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第二十五話「直ぐに医者を!」


「今の声はアルマか?」


 その声に一番に反応したのはアンドラだった。

 どうやらアルマさんの悲鳴らしい。

 アンドラは「少し見て来る」と言って、席を立った。

 走って行くその背中を見ながら、私とアズは顔を見合わせる。


「何でしょうね?」

「悲鳴が上がる、というのはあまり良くない事態だとは思うけれど……」


 私は腕を組んで二階を見上げる。

 食堂の端にいるので、ここからだと流石に二階の様子は見えなかった。


「お嬢様、どうします? 見に行ってみますか?」

「いや、アルマさん絡みならば私は行かない方が良いと思う。王子もいるし、アンドラも見に行ったからね。何かあれば教授を呼ぶくらいは、まぁ」


 アズの言葉に軽く首を振ると、私はそう答えた。

 もちろん何が起きたのか気にはなるけれど、彼らから――というか学院全体からあまり良い感情を持たれていない私が行ったところで、余計に事態が悪化するような気がする。

 アルマさんの悲鳴、というのも、何だか嫌な予感がするし。

 危うきには近寄らず――冒険でも言える事だ。

 そんな事を思いながら、私が二階の方を向いていると、アルマさんを抱きかかえた王子が階段を駆け下りてくるのが見えた。

 王子の腕に抱かれたアルマ嬢は気を失っているのか、目を閉じてぐったりとしている。


「直ぐに医者を!」


 王子の言葉に、近くにいた生徒たちが弾かれたように走り出した。

 ……医者?

 どうもただ事ではなさそうだ。少しして、ダイヤ王子の取り巻きや、アンドラも二階から顔を出した。

 遠目でもはっきりと分かるくらいに表情が強張っていて、顔色が悪い。


「お嬢様、これは……」

「良くない事は確実のようだね」


 アズの言葉に私が小さく返していると、アンドラがこちらを向いた。 

 そして何やら「こちらに来てくれ」と手招きしている。 

 ……出来ればご遠慮したいものだが。

 正直に言うと、出来れば近づきたくない案件なのだが、他の取り巻きも周りの生徒達も、私の方を見るので動かないわけにはいかなそうだ。

 私はため息を吐くと席を立ち、二階へと向かった。

 生徒達の間を歩いているとヒソヒソと何かを話す声が聞こえる。

 内容は聞こえないが、アズがムッとしたようにそちらを見たから、良い話ではないのだろう。まぁ悪い話なんて聞こえないに越したことはない。

 そんな奇妙な空気の中、私は階段を上がって食堂の二階へと上がった。


「足を運んでもらって、すまない」


 到着するとアンドラが申し訳なさそうに言った。

 まぁ気になってはいたから良いけどね。


「いいや。それで、何だい」

「見て欲しいものがある」


 アンドラはそう言うと、右手で「見て欲しい物」を示した。

 その手の先を伝って行くと、食べ物やグラスが倒れたテーブルがある。

 恐らくアルマさんや王子たちが食事をしていた場所だろう。

 物は散乱としているが、特別何かあるようには見えない。

 私が首を傾げ、再度アンドラを見ると、


「グラスだ」


 と、言った。

 なるほど、グラスね。

 私はテーブルに近づいて、アンドラの言うグラスとやらを覗き込む。

 倒れたグラスの中に入っていたのは果実のジュースだろうか。薄紫色からすると、葡萄関係だとは思うが、さてこれが何なのか。

 テーブルクロスに零れた中身は、そのまま伝って床に落ちている。

 ふと、その中にキラリとした氷のような欠片が入っているのに気が付いた。


「これは……」


 もっと良くみようと、私はしゃがみ込んでそれを見る。

 小さな欠片であるため、この状況で溶けていない事から考えると、これは氷ではない。

 薬か、それとも毒の類か。倒れたアルマさんからすれば、その辺りなのだろうか。


「これを飲んでいる時に倒れたと?」

「そうらしい。俺はそういったものに詳しくないので、もしかしたらベリルなら分かるかと……」

「生憎と知らないものだ。それにこういうのは私よりエピドート教授の方が詳し――――」


 そう話していると、不意に視界の端でその氷のような欠片がぴくり、と動くのが見えた。

 ハッとしてそちらを向いた次の瞬間、氷から虫の足のような物が生え、それはぐん(、、)と一回り大きく膨れ上がる。


――――モンスターか!


 私は反射的にテーブルの上にあったナイフを掴むと、その欠片に突き立てた。

 欠片は甲高い音を立てると、足をピンと伸ばし、動きを止める。そのモンスターらしきものは、ナイフを刺した場所から黒く染まっていき、やがて黒水晶のような色へと変化していった。


「お嬢様、大丈夫ですか!?」

「おい、大丈夫か!?」


 駆け寄って来るアズとアンドラに、私は「平気だ」と答えて立ち上がる。

 王子の取り巻きたちもギョッとした顔をしていた。


「モンスターだったのか」

「ああ。石のようなモンスターは数が少ないから、調べれば分かると思うが……」


 腕を組んで私はそのモンスターらしきものを見下ろす。

 体が石のように出来ているモンスターは数が少ない。物珍しさから観賞用にと裏のルートで取引される事もあると、アイドから聞いた事がある。

 だが私が気がかりなのはそこではなかった。

 そういうモンスターは、トルマリン王国にもシーライト王国にも生息していないのだ。

 体が石のように出来ているモンスターは、純度の高い宝石や鉱石を有する鉱山に生息しているのである。

 トルマリン王国やシーライト王国も鉱山自体はあるが、そういうモンスターが住むほどのものはない。

 そういったモンスターが生息しているのは、多くの鉱山を保有し古くから鉱石や宝石の取引で栄えたコーラル王国なのだ。

――――つまり、アルマさんが来た国である。

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