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第三十四話「声を揃えて同意する事なくない?」


 三日月に照らされ影を長く伸ばしながら、私とジャスパー、アイドにアズの四人は城下町の路地裏を歩いていた。

 四人とも頭からすっぽりとローブを被り、顔が見えない格好だ。

 何故こんな格好でこんな場所を歩いているかと言うと――冒険者の酒場を訪れるためである。

 あの後、四人でも色々と話をしたんだけど、やはり月の涙とグラススパイダーの件がどうにも気になって。

 月の涙についてはエピドート教授に話を聞くか何かしないとどうにもならないので、先にグラススパイダーの事を調べようって話になったんだ。


 トルマリン王国にも冒険者の酒場は存在する。冒険者の酒場同士は独自の繋がりを持っていて、国が違っても連携を取っているのである。

 ただシーライト王国とは違って国からのバックアップがないので、存在はするけれど規模は小さい。

 その理由は二つある。

一つ目はズルタ陛下があまり冒険者というものを好まないからだ。

 理由は不明だが、ズルタ陛下は昔から冒険者を遠ざける節があった。


 もう一つの理由は冒険者という存在が、あまり必要でなかったからである。

 トルマリン王国にはかつて『勇者』と呼ばれる存在がいたそうだ。

 しかも王族だったらしいその人が率いる騎士団はそりゃもう強くて向かう所敵なしで、国内の厄介事は全て騎士団で解決する事が出来た。

 冒険者の酒場は昔から存在していたし冒険者もいたのだが、そういった事から国民はあまり冒険者に頼るという事はしなかったのだ。

 だから規模は大きくならなかったし、冒険者に憧れる者も少なくてなり手がいない。だからあまり規模を大きくしても意味がなかったのである。

 

 そんな勇者もある時を境に姿を消した。

 こちらも理由は分からない。噂では悪事を働いて処分されたとも言われている。

 そもそも勇者と呼ばれる王族の姿も、名前も、肖像画どころか本にすら詳しい記載がない。

 確かなのは勇者がいた(、、)という事だけ。

 ……考えてみれば変な話だよな。悪事を働いた事が事実であっても、トルマリン王国が成り立っていたのはその勇者のお陰でもあるのだし。

 まぁ、今はその事は置いておいて――とにかく、そう言った事情でこの国では冒険者の酒場や冒険者は少ないのだ。


 あとは……そうだね。付け加えるならば他の種族が少ないというのも、あるかもしれない。

 トルマリン王国は人間が多い。別に人間以外に排他的というわけではないのだけど、人間が開拓した国で人間だけで治めていた時間が長かったからか、どうも他の種族から入りにくいという印象を持たれているのだ。

 国民も他の種族に慣れていないから、たまに他国からの使者としてエルフ族やリザードマン族などがやって来ると、興味津々に眺めている。

 決して嫌悪感を持っているわけではないのだけど、そういう視線を受けながら生活するのはちょっと……という気持ちになるらしい。


「時間も時間だけど、ほんと他の種族いないんだなーここって」


 歩きながら、すれ違う人をちらりと見つつ、ジャスパーが興味深そうに呟いた。

 夜も遅い時間帯なので出歩く人間自体も少ないけれど、それでもちらほらとすれ違う相手は全員人間だ。


「国境付近か、辺境の方ならもう少し他の種族もいるんだけどね」


 例えばアンドラの家であるダマスカスフィスト辺境伯領にはドワーフ族や竜人族がいるらしい。

 行った事がないから私も見た事はないんだけどね。

 ……そう言えば手合せの約束をしていたっけ。

 ちょっと楽しみだなぁ。

 

