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第二十話「だって、たまにはいいじゃない! 皆と酒盛りしたいんだよ!」


 グランドメイズから救助された私たちは、シーライト王国の王城に案内された。

 王城に到着するとライト陛下が飛んできて、


「もー、ほんと、無事で良かったよ!」


 と、私たちの無事を喜んで下さった。陛下の側近のアラゴナさんも「ご無事で何よりです」とほっとした顔をしてくれた。

 心配をかけて申し訳ないと思いつつも嬉しかった。

 思わず少し照れていると、ジャスパーが何とも言えない顔でこちらを見て来たが、何だというのだろうか。


 まぁとりあえずそれは置いておいて。

 それから健康診断を受けた私たちは、トルマリン王国に戻るまではそのまま王城でお世話になる事となったのである。

 お風呂まで貸して頂けるとのことで、数日ぶりにしっかりと身体を洗える事が嬉しい。 

 ちなみにアズが入浴の手伝いをしようとしてくれたんだけど、アズだってお風呂に入りたいだろうし、どうせなら一緒に入らないかと誘ってみたのだが、


「えっさすがにダメですよ、お嬢様!」


 とアズからは何度も断られた。

 けれどもこういう――周りの目を気にする必要がない――機会は滅多にないので、私は引かなかった。

 アズはしばらく唸っていたものの、最終的には根負けしたという形で、一緒にお風呂に入る事になった。 


 そうして二人でやってきた王城のお風呂は想像以上に広かった。

 大浴場と言っても良いくらいである。

 実際に、たまにではあるが国民に向けて大浴場を開放する事もあるのだそうだ。

 発案者であるライト陛下曰く、


「だって、たまにはいいじゃない! 皆と酒盛りしたいんだよ!」


 という事らしい。

 『皆と』という辺りがライト陛下らしいなぁ。

 ちなみにお忍びで町に降りて騒ぐと怒られるので、それならば大々的に行ってしまおうなんて考えた結果でもあるらしいのだけど。

――そんな話を以前に、アラゴナさんがなかなか怖い笑顔を浮かべながら教えてくれた。

 どっちみち怒られたんだろうなぁ……。


「うーん、それにしても疲れましたねぇ。私、今回はヤバイなーって思ってましたよー」


 お風呂に浸かったアズが大きく伸びてそう言った。

 確かに私もそう思った。

 何せ武器もほとんどなく、食料もない状況でグランドメイズの下層に飛ばされたのだ。

 モンスターを食べて――なんて言ったは良いものの実際にはそう上手くはいかない。ジャスパーたちが救助に来てくれなかったら遅かれ早かれ餓死していた事だろう。

 救助に来てくれたジャスパーたちもだけど、ダンジョン底のラブラさんにも本当にお世話になった。


「振り返って見れば色々と運が良かったね。それにアズが一緒で本当に良かったよ」

「お嬢様に褒められた、やったー!」


 喜ぶアズを見て私も嬉しくなる。

 でもこれは別にお世辞ではない。

 実際にアズが一緒にいてくれなかったら、あの状況は悪化していただろう。アンドラを抑えてくれたのもアズだったからね。

 ……そう言えば、あの時アズはどうやってアンドラを大人しくさせたんだろう?

 ふっと気になったのでアズに聞いてみる事にする。


「そう言えばアズ、グランドメイズでアンドラに何を言ったの?」

「え? ああー……まぁ、そこはこう……侍女パワーと言いますか」


 侍女パワーとは一体。

 私が頭の上に疑問符を浮かべていると、


「ま、まぁいいじゃないですか! 無事だったんですし!」


 と誤魔化されてしまった。

 う、うーん。余計に気になるな……でもアズが話したくなさそうな雰囲気だし。

 何となくだが聞かない方が良い話なのかもしれない。

 ならばこれ以上の追及はしない方が賢明だろう。


「それにしても、その侍女パワーのおかげでアンドラも落ち着いて良かった」

「あ、あはは……。……でもアンドラ様、最初の頃と印象が変わりましたよね」

「そうだねぇ。まぁあれは私も悪いというか……」


 グランドメイズで話した時、アンドラの言葉からは家族に対してのコンプレックスが見えた。

 だから私が拳一つでアンドラを沈めた時に――恐らく彼は焦ったのだと思う。アンドラはきっと必死だったのだ。

 そういう感情は私も良く分かる。

 私もミスリルハンド家の中ではあまり目立った存在ではないから。


 今まで私は家にもトルマリン王国にも自分の居場所がないように感じていた。

 私は家族や兄弟のように立派で優秀な人間にはなれない。

 私だって小さい頃は兄や姉のようになりたくて頑張ったよ。

 ……でも無理だった。私は可もなく不可もなくのライン上を逸れずに進む事しか出来ない。

 頑張っても、頑張ってもどうにもならないそれが苦しくて、私はシーライト王国へ逃げるようにやって来た。

 ここは自由で、どんな自分であっても受け入れてくれたからだ。


 ――だけど今回の一件で、それが自分の思い込みだったという事を知った。

 私にお茶会をする相手がいると聞いた時、家族や屋敷の使用人たちが、あんなに喜んでくれるとは思わなかったのだ。

 ずっと私なんてどうでも良い存在なのだろうと思っていたから。

 彼らの笑顔が嬉しくて――――同時に少し申し訳なかった。

 だから色々あったけれどアンドラには感謝している。


「あの方、面倒くさいけど、真っ直ぐな方ですよね」

「嫌いじゃいられない人だよねぇ」


 たぶんアンドラは不器用なだけなのだろう。

 そう話すアズの目が何だかとても優しく見えた。

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