている気もする。

 ……懐が広い方だなぁ。

 そう思ったら、ふっとライト陛下の顔が浮かんできた。


「……いえ、ほら。サファイア殿下はシーライト王国で冒険してるって仰ったじゃないですか」

「言ったね」

「冒険者に悪い人はほとんどいませんから」


 全員が良い人とは言わないし、そもそも良い人だって何かしらの悪い面はある。

 けれど私がシーライト王国で出会ったジャスパーやアイドを始めとした冒険者は、皆気の良い人ばかりだった。

 あそこで受け入れられているならば、少なくともサファイア王子は悪い人ではない。

 それに……。


「あとライト陛下とも親しそうでしたからね!」

「お嬢様は本当にライト陛下贔屓ですよね」


 自信満々にそう言うと、アズが想像通りの感想をくれた。

 ジャスパーとアイドが噴き出して、サファイア王子までくすくすと笑っている。


「そうか。……ありがとう」


 サファイア王子からはなぜかお礼を言われた。

 良く分からないが、まぁ喜ばれたのなら良いや。

 それから王子は落ち着くためにか紅茶を一口飲んだ。

 あ、そうだ。そう言えばせっかくアズが淹れてくれたのに冷めてしまう。

 そう思って私も一口飲んだ。

 その後で、サファイア王子は少し真面目な顔で私を見る。


「ベリル。君には一度、ちゃんと謝っておかねばならないと思っていたんだ。父と母と……ダイヤがすまなかったね」


 そしてサファイア王子は頭を下げた。

 王子に頭を下げられるなんて経験はまるでないので正直焦った。

 ど、どうすれば良いんだろうか、この状況!

 オロオロとうろたえる私が助けを求めるようにアズやジャスパー、アイドを見ると、三人とも「とりあえず何か言え!」と目で訴えて来る。


「いえ、あの、サファイア殿下が謝罪されることは何も」

「いや家族のしでかした事だ。特に両親の件は本当に……昔から馬鹿――いやおかしなところはあったが、あのようなおかし――馬鹿な真似をするとは思わなかった。本当にあの二人は……!」


 サファイア王子の口調がだんだんと荒くなってくる。

 穏やかな笑顔もほの暗いものを纏うようになり、目も据わってきて――怖い。

 空気まで冷えて来た気がする。

 今度は別の理由でアズたちを見ると、三人から「とりあえず何か言え!」と目で訴えられた。

 何を言えば良いと!


「い、いや、まぁ……意外な交友関係も出来ましたし、ええ、あの、はい……ところでサファイア殿下、お茶のお代わり如何ですか」

「ん? ああ、すまない、頂くよ」


 困って紅茶に話題を逸らしたら、サファイア王子の様子が元に戻った。

 よ、良かった……。

 強そうなモンスターと対峙した時並みに緊張したよ……。

 しかしサファイア王子のあの様子……ズルタ陛下たちとあまり上手くいっていないのだろうか。

 他人の家族事情に首を突っ込むような真似はできないけれども。


「ああ、そうだ。申し訳ないと言っておいて、更に申し訳ないのだがね」

「何でしょう?」

「君に依頼したい事があるんだ。グランドメイズの最下層にいるある人へ届け物を頼みたい」


 サファイア王子は懐から封筒を一通取り出すと、テーブルの上に置いた。

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