 そんな事を話しながら歩いていると冒険者の酒場に到着した。

 木造の比較的小さな建物には『冒険者の酒場王都支部』と書かれた看板が取り付けられている。

 窓から漏れる明かりの向こうでは見慣れた冒険者らしい装いの人間が、お酒の入ったジョッキを手に笑っているのが見えた。

 故郷にいるのに、何だか懐かしい気持ちが湧きあがってくる。

 ここに入るのは初めてだから緊張もするけれど、少しワクワクした気持ちで私はドアを開ける。

 カラン、と軽やかなベルの音が鳴る。中へ入ると私たちはフードを外した。


 冒険者の酒場の中は賑やかで、思ったよりも冒険者たちで賑わっていた。

 彼らは外から入ってきた私たちの方をチラリと見たくらいで、すぐに自分たちの話に戻る。

 多少は警戒されているみたいだな。

 そんな事を考えながら、依頼の受付カウンターに近づいた。

 カウンターの向こうには美人なお姉さんが据わっていて、私たちを見るとにこりと微笑んでくれた。


「こんばんは。初めての方ですね、今日はどうされました?」

「うむ、ちとマスターに用事があっての。ラリマーはおるか?」


 アイドがそう言うと、受付のお姉さんに代わって奥の方から大柄な男が顔を覗かせた。

 歳は五十代くらいだろうか。どしどしと足音を立てながらやってきた男は、


「おう、俺に用事かい? ……って、アイドじゃねーか! ひっさしぶりだなぁ!」


 とアイドを見て元気にそう言った。





 奥の部屋に通された私たちは、テーブルを挟んでラリマーと呼ばれた男と向かい合って座っている。

 彼は冒険者の酒場王都支部のマスターで、アイドの昔の冒険仲間だそうだ。

 冒険中の事故で腕に怪我をした事で武器が上手く握れなくなり、冒険者を続けて行く事が難しくなったので今は職員として働いているらしい。

 元々はシーライト王国で働いていたそうだが、こちらの国の王都支部のマスターが辞める事がきっかけでマスターに就任したらしい。


「へぇーなるほどねぇ。お嬢さんが噂の王子に横恋慕している御令嬢ってわけか」


 いや、まぁ確かにそういう設定なんだけど……。

 改めて言われると何だかこう、釈然としないものがあるなぁ。

 別に横恋慕っぽい事をした覚えはないし。


「それがアイドの冒険仲間ってのは意外だぜ。こんな驚きもってくるなんて、いやぁマスターやってみるもんだなぁー」

「良く言うわい、大げさに驚くフリをしおって。お前の事だ、大体の事は知っとるじゃろう?」

「ハハハ。バレたか」


 アイドの言葉にラリマーさんは笑って肯定した。


「ミスリルハンド公爵家の末の御令嬢は変わり者って話だからな。今まで見向きもしなかったのに、突然ダイヤ王子に絡みだしたなんて流石におかしいって」

「お嬢様の好みはシーライト王国顔ですからねぇ」


 アズはしみじみ頷いているが、それやっぱり幅が広いと思うんだよ。

 ラリマーさんは「シーライト王国顔」がツボに入ったようで、カラカラと笑っている。色んな方面に解せぬ。


「まぁシーライト王国(向こう)ともやり取りはしてるから話は聞いてるよ。お貴族様なのに冒険者に混ざって冒険したり、騒いだり、騒いだり、騒いだり」

「話が盛られている気がする!」

「「「大体合ってるだろ(でしょう)」」」

「声を揃えて同意する事なくない?」


 しかも何を言っているんだお前は、という眼差し付きである。

 おかしいぞ、私はそこまで騒いだりした覚えはないはずだ。

 確かにレアアイテムを見つけた時はテンションが上がるけど。


「ハハハ。まぁ、それでよ。落し物探すの日が暮れるまで手伝ったり、他のパーティの喧嘩に巻き込まれてひいこら言いながら仲裁したりとかよ。良い奴だって聞いてる」

「え!? あ、え!? え、ええーと……そ、それは、どうも……」


 最後に褒められて、何だか顔が熱くなってきた。

 ……ジャスパー、こちらを見てニヤニヤしないで頂きたい。


「まぁ若者を弄るのはこのくらいにしておいて」


 弄ってる自覚があったんですか、コノヤロウ。

 私がやや半眼になるとラリマーさんは笑って誤魔化して、話を戻した。


「で、グラススパイダーだったな。あれはトルマリン王国には生息してねぇな」


 ふむ、やはりそうか。

 となるとアルマさんを襲ったグラススパイダーは外から持ち込まれた事になる。

 誰が何の目的でアルマさんを狙ったのだろう。


「ただ――先月あたりに一度、裏で取引されているな」


 ラリマーさんが目を細めてそう言った。

 冒険者の酒場は一か月に一度、商業ギルドと協力して違法な取引が行われていないか調べているそうだ。

 ラリマーさんの話では、その時に取引されたリストの中にグラススパイダーの名前もあったらしい。


「どこに取引されたのかは調査中だが、そいつが今回の件に使われたんだとしたら、俺としては発見できて有難ぇが……使われ方が良くねぇな」

「コーラル王国からの留学生への暗殺未遂ですからねぇ……」

「暗殺に使うには毒としてはちと弱いの。じゃが、暗殺するならば何が目的じゃろうか」


 そこは確かに……。

 コーラル王国の留学生が、滞在中に命を落としたとなれば国際間の問題になる。

 けれどアイドの言うようにグラススパイダーの毒が命を落とす心配が――もちろん可能性としてはあるだろうが――ないならば、トルマリン王国とコーラル王国の関係を悪化させたいというわけでもなさそうだ。もちろん報告されれば安全面を指摘されるだろうが。

 何より、そもそも対立させたとしてもそれで得をする国が思いつかない。

 そうなるとダイヤ王子関係かなぁ……。


「アルマさん――その留学生はダイヤ王子の恋人らしいから、二人の関係を妬んだ相手がしでかした事かもしれない。今、学院でそういう人物は…………私か! 違う! 私ではありませんが!」

「お嬢ちゃんは噂通り賑やかだな」


 何故かラリマーさんに納得顔で頷かれてしまった。解せぬ。

 まぁそれはそれとして。アルマさんに嫌がらせ自体はあったらしいけれど、あれはズルタ陛下たちの仕業だろうし。

 便乗犯はいたかもしれないけれど、目立ってどうというものはなかったと思う。


「……そう言えばダイヤ王子ってモテるんだっけ」

「顔は整っておりますし、性格も基本的には優しいですし、地位もありますからね。恋人になりたいとまではいきませんけれど、憧れている方は多かったと思いますよ。……でも本当に興味がないんですね、お嬢様」

「うん」

「めっちゃ即答してる……」


 いや、だって私の好みはシーライト王国顔なので。

 あとジャスパーが妙に嬉しそうにしているのは何なのか。

 そんな事を考えていると、ラリマーさんが腕を組んで少し考えたあと、


「暗殺のセンも薄い、王子のセンも薄い、か。そうなると……自作自演って可能性もあるかもな」


 自作自演? アルマさんが?

 さすがに……どうだろう。そもそも、そんな事をする理由が分からない。

 それにエピドート教授がグラススパイダーの事を知っていたら、直ぐに……。


「あ」


 そこまで考えて嫌な可能性が浮かんだ。

 もしそうであるのならば。


「エピドート教授と協力関係にある……?」


 私が呟くと、アイドとラリマーさんが「なるほど」と呟き、アズとジャスパーが目を丸くした。


「こりゃちょっとコーラル王国に探り入れてみるか……」

「分かったら教えてくれ」

「ああ、いいぜ」


 アイドがそう言うと、ラリマーさんは「任せておけ」と頷いてくれた。

